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バ革命  作者: 、、
〜不可侵の救出戦線編〜
15/96

#15 ヘッド・オン・パンツ

「充電器ー、着替えー、ラノベー、漫画ー、歯磨きセットに財布はポケット入れてー…後は…」



朝七時、夏休みも一週間が過ぎ今日は前から予定してた旅行当日。

ここ最近では朝食が昼食になってしまうくらいまで寝ていた天条心二(てんじょうしんじ)にとってはとてつもなく早起きの朝となった。


「しんくーん、時間は大丈夫なの?」


ひょこっとドアの前には今日から友達の別荘で泊まらせてもらう予定の姉、天条紅空(てんじょうくれあ)。どうやら様子を見に来たみたいだ。


ちらりと部屋に置いてる時計を確認するとまだ八時を少し過ぎた位置を針が指していた。


「だいじょーぶだいじょーぶ。集合は8時半だし駅には十分あれば着くよ。姉ちゃんこそお泊まり会今日だろ?時間大丈夫なのか?」


「私は夕方からだよーん」


言いながら紅空は心二の旅行鞄を覗く。

一通り確認し終えると、むむぅ?と首を(かし)げる。


「どしたの?何か足りないものでも?」


「ゴムは?男女で泊まるんだし…あ!ちゃんと心に決めた子にしかやっちゃダメだよ?ゴムをしても確実に避妊できる訳じゃないんだから…乱交なんてお姉ちゃん許さないから!」


「そんじゃ行ってくる。」



今日から三日間。心二たちを待っているであろうドキドキワクワクの日々に胸を弾ませて駅へ向かった。






十分ほど歩いただけなのに額からは汗が頬を伝う。

蝉の鳴き声を背にだらだらと歩いていると、ようやく待ち合わせ場所の最寄り駅に到着した。

腕時計に目を落とすと長針は五の文字を指していた。



「…五分前か。」




辺りを見渡しても先に来て待っている連れはいないようだ。


「んー、菜川とかくーちゃんなら来てても良さそうな時間帯だけどなぁ」


真面目な部類に入る菜川李女(なかわりな)弥富深海(やとみあくあ)さえも来ていないとなると……

心二の脳裏に不安がよぎった。



「待ち合わせ場所、ここであってるよな?」



確かにこの小泉駅集合のはずだ。待ち合わせ場所の話をしたときに「やったー!オレの最寄り駅じゃーん!ギリギリまで寝れるー!」と喜んだ覚えがある心二の記憶は間違ってなどいないはずだ。


「………ま、結局そわそわして八時に起きる予定だったのに七時に起きちまった」


「流石に八時起きは間に合わないだろう。」


心二の一人言にツッコミをいれた声の主は、心二が背を向けていたトイレから出てきた二人の内の一人のものだった。


「……えと。くーちゃんに………菜川か?」


印象的な金髪はすぐにくーちゃんこと弥富深海やとみあくあだと分かったが、肝心の心二にツッコミをいれたであろう片方の女の子の顔と名前が一致しなかった。

そんな自信のない呼びかけが勘にさわったのか頬を膨らます李女。


「………何故私は疑問系なのだ。」


「あ、いや。だって……いつもと全然違うから…」



普段の制服とジャージ姿しか見たことがなかった心二にとって、李女の私服は新鮮さを与えた。


(おっと、ここは気の効いた言葉をかけるシチュエーションじゃなかろうか?)


突如(とつじょ)舞い降りた使命感に駆られた心二。


「か、可愛いな二人とも!に似合ってるよ」


少々噛んでしまったが、言うべきことを言えてご満悦な心二。


「そ…そうか?あ、ありがとう。」

「………サンキュー心二。」


二人も喜んでくれたようで更に悦に(ひた)る心二。

五分前の集合場所には現在三人。

あと五人が来ていない状況だ。



「……そういえば、奏也くんをさっき売店で見たわ。そろそろ来るんじゃないかしら。」


深海からの目撃証言に心が踊る心二。

奏也こと太刀川奏也(たちかわかなや)は知り合ってから三ヶ月が経とうとしているがまだ休日に遊んだことがない。

というのも奏也はバイトをやっているため、なかなか休日に予定が合わなくて遊べないでいたのだ。


奏ちゃんのあだ名を持つだけあって、外見の美形っぷりはそこらの女の子も脱帽せざるを得ないほどだ。

しかし、現実は男だ。

トイレで奏也の男の勲章も確認済みだったりする。


お、お前…実は女の子だったのか…!?なんて某主人公の友達が少ないライトノベル的な展開は期待できない。


それでも、心二は期待していた。



「やー、悪い悪い。ストックの豆乳が切れとってな わい、朝は豆乳飲まな元気でんのや」


豆乳片手に手を振る美少年か美少女かどっちで表現すればいいのか迷うほどの美形人間…すなわち太刀川奏也がこちらへ近付いてくる。


「…………よ、よぉ!奏也!」


「おはよ〜心二!」


……案外普通に半袖半ズボンの少年のような身なりだった。



続いて遠くからでもわかる印象的な金髪が確認できた。



「うっす。おはよーさん」


目下にくまを作った金髪少年、垣峰守郎(かきみねしゅろう)は気だるそうな挨拶と共に大きな欠伸(あくび)を一つ。


口々に挨拶を返す皆を代表して豆乳をストローで吸いながら奏也が聞いた。


「………守郎は眠れんかったんか?」


「あぁ、そわそわして眠れなかった。」


(なにこいつ。小学生なの?)


心の中で嘲笑いながらバカにする心二。


続々と集まっていくいつものメンバー、略していつメンも残るは今西優璃(いまにしゆり)古旗由美(ふるはたゆみ)、そして狭山陽志(さやまようし)の三人だ。


「む?あれは優璃ちゃんじゃないか?」


指差す李女の指先に目を向けると何やら全力疾走してくる優璃の姿が見えた。

目を凝らせば優璃の後ろを何かが追いかけてる。


「なにやってんだ?あのバカコンビ。」


守郎の言ったバカコンビこと優璃と由美の二人は皆の視線の先で追いかけっこしていた。


耳を澄ませば二人の声も聞こえてくる。


「だぁぁぁぁ!優璃ぃぃぃ!!今すぐウチのパンツ返せぇぇぇ!!!」


「由美もあたしのブラジャー振り回して遊んだじゃん!ブラジャーの恨み、晴らさでおくべきか!!」


「「「「「………………………。」」」」」




挿絵(By みてみん)





駅前の人通りのある広場で下品な大声を撒き散らす馬鹿(マイフレンズ)がこちらに気付いて駆け寄ってくる。


(他人のふりをしたいっっ!)


恐らくその場にいた全員、そんなことを思っていただろう。


とりあえずパンツ持った手でこちらに手を振らないでほしい。





「いたいっ!!」


おいたをした優璃と由美に軽めのチョップを登頂部に食らわせてやる心二。


「お前らは女の子の自覚を持て!まったく体はこんなにも大人なんだから」



「いやいや、あたしはともかく由美のどこが大人らしい体なんだか…」


ぷふっ、と優璃が由美を嘲笑う。


「優璃ぃ…もう一回ブラジャーを宙に舞わせてあげようか?」


「由美こそ…今度は頭にパンツ被りながら国道沿い走り抜けてもいいんだよぉ?」



(優璃のは自分が怪我するだけだと思うが。)


そしていつのまにやら最後の一人、狭山陽志が来ていた。


「ったくよ。来てみれば奇行で目立つバカ野郎のせいで合流し辛かったじゃねぇか」


「てめぇ。自分だけほとぼりが覚めるまで隠れてやがったな…」



火花を散らす守郎と陽志。

そそくさと切符を買いにいく奏也と李女と深海。

未だパンツやらブラジャーやら言いながら後を付いていく優璃に由美。

なかなかに過激な三日間なりそうなよ予感に(さいな)まれつつ、彼らは目的地の県庁、奈良市行きの電車へ乗車する。





電車内での恒例イベント、お菓子交換が始まる中、突如として奏也がこんなことを言い出した。


「わい思うんや。オタクって言葉を悪口として使い過ぎやて。」


その一言に超反応を見せる心二、守郎、優璃、由美。


「わかる!わかるよ奏ちゃん!!」


「せやろ!せやろ!」


いつもは奏ちゃん呼びにツッコミをいれる奏也がスルーした。これはなかなか珍しい。


「………確かにな。オレが中学の時もラノベ見てただけでオタクだの何だのと……鳥山の野郎。テクノブレイクで死なねぇかなぁ。」


守郎が自身の体験を話しだした。


「ウチもね、ちょっと表紙が肌色多い漫画読んでただけでクラスのLINEでオタクオタクって盛り上がられるの……なに高須の奴、一年間毎日生理痛で苦しめばいいのに!」


守郎に続いて由美も実体験を吐露した。


「だよなぁ。最近の奴らってアニメ見てるだけでオタクとか言う奴いるよな。なにあの風潮。」


「そやそや!何でそれだけで悪口みたいにオタクって言われなあかんねん!」


討論がヒートアップしていく中、会話に入らない者が二名。


「………なぁくーちゃん。最近のアニメ話に着いていけるか?」


「……そうね人並み以上にはチェックしているつもりよ」



李女の質問に深海はさらさらと答えた。


「心二たちの言ってることに共感できる部分はあるか?」


「……確かにアニメを見ているだけでオタクと指差す風潮は気に入らないけれど…私は気にしないし。オタクって今でこそ悪口みたいに捉えられてるけどそこまで没頭できる趣味を持ってるのは誇らしいことだと思う。」


その深海の言葉にこれまた超反応を見せ繰り広げていた討論を打ち止める五人。


「くーちゃん!アニメ見るの!?」


「好きなアニメとかあるんか!?」


「んー、結構前だけど『バカとテストと召喚獣(しょうかんじゅう)』かしら。初めて手を出したライトノベルでもあるから思い入れがあるし……」


「おぉーー!バカテスやと!分かるわくーちゃん!」


「そういう奏ちゃんは何のアニメが好きなんだよ?」


奏也の好きなジャンルの作品を聞き出すに絶好のチャンスを見出した心二はすかさず尋ねる。


「断然、わいは『極黒のブリュンヒルデ』やな!グロいけどその分明るいシーンとか女の子とかのかわええシーンが映えるし、ストーリーもおもろいしな!同じ作者さんの『エルフェンリート』も大好きやで」



「…………くーちゃん、私は進撃の巨人くらいしか知らないのだが。」


「李女ちゃんもアニメ見てみればいいんじゃないかしら?李女ちゃんみたいな人にはギャグ色の強い作品を勧めるよりまずは『ひぐらしのなく頃に』をお勧めする。あれは泣けるわよ。」


「……ひぐらし?蝉の物語か?そこはかとなくほのぼのしてそうなアニメだな!今度レンタルしてこよう!」




「……………お前ら。何年前のアニメの話をしてんだよ」


やっと口を開いた陽志。

それと同時に電車は目的の駅へと到着した。





駅から出ると広場にはそこらじゅうに鳩が群れていた。


「うわーー!鳩だ鳩だー!!」


優璃と由美は子供みたく鳩にテンションを上げていた。


「陽志〜、ここからどう行くの?」


旅館の場所を尋ねる心二。

すでにスマートフォンの画面を滑らせていた陽志はちょっと待ってろ、と一言。


「ん〜、ここからちょいと歩くぞ。」





人通りのあった道から人気のない道に切り替わってから数十分、目の前に年季を感じさせる建物が見えてきた。


「着いたぞ。」


女子陣はさっそく館内へ入っていく。


そんな中、心二は迷わず旅館の裏手へ回った。


「ん?心二どこ行くんだ?」


心二の突然の不自然な行動に守郎が気付く。それに続き奏也、陽志も気付いた。


「いや、姉ちゃんに聞いたんだよ。この旅館が安いワケってやつを。」


はてなを浮かべる守郎達だったが、裏手に回ると全員が納得したように目を見開いた。


「……こりゃぁ、値段が下がるわけだな。」




挿絵(By みてみん)





正面から旅館を見た限りでは、後ろに森が見える程度だったが、建物に隠れていた裏手には広すぎるくらいに墓場が広がっていた。


「はぁ、旅館の正面写真しか載せられてなかったからな…見落としちまったか」


陽志のため息が漏れる。


「え?そんなに気にすること?肝だめしとか出来ていいじゃん」


「そうは()うがな心二よ。女子たちがどう思うかやで。苦手な子もいるんやないかってことや。」


それもそうか、と納得する心二。

確かに女の子も泊まる以上はそう言う事も考えなければならない。


「とりあえず戻ろうぜ。女子たちに話す必要があるしな」


守郎の提案に心二たちは無言で頷き、館内へ入る。





優璃達と合流するべく館内へ入る心二達は難なく彼女らを見つける。受付を済ました優璃はどこ行ってたんだよ……的な表情を向けてくる。

心二は早速、裏手の墓場地帯のことを明かす。


「え!この裏お墓なの?」


最初に反応したのは案の定優璃だった。


「……………まぁ、別にいっか!受け付けも済ませちゃったし。夏らしくていい感じじゃない?」


「その通り!胆試しとかできるしね!」


相変わらずバカコンビこと優璃と由美のテンションは実にポジティブに墓場のことを捉える。

深海も特に問題は無さそうに涼しい表情を浮かべていた。李女の引き攣る表情は優璃の抱擁によって誤魔化される。

……結局、この曰く付きの旅館に泊まることとなった。




「それより!まずはお昼ご飯を用意してくれてるみたいだから食堂へ行こう!!」


手を高らかに挙げて宣言しながら食堂へ歩いていく優璃。

それに由美、深海、李女も続く。


心二はその場に立ちすくみ優璃の後ろ姿を見つめる。

最初に会ったとき、初対面で強張(こわば)っていた心二にあの優璃の持ち味とも言えるハイテンションに背中を押されて積極的に知らないクラスメイトとも話ができて…今の友達関係が出来たんだろうな。

そんなことを思い出していた。


優璃なら、どんな逆境でも跳ね返してみせそうな期待を…ついつい抱いてしまう。


ふと、守郎の手が心二の肩に触れた。


「…………オレらも行こうぜ」


「せやせや」


「あー、腹減ったぁ…」


守郎、奏也、陽志が次々と食堂へ向かう。

何をシリアスに(ひた)っているのか、心二はとびきりの笑顔を作った。


「………………お、おう!食うぞー!!」



楽しい旅行記。一日目のページを繰る。

タイトルを付けるなら……『痛快』、だろうか。

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