#14 日常に潜むプロローグ
天条心二は机に顔を伏せていた。
耳にはクラスメイトの喧騒が無意識的に入り込んでくる。
七不思議の一件から二ヶ月。
その間に定期テストが行われた。
その内の期末テストの答案返却が現在置かれている心二の状況である。
テストの成績が重要となる戦科試合では、少しでも点数を上げるべく勉強する生徒は珍しくない。戦科試合も内申点に深々と関わってくるのだから。
「心二〜、点数どうだった?」
明らかに力尽きた顔を浮かべ心二の机で心二と同じように顔を埋める今西優璃。
「………って近いい匂い!!」
「ん?もっと匂う?」
手を前に差し出しまるで「さぁ、飛び込んでおいで!あたしが抱き締めてあげる」と言っているようだった。
「……………タダ?」
ちっちっち、と優璃は人差し指を小振りに振る。
「もちろん心二にはあたしの純潔な体を授けるんだから諭吉十枚は欲しいところだよ!」
「代償が大きすぎるわぁぁ!!!」
確かに処女の女の子の体ほど純潔が似合うものはないだろうけど。
「そもそも、優璃の処女を誰が奪うと言ったん…………」
心二が言い終える前に頭部を何者かに叩かれる。
「授業中にお前は何を大声で口走ってんだ。」
頭を擦りながら振り向くと呆れ顔の垣峰守郎が立っていた。
気が付くと回りの女子達の冷たい視線を感じた。
「だいじょーぶ心二!うちは引かないから!!」
その女子達の中から唯一心二に近寄り声をかけてくれた古旗由美、そして二ヶ月前の七不思議の一件から話すようになった一年三組の女子学級委員の菜川李女は顔を赤らめながらも回りの女子みたく冷徹の如く視線を向けたりはしなかった。
「心二。古旗はこう言っとるけどな、少しは回りの女子を意識して喋らなあかんで?」
関西弁の混じった親しみやすそうな口調の美少女……いや美少年、太刀川奏也は先ほどの心二の無神経な発言を咎める。
「おーおー、悪いな奏ちゃん」
奏ちゃん、という言葉に反応し、目を凄ませる。
「奏ちゃん言うなって言うとるやろ!」
その美形な顔で作られる怒り顔ももはや心二にはご褒美となった奏也のコンプレックスはその女子顔負けの美しいルックスにあった。
それ故あだ名も女の子を意識してなのか、いつの間にか奏ちゃんと呼ばれるようになった。
「えー、いいじゃん!もうそのあだ名で馴染んじゃってんだから~」
頭を抱え「慣れゆうのは恐ろしい」と呟く奏也。
少々騒がしくなった教室内を静めようと担任教師の花江幸は席に着くように促す。
「えー期末テストも終わり、いよいよ明日から夏休みが始まります。」
テストで沈んでいた斜め後ろの席からガタッと物音がした。恐らくテストの点で沈んでいた優璃のテンションが上がった瞬間だろう。
高校生活最初の夏休み。
高校から知り合った優璃たちとの夏休みを思うと今からでもテンションが上がってくる。
「まず最初に、夏休みの宿題を配布しま〜す」
「…………………。」
配られた宿題は結構量があり、せっかくの生徒たちの夏休みテンションをさっそく下がらせた。
テスト返却が終わり、午前中に下校できた心二達は放課後にファストフード店で夏休みの計画を練っていた。
「やっぱりやっぱり旅行は外せないよね!沖縄とかで旅行ーー!きゃーーー!!」
あの宿題の量を見せられてもこの半端ないテンションを引き出せる優璃は流石といったところだろう。
それに便乗し由美もテンションを上げる。
普段からあまり表情を顔に出さない方の李女と隣の一年四組の弥富深海だが、少し口角が上がっている。
やはり楽しみなのだろう。
……男子陣はというと。
「沖縄って……。ここ奈良県だぞ?いくらかかると思ってんだ」
夢を見る女子陣に現実を叩きつける守郎。
心二達が住まうところは県内の中ではやや都会と言える地域なのだが、やはり沖縄に行こうとなると万単位の金が飛んでしまう。
「やけど旅行言うのはわいは賛成やでー!なぁ心二!」
奏也はというと優璃の旅行の言葉に賛同し心二に話を振る。
「そうだなぁ。低予算で旅行に行けるなら…なぁ。」
そんな心二の呟きに深海と同じく四組の狭山陽志はさっきからいじっていたスマートフォンの画面をその場の全員に「こんなのどうだ?」と言いながら見せた。
一斉にみんながスマートフォンの画面に視線を注げた。
「えー?なになに、旅館の記事?」
見ればそれは奈良県の旅館紹介サイトだった。
紹介されている旅館の画像に宿泊費が載せられていた。
「露天風呂付きの温泉地…。一泊四千円!?これはなかなか良いのではないか?」
李女の驚きように心二が驚く。
守郎もこれはたまげたと言った顔をしている。
「ん?安いの?四千円だよ?」
そんな心二の問いに呆れる守郎。
「そんなにオレに呆れてて楽しい?」
「お前が呆れさせるようなことを言うんだろうが。」
「よし!それじゃここの旅館に来週末辺りに旅行へいこ〜〜〜!!」
優璃の提案に「お〜!」と由美が両手を挙げて賛成する。
他のみんなからの異論も出ないまま、今日はお開きとなった。
「なにか隠してるよね?しんくん。」
就寝直前に心二の部屋をノックしてきた姉、天条紅空の開口一番の一言だった。
「な、なんだなんだ藪から棒に。」
隠してること…思い付くのはやはり夕方にみんなで話し合った旅行についてだろう。
「な~にを隠してるの?」
既視感を感じた一言だったが今回は七不思議の時みたいに表情を無にしたような顔で迫るなんてことはしてこなかった。
何かしらバレているようなので素直に吐くことにする。
それにしても、紅空はいったいどこから情報を仕入れているのか。今回のことはフォストフード店で堂々と喋っていたので彼女の知人から聞いたと言う可能性がないわけではないが。
七不思議の件でのことはまだ疑問が残る。
心二と李女が目撃した七不思議の幽霊…基守護モンスターと対峙したことはその場いた人間以外知らない。無論、あの時いた者は心二と李女の二人だったはずだ。
そもそも…学校へ侵入した時だって……
「しんくん!何黙ってるの?」
頬を膨らませ心二の返答を急かす。
わかったわかった、と心二はため息混じりに旅行の話を切り出す。
「へー。しんくんたちも旅行に行くんだ。」
来週の旅行についての話をすると素っ気ない返事が帰ってきた。
「も?………って、姉ちゃんも来週旅行行くの?」
「そ!旅行って言っても友達ん家の別荘にお泊まりさせてもらうだけだけどね」
言い終えると紅空は神妙な表情を浮かべながら視線を地に落とした。
「ん?どしたの?」
その視線が気になった心二は思わず訊いてみる。
あー、いや。と何か言い辛そうに言葉を濁す。
「…………しんくん達が泊まる旅館、確か目の前に大きな墓地があるんだよ。宿泊費四千円って言うのは、立地の環境が関わってるんだろうね」
やっぱ四千円ってのは安いのか?と思いながらも紅空の言葉にふーん、と相槌を打つ。
「ま、胆試しとか出来そうだし、優璃辺りは喜ぶだろうよ」
別段気にすることでも無いように能天気に振る舞った。
「まぁ、何かあったら武器召喚するんだよ?指輪一つでバーチャルシステムがいつでも使えるようになったんだから」
「りょーかい、おやすみ」
眠たくて仕方がないのかだらしなく欠伸をしながら紅空に背を向け扉を閉めようとドアノブに手をかける。
「うん、おやすみ!」
扉を閉めると真っ先に電気を消してベッドに横になる。すぐさま眠りに落ちた心二にはもう何も聞こえない。
刻々と、不幸の足音が近付いてきているのにも気付かずに。
かくして、旅行当日の日はあっという間に訪れた。
第3シリーズ開幕です。
リアルの都合が少々多忙でして、少し時期が空いてしまいましたが今シリーズも最後までお付き合いいただけたら幸いです。
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