#12 明かされる真実
守郎は七不思議の内の一つである屋上にいた。
どの季節でも夜に訪れる屋上に対する感想は一貫して肌寒い、の一言ではないだろうか。
そんな守郎は季節問わずポケットに手を突っ込んだスタイルでこう告げた。
「いるんだろ?わざわざ一人になってやったんだ、出てこいよ。」
守郎の呼びかけに反応する人影が屋上の入口からぬっと出てきた。
「成績は悪いくせに、妙なところで頭の働く奴だ」
野太い声の主はいつもの狂戦士バーサーカーの様な瞳で睨み付けながら現れた。
生徒指導のため連れて行かれる度に目にしている仕事着が月の明かりに照らされて、ついにはその男の顔の表情が肉眼で確認できる明るさの範囲にまで男が近付いてきてから、守郎は再び呼びかける。
「………鬼神勇次郎おにがみゆうじろう。」
「要するに…矛盾ってのは」
広々とした屋上前…生徒の間ではシンデレラ階段と呼ばれる大階段に心二たちは佇たたずんでいた。
紅空の言った「ここの環境と七不思議の舞台の矛盾。」それらが導く答えは大階段先の屋上を指していた。
「そもそも校内限定で機能しているバーチャルシステムが七不思議の舞台なのが前提の時点で屋上が含まれるのは確かに矛盾してるって訳だな」
先ほど明らかになった七不思議の正体がバーチャルシステムが従える守護モンスターだった事実を照らし合わせれば自然とわかることだった。
七不思議の舞台が守護モンスターの配置場所なのだから校外の屋上で守護モンスターを置ことは不可能。
「そう考えれば、守郎が守護モンスターに連れ去られたってのは消去法でなくなるよね!………って、なに心二その目は!!」
「うむ。守護モンスターを倒した保健室前で行方不明になった守郎を連れ去る者などいないはずだからな。」
優璃が“消去法”なんて数学的な言葉を発しているのに感心している視線が読み取られたのにビックリした心二を横目に李女は優璃の推測に納得したかのように考えを纏まとめる。
「それじゃ………」
紅空は立ちはだかるシンデレラ階段を見据え歩を進める。
屋上とシンデレラ階段とを阻む重々しいと扉に手かける。
扉は力を込めることなくスムーズに開くことができた。
やはり推測通り屋上に出た瞬間にバーチャルシステムによる影響が完全に遮断され、コード展開によって妖精と狐に姿を変えた紅空と李女は元の私服姿に戻った。
そんな事実確認よりも視線を引き付けた存在が屋上にいた。
捜していた垣峰守郎かきみねしゅろうと、そして………
「…………げ。鬼神ぃぃ!?」
心二の声にガタイのいい巨体が振り返る。
間違いない。あの狂戦士バーサーカーのような鋭い眼光。
「ちょうどよかった。ついでだ、お前たちにも話しておこうか。」
こんな時間に校内へ忍び込んだ罪で強制連行かと思いきや、鬼神からは意外な言葉が発せられた。
「……………話すことですか?」
紅空が聞き返す。
鬼神の後ろでは守郎が棒立ちでこちらを……いや、心二をまっすぐ見ていた。
「…………?」
守郎からの視線を気にしながら、鬼神の紡がれていく言葉に耳を傾ける。
「実は明日、全国で『ある計画』が実装される」
野太い鬼神の声が自然と緊張感を与えてくる。
『ある計画』。その正体に心二たちは目を見開いて驚愕する。
「そのある計画というのが、バーチャルシステムの日常化だだ。」
「…………………………………」
夜の屋上に沈黙がのし掛かっていた。
つまりバーチャルシステムをどこでも機能させることができる、と理解していいのだろうか。
もし、それが本当なら……自分のバーチャル体を持ってさえいれば時と場所関係なく武器を召喚できたり戦ったりすることができるということだろうか。
まさにゲームの世界観を現実で再現できるシステム。
「マ、マジでか鬼神…先生!」
一年生の学年主任に位置する鬼神の発言だ。嘘偽りなどあるはずもない。
つまり、明日にはバーチャルシステムの日常化がおとずれるのだ。
「もちろん、常時バーチャルシステムを機能させているわけではない。」
そう言いながら鬼神はポケットから夜でもはっきりとわかる紅蓮のような赤色の指輪を取りだし中指に挿入する。
そして指輪の石の部分を二回タッチする仕草を取ると、突如として場の雰囲気が変わった。
比喩的な意味ではなく、目に見えるレベルで雰囲気が確変しているのだ。そう、まるでさっきまでのバーチャルシステムが機能している校内とどこか似ているのを感じる。
「……………まさか。」
そう疑いながらも心二はいつもの戦科試合で武器を召喚するように右手に意識を集中させる。
すると呆気ないくらいに心二の右手には見慣れた愛刀が握られていた。
「嘘だろ…!?ここはバーチャルシステムが機能してないんじゃ……」
心二の右手に視線が集中しているのがわかる。バーチャルが干渉しない空間でバーチャルで構築された人を傷付けるための禍々しい片手剣が存在しているのだ。
それはあまりにも場違いな物であった。
「明日にお前らにも配られるこの『次元石』と呼ばれる指輪がいついかなる場所でもバーチャルシステムを次元石の石の部分に二回タッチするだけで展開が可能だ。」
守郎は先ほど聞かされたのか驚いてはいないようだがもう明日からの状況を受け入れたのかと思うと謎の感心を覚える。
「バーチャルシステムの日常化により、自分に身の危険が迫るとバーチャルシステムを機能させることで現実の危機を回避できることが数年ものバーチャルシステムの研究でわかった。メリットこそあればデメリットは皆無………って話だ。」
あまりに淡々と話が進められていく中、現実味のある話を聞かされようやく唖然としていた心二に余裕が生まれる。
「守郎は…どう思う?この話」
「どう思うも何も鬼神センセーがこんな狂戦士みてぇな面で言ってんだ。本当なんだろう」
狂戦士の如く戦闘力でなぶり殺しにしてやろうか?みたいな目で守郎を睨み付ける鬼神を素通りしてこちら側に歩みよる守郎。
心二の眼前まで近付くと、耳打ちする。
「心二、こりゃぁチャンスだ。」
「…チャンス?」
守郎の言葉の意味が汲くみ取れず聞き返す心二。
「学歴社会のこのご時世。バカは蔑さげすまれ裏では平等のはずの生徒間では金を巻き上げるやつなんかも現れだした。」
心二は数日前の橿場直之かしばなおゆきの件を思い出す。彼は成績優秀者エリートである自分自身を絶対と思い込み、自分より成績の悪い生徒から有り金を当たり前のように脅し、奪い取っていた。
「だが、オレ達バカでも成績が勝敗を左右する戦科試合で勝てる可能性だってあるんだ。」
実際、二体一ではあったが心二と守郎はに勝利できた。少なくとも普通に成績で橿場達成績優秀者に勝とうと思うよりは断然戦科試合の方が勝つ可能性がある。
「橿場の奴。オレ達に負けてから完全に成績優秀者としての居場所を失ってやがった。オレたち劣等者バカが成績優秀者エリートに勝つだけで、奴らを相当に落ち込ませることができんだ」
そこまで言って、心二は守郎の言わんとしていることを理解した。
「これは、革命だ。バカ達のバカ達によるバカ達の革命!」
守郎は展開中のバーチャルシステムを利用し、自身の剣を召喚する。
そしてそのまま鬼神に斬りかかる。
すぐさま鬼神の手からはバカでかい斧を呼び出し守郎の剣に相激を狙い互いの刃をぶつけた。
「………………!?」
守郎の斬激が鬼神の斧に触れた瞬間、均衡に力比べの硬直状態そすらならず、のまま吹守郎の体がふっ飛ばされた。
屋上の鉄柵に背中を打ち付ける守郎は不思議と痛そうな仕種はしない。どうやらバーチャルバリアが働いているせいか、痛覚は完全に遮断されているようだ。
「……やっぱ教師ランクには敵わねぇか…」
守郎のろのろと起き上がると心二に視線を向ける。
「つまり守郎、こう言うことか。このバーチャルの日常化が実現したら、いつでも成績優秀者共に勝負を挑むことができる!」
心二は守郎の言わんとしていることの核心をはっきりと言葉にする。
「成績優秀者共の薄っぺらい自信、威厳、妄想全てを………………革命ひっくりかえしてやんぜ!!」
あの日、かつあげ現場を目撃し止めに入ったあの時。
バカが出しゃばるな、と言わんばかりのあの目。
バーチャルシステムがあれば、その場でかつあげ被害を力で抑えることが出来る。
…やはり負けるかもしれない。基本的な力は向こうの方が上なのだ。
それでも戦えるだけの力があるなら。
自分に正直に生きることができる。
考えを曲げたくない。
そんな彼らの思いにて、七不思議を巻き込んだ長い夜が終わりを告げた。
「あ、お前ら明日残れよ。校内の無断侵入で反省文書かせるから。」
「ひぇ……」




