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EVOL読み切り版

作者: 白兎
掲載日:2013/05/14

EVOL1





この世界にはevolutionと呼ばれる超能力がある。


略してEVOL(エボル)。


日本は戦後、EVOLの力を研究し、今や世界一のEVOL関連技術を持つ。


ここ、第三帝都には世界各地からEVOL能力者が集められている。


いわば、EVOL能力者の学園だ。


まあ実際学園だが。


「はぁー」


俺は昨日までFランク。つまり最低レベルのEVOLのクラスにいた。


だが、先日受けたテストで500点満点を取ってしまったわけで、今日からAランクのクラスへ転籍するというわけだ。


教室のドアを開ける。


と、


「死ねっ!」


氷で出来た槍が飛んできた。


とっさにかわす。


「ちっ! thisのくせに!」


this。日本語で『これ』。


ランクの低いEVOL能力者の蔑称だ。


「なかなか楽しげなクラスだな」


俺は自分の席に座ると、教科書を取り出した。


設備が違う。


Fランクのクラスではちゃぶ台にみかん箱なのに、ここでは一人一台のiPadにジュースなどが入った冷蔵庫。おまけに授業の免除も例外的にだが認められている。


「まるで天国だな」


「何か言ったか?」


そう言ったのは金髪に碧眼の女の子だ。


今更だが、EVOLにより言語の壁を越えて会話できる。


それは俺のEVOLでも例外ではない。


「いや、なんでもない」


他のクラスメイトが話しかけてくる。


「ねぇねぇ。君のEVOLを見せてよ」


「FランクのEVOLを見ても面白くないぞ」


そう言って勉強を始める。


実は大学まで勉強は終わっているのだが、まあ染み付いた習慣というやつだ。


「見せてよ! えっと、く、く」


「球磨川(くまがわ)修(しゅう)だ」


「そう。球磨川くん。EVOL見せて」


「嫌だ」


「わたしのEVOLは触れた相手のEVOLを操る能力なのだ」


手を握られる。


と、


ポン!


「あ……」


ティッシュが出てきた。


「え……?」


「……俺のEVOLは物質創造。ゴミしか創造出来ないがな」


「そうなんだ。ごめん」


「そいつに謝る必要はない。所詮thisだ」


言ったのはまた金髪碧眼の女の子。


「エルキュールだ。よろしくな。this」


「よろしく。エルキュールさん」


固い握手を交わす。


お互い、相手の拳を折ろうとする固さで。





昼休み。


「そう言えばさぁ、最近恐いよね」


先ほど俺のEVOLを勝手に使った女の子はアインツベルンと名乗った。


エルキュールが言った。


「ベル。thisとしゃべるな」


イラっときた。


「thisthisってうるさいな。試験では俺に負けたくせに」


「この学園ではEVOLが全てだ。違うか?」


「勉強も大事だ。学生たるもの勉強が出来なくてどうする」


「私の点数は498点だ。勉強は出来ているが」


「まぁまぁ二人とも落ち着いて」


「落ち着いている」


「ああ、エルキュールが勝手に言っているだけだ」


「もう、そんなんじゃ襲われた時に助けてあげないよ」


「襲われる? 私が?」


「うん。今日三人欠席したでしょ。噂だと低クラスのEVOL能力者に襲われたらしいよ」


「単に、授業を免除されただけじゃないか?」


「thisの言うとおりだな。AクラスのEVOL能力者がthis如きに負けるわけない」


「でも、わたしみたいに戦闘向きじゃないEVOL能力者もいるよ」


「ベルは例外だな。だが、欠席した奴らは全員戦闘向きEVOL能力者だ」





EVOL2





翌日。


アインツベルンは登校して来なかった。


「おかしいな。ベルは元気なやつなのに」


「案外、お前の言うthisにやられていたりしてな」


「はっ!?」


エルキュールは走り出す。


「おい、授業が始まるぞ!」


「特例で授業免除を使う。先生に言っておいてくれ!」


「はぁ……」


俺は先生にエルキュールのことを伝えた。





放課後。


「そう言えば、今日はあのバンドの新曲が出る日か」


CDショップに行き、CDを買った。


「あれ?」


袋には俺が買いたかったのとは別のCDが入っていた。


「なんでだ?」





翌朝。


「ベルが襲撃された」


「そうか」


低ランクのEVOL能力者が高ランクのEVOL能力者を倒す。


普通の方法では考えられないが、俺には思い当たる節があった。


「ヴォイドだ」


「は?」


「EVOLを無効化する物質だ。俺と榎本(えのもと)とで論文を書いたことがある」


「EVOLを無効化なんて出来るのか?」


「ああ、ヴォイドならな」


「じゃあ、榎本に連絡を取れ、ヴォイドを横流ししていないかどうか、な」


「分かったよ」


俺は榎本に電話をかける。


「榎本か?」


『うん。どうしたの?』


「ヴォイドについて知りたいんだが。最近ヴォイドを大量に買ったやつはいないか?」


『いないよ』


「そうか」


エルキュールが睨みつけてくる。


「ヴォイドを買ったやつはいない。ヴォイドを生産出来るのは榎本だけだ」


「つまり、ヴォイドではないと?」


「そうだな」


「電話を貸せ」


「分かったよ。なんに使うんだ」


エルキュールは榎本に電話をかける。


「私はエルキュールという者だ。球磨川の知り合いだ」


『ふぅーん』


「単刀直入に言う。球磨川にヴォイドを渡したな?」


「……」


何を言っているんだ。こいつは?


「どうなんだ?」


『うん。渡したよ。警棒に改造して取り付けたやつを50本』


「なっ!?」


「球磨川。お前を犯人の一味として監視する」


わけが分からない。


俺にはそんな記憶はない。


「さて、放課後から貴様を監視することにしよう」


「待てよ。冤罪だ」


「榎本が嘘をついていると?」


「ぐっ……」





EVOL3





放課後。


「なんでついて来るんだよ」


「ベルを襲撃した犯人が貴様なのは確定している。安心しろ。証拠を掴んだら一瞬で消し炭にしてやる」


そういえば、エルキュールのEVOLはまだ見ていない。


一体、どんなEVOLなんだろう。


「なあ、エルキュールのEVOLって……あ」


「どうした!?」


俺は木の下で上を見上げた。


「ネコが降りられなくなっている」


「ほっとけ」


「お前なぁ」


俺は木をよじ登り始めた。


「おい、落ちるぞ!」


「大丈夫」


ネコを捕まえる。


と、同時にネコと俺が乗っていた枝が折れた。


「うわぁあああ!」


ドン。


俺はそのまま落ちたが、ネコはエルキュールがキャッチした。


「痛てて」


「だから言っただろう」


「けど、見捨てられるかよ」


「そうか……」





帰り道。


「なあ、そろそろ帰ってくれないか」


「そうだな、一度帰ろう」


「そうしてくれ」


エルキュールが帰る。


「はぁ、音楽でも聴くか」


「……は!?」


何時の間にか寝ていたらしかった。


「最近、よくこうなるよな」


何時の間にか寝ている。


何時の間にか時間が過ぎている。


ドン。


ドアが叩かれる。


ドアを開けてみると、


「来たぞ」


カバンを抱えたエルキュールだった。


「……」


無言でドアを閉めようとする。


「まて、焼き殺すぞ」


焼き殺されたくはないのでドアを開ける。


「今日から私もここに住む」


「なぜ?」


「貴様を24時間監視するためだ」


「さっきは帰って行ったけど?」


「着替えを取りに戻っていただけだ」


「一応ここ男子寮なんだけど」


「安心しろ。話はつけてある」


「そう」


俺にはこいつを止めることは出来ない。


だが、


「仮に俺が襲撃した犯人だとして、お前はその家にいて安全なのかよ」


「私のEVOLを甘く見るな。それに、私が狙われたら犯人は貴様だとクラスメイトに言ってある」


「ああ、そうかい」





EVOL4





エルキュールが監視を続けて一週間が経った。


相変わらずEVOL能力者は狙われつづけ、クラスメイトは半減した。


「なぜだ!」


エルキュールが怒鳴る。


「俺が犯人じゃないからだ」


「いや、絶対貴様が犯人だ」


「だから違うって」





放課後。


「俺はCDショップへ行くけど、ついて来る?」


「まあ、そのくらいの自由行動ならいいだろう」


エルキュールが去る。


俺はある準備をしてCDショップに入った。


「やっぱり……」


明らかに俺の趣味ではないCDが袋の中に入っている。


「こんな時のためにっと」


起動していたICレコーダーを止める。


そして、録音を聞く。


そして、俺は真実を知った。





「全く、なかなか証拠を掴ませないな」


エルキュールは苛立っていた。


「this風情が……」


「俺たちがどうしたって」


エルキュールを50人の学生が囲んでいた。


その手には警棒がある。


「私に手を出すつもりか」


「ああ、AクラスのEVOL能力者」


「なら、消し炭になれ!」


エルキュールの周りに紫電が集まる。


「雷を操るEVOLか」


「そうだ」


紫電は学生たちを狙う。


が、


「無駄だ」


警棒に触れた瞬間、紫電は消え去った。


「なっ!?」


「攻撃開始だ!」


「「「おお」」」


学生たちがエルキュールに迫る。と、


「待たせたな」


「貴様は……」





一時間前。


「おい! いるんだろ。出て来いよ」


俺は暗闇に向かって叫ぶ。


「お前の名前はなんだ」


声がした。


「球磨川(くまがわ)終(しゅう)だ」


「やはり、お前は……」


「ああ、オレはお前だよ」


二重人格。


今までにも兆候はあった。


クラスメイトとの会話のズレ。


記憶に無い買い物や時間感覚の喪失。


「お前は、俺だな」


「そしてオレはお前になる」


眩暈に襲われる。


目を覚ますと、そこは真っ白い氷の世界だった。


南極大陸とでも言えばいいのか。


そこには俺がいた。


球磨川終。


オレであり俺の一部。


「さあ、オレに倒されろ」


「断わる」


「じゃあ、死ね!」


終の影が鎌の形を作る。


「一つ聞く」


「なんだ?」


「ここは俺の心の中か?」


「ああ、そうだ」


終は剣を創り出し、放った。


「使えよ。this」





EVOL5





キンッ!


カンッ!


剣と鎌がぶつかり合う。


「くっ、力量は同じか」


「いや、お前よりオレの方が強い」


「どうかな」


ガキンッ!


剣にヒビが入る。


「さっさとオレを倒さないと、エルキュールが死ぬぜ」


「くっ……」


「お前は子供の頃、今よりずっと強いEVOLが使えたはずだ」


「だが、使えなくなった」


「ああ、オレが両親を殺したからな」


「あれ以来俺のEVOLはゴミしか作れなくなった」


「お前は失敗作だ。だからオレがお前になる」


「確かに、俺は失敗作かもしれない。thisと呼ばれるほどEVOLのランクも低い」


「なら!」


「けれど、エルキュールは一応クラスメイトなんでな。勝たせてもらう」


剣を捨てる。


「死ねぇええ!」


鎌が振り下ろされる。


「EVOL!」


光が生まれた。


鎌を受け止めているのは剣だ。


ただ、それはただの剣ではない。


「それは、オレが両親を殺した魔剣……」


「ああ、そうだ。そして」


ガキッ!


バキッ!


鎌が折れる。


「お前を倒す剣だ」


終を斬る。


「オレはお前だ。一時的に消すことが出来ても完全には消せない。またオレが蘇るまで、死ぬんじゃねぇぞ!」


地面が割れ、俺は暗闇へ落ちた。








「お前は……」


「球磨川修。ただのEVOL能力者だ」


「EVOL能力者だ。やっちまえ!」


「でも、あいつ、俺たちに警棒くれたやつじゃ?」


「構うか! AランクのEVOL能力者をかばうやつは敵だ!」


「やれやれ……」


エルキュールは驚いた顔をしている。


「その剣は……」


「魔剣だ」


「やっちまえ!」


警棒を魔剣で受け止める。


「そしてこれが新たなEVOL。カスパール」


警棒が劣化していく。


「無機質を老化させるEVOLだ」


「なぜだ。この警棒にはEVOLは効かないはず」


「どんなものにも例外はある」


「う、うわぁあああ!」


学生がデタラメに警棒を振るう。


「EVOL」


50本の警棒が砂に代わる。


「後は任せた」


「了解」


エルキュールの紫電があたりを包み込んだ。





EVOL6





「見直した」


「そうか。じゃあ、家まで連れて行ってくれ」


「は?」


「目が見えないんだ」


「え。なんで?」


「カスパールの代償だ。まさかあんなEVOLが代償なしに使えるなんて思ってないだろう?」


「でも、視力って……」


「泣いているのか」


「やっぱり、見えるんじゃない」


「いや、勘だ」


「球磨川。貴様としばらく一緒にいて私は気付いたことがある」


「なんだ?」


「貴様は絶対に人を、生き物を見捨てない」


「そうか。さっきの奴らは元はただのEVOL能力者だ。その唯一の反抗するための武器を、俺は奪った」


「それは私を助けるためだろう」


「けど」


くちびるに柔らかい感触がした。


「球磨川。貴様に恋していいか?」


「……」


光が戻ってくる。


「エルキュール……」


「なんだ?」


「君の姿が、見えるよ」





翌朝。


「球磨川。遅刻するぞ」


「わ、ヤバい!」


あれからカスパールの力を使おうとしたが、使えなかった。


エルキュール曰く、代償がなくなったからEVOLが消えたらしい。


魔剣はあれからいろいろ考えて身に付けることにした。


幸い、校則に剣を持って来てはいけないというものはない。


ちなみに俺のEVOLだが、元通りとはいかないまでも鉛筆くらいは創造出来るようになった。


「あ、エルキュールだ」


「ベル!」


「アインツベルン。今日退院したのか?」


「うん。聞いたよ。球磨川くんとエルキュールがあの連中を倒してくれたんだって」


「ああ、ほとんどエルキュールがやったがな」


「いや、球磨川の助けがなかったら私は今頃やられていた」


「いや、エルキュールが……」


「二人とも、仲がいいようで」


「ああ、私は球磨川に惚れているからな」


「えぇえええ!」


「エルキュール!」


「事実だ」


「事件。事件だよ!」


俺たちの物語は、こうして始まった。

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