エピローグ
春。
三ヶ月の休学は彩香の卒業をかなり危うくしたが、それまでの成績がすこぶる良かったことから特別措置が取られた。
厳正な試験を行った結果、彼女の卒業、同校高等部への進学は認められ、今日はその入学式が行われたのである。
多忙な啓一郎も、妹の晴れ舞台に何とか時間の都合を付け、式に同席することができた。
肩の凝る入学式を終え、二人は桜が咲き乱れる中をゆっくりと歩いて行く。
「入学式が今年出来るとは思わなかったよ」
啓一郎が、特に彩香に向けたというふうでもなく、感慨深げに呟く。
「そうね……中学生で浪人するのかと思ったけれど、何とかなるものね。普段の行いが良いからかしら」
彩香は心持ち胸を反らせて、言った。
だが、今だからこそ冗談めかして言えるが、諸々の手続きはかなり大変なものだった。やはり正規の道を進まないと、人生大変なものなのである。
暫らく、黙って歩を進めた。
穏やかな、幸福な時間。
わずか半年ほど前に起きたことは、もう遥か昔のことのように思えるようになっていた。命を奪われかけたことも、失いかけたことも、今となっては全てが薄れつつ悪夢でしかない。唯一つだけ、彩香にとっては忘れることのできない夢も有り──かつてはそれを思い出すと鋭い痛みが胸を刺したが、時と共にその針も小さくなってきていた。
公園の中を流れる、小さな川。
そこに架かる橋の袂に着いた時。
ハッと、彩香が振り返る。
「どうかしたか?」
啓一郎も彩香の見つめる方向へと目をやったが、そこには何も──桜の他には何も、見えなかった。
「何でも、ないの……」
そう答えた彩香の口元には、不思議な笑みが浮かんでいた。啓一郎は怪訝な顔をしてもう一度目を凝らす。
「あれは……?」
桜でけぶる視界の中に黒い影がよぎったような気がして、彼は目を細める。
「彩香──」
妹に確かめようとした啓一郎の口を、不意の突風に巻き起こった桜吹雪が塞ぐ。思わず目を閉じ──再び開けた時、そこに残っているのは、ただ、桜並木だけだった。
長いお話を読んでくださってありがとうございました。すでにお気に入り登録してくださった方、ありがとうございます。評価や感想などをいただければ、大変励みになります。
チョコチョコと誤字などを修正しながらだった為、ちまちまと小刻み投稿になってしまいました。すみません。
投稿順序は後先になってますが、これが、私が書き上げた初めての長編です。『恋愛』ジャンルなのですが……甘さに欠けますね。でも、自分的には、「恋愛ものを書くぞ!」という意気込みのもと、書き始めたものでした……。色々と拙い部分もあったかと思いますが、最後までお付き合いいただいて、本当にありがとうございました。
このお話はこれで完結です。
まだプロット段階ですが、このお話とリンクするものもいくつか考えてはいます。いつか、ここに出てきた名前を他の作品で見かけることがあったら、「ああ、彼らか」とニヤリとしていただけたら嬉しいです。




