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少年の初恋

登場人物


小松笠(こまつかさ)

犬。人型になれるまで成長した力のつよい召喚獣。


沙夜(さや)

主人公…のはず。人間で村から逃げ出したのを拾われた。


おじいさん

住職で小松笠と沙夜の親代わり。

小松笠の契約相手。主。


黎千(れいせん)

うさぎ。沙夜と契約した人型の召喚獣。


滝霞(ろうか)

狼。沙夜と契約した人型の召喚獣


架蘭(からん)

タヌキ。沙夜と契約した人型の召喚獣


洲杜(すず)

狐。沙夜と契約した人型の召喚獣


夕梅

未来の主人




人型を取れるようになって一ヶ月。頑張ってみたがどうやっても耳としっぽはしまえないらしい。しょうがなく帽子で耳を隠し主に内緒で人が住む村へ出掛けた。

理由は簡単だ。純粋な興味。危険だから普段は姿を隠すのに今回は術を解いていた。人を…主人のような能力者ではない奴らを村の人として見てみたかったのだ。ただそれだけだったのに。


「こちらに来るな!!!!」

いきなり石を投げられた。

沢山の人間に殴られた。

女の人は首を締め殺そうとした。

「何もしてないじゃないか!!!」

何を言っても

「化け物!!!!出ていけ!!!」

ただそれだけ。


「なんで俺…何もしてないのに」

傷口を舐めながら呟いた。人間ってあんな生き物なのか。悲しかった。哀しかった。悔しくて寂しくて…それでも何も出来ない自分が嫌だ。否定出来ないことが悲しかった。だって俺は結局化け物なんだから。




「主…。」

俺の主人はもう結構な歳の徳の高い住職だった。話を聞いてるんだか聞いてないだがわからない不思議な人で

「ふぉっふぉっ…小松笠わしはまだまだ現役じゃぞぉ〜」

「人間って」

「さてお経を読むかのぉ」

「聞けよ!?」

「南無阿魅妥仏」

俺は話し掛けることを諦めた。

「……。小松笠よ。許してはくれないかね。人間とはとても臆病なのじゃよ。だが全てがそんな人間ではない。会えるはずじゃ…きっとな」

俺は無言で頷いた。主を信じれなかったわけじゃない。でも心から信じるには世界は冷たすぎた。



「はぁっ…はぁっ」

私は逃げていた。

「まてぇっ!!小娘!!」

暗い霧の張る森をがむしゃらに走って走って走った。

誰も届かないところへ行くために。

夜の森は怖いはずなのに不思議と落ち着いていた。追いかけられても怖くなかった。どうしてだろう。

でもあいつらに捕まって生き恥をかくくらいなら…

「追い付いたぜ?さっさとこっちに来い小娘!!!ったく手間かけさせやがって…」

追い詰められた先は下が湖の崖。追い付いた?違うわ。私が誘導したの。

「お母さん」

「お前…まさか…」

「ごめんね…」

「やめろ!!!!!」

男を振り返ることもなく私は崖から飛び降りた。



「ふぁぁぁ…」

眠い…のに寝れない。多分今日は満月で力が暴走しかけている奴らがいっぱいいて落ち着かないんだろう。気を抜くと食われる。だから寝れない。

「追い付いたぜ?さっさとこっちに来い小娘!!!ったく手間かけさせやがって…」

「お母さん。」

「お前…まさか…」

「ごめんね…」

「やめろ!!!!!」

ぇえ―なんか別の場所でも危険が…←

っておいおいおいおい!!!

近くの崖で男の罵声が聞こえたと思ったら今度は少女が落ちてくんのか!?

落ちていく少女はとても月に似合う。しかし見惚れる時間もなく俺は走った。絶対に死なせない。人間は最低なのに助けんのか?問い掛けに答える暇はなかった。ただがむしゃらに走る。

「間に合え!!!!」

助けなきゃいけないんだ。なぜかそう思った。




満月に手を伸ばした。歪んで変な形のお月様。あ…そうか。泣いてるからなんだ。

遠ざかるお月様に目一杯手を伸ばして呟く。

「ごめんなさい…生きてて…っごめんなさい…」

バシャン!!!!

背中を打つような感覚ともに水に飲み込まれた体。肌を刺すような冷たさが体中でする。口を開けると水とゴポ…と抜けた空気が上へあがっていった。

静かに沈んでいく体が寂しい。光る水面にはもう届かないだろう。死ぬことを悟りもう一度手を伸ばす。

その刹那ざばッと音がして少年が私の伸ばした手を掴んだ。驚いたのはそれだけではない。少年には犬の耳と尻尾が付いていた。少年は私を掴みながら凄い速さで上に上がっていく。地上にもすぐについた。

「っ…げほっげほっ…」

咳込むと水が沢山出てきた。カタカタと体が震え始める。

「…っ馬鹿野郎…!!!」

びしょびしょの少年は耳と尻尾を逆立てながら私を睨みつけた。

「命を粗末にするなよ!!!」

凄く怒ってるとすぐにわかった。…なんで見ず知らずの人(?)に怒られてるんだと思うより早く口についたのは

「ありがとう…っ」

感謝の言葉と涙。嗚咽。

「助けて…くれて…ありがとう…っ」

私は泣いた。しゃくりあげひたすら泣いた。見る間に体から力が抜ける。

「おっと…」

抱きとめられて気がつく。私はずっと走り回っていたせいか足も手もボロボロの血だらけだった。少年はそれを気にもせず静かに私を抱きしめてくれる。

「主はいつも俺が泣いてたらこうしてくれるんだ。そうするとあったかくて幸せになる。お前がどうして泣くか俺はわかんないけど…安心させられるはずだから。」

主?あれ…そう言えば耳と尻尾あったのなんで?そう聞きたかったのに安心したせいか重い瞼に逆らえず私は暖かい腕の中眠りについた。



「……?」

…目が覚めると私はお寺にいた。

「ぇぇえぇえ!?」

ガバッと体を起こすと隣に黒い犬が丸まって眠っていた。直感的に助けてくれた少年だとわかる自分に驚く。

「私…生きてる」

そりゃそーだと一人納得し手を見ると包帯が巻いてあった。すぐに解けそうで下手くそな巻き方なのになぜか優しさを感じた。きっとこの少年が巻いてくれたんだろう。

「起きなさったか」

後ろからした優しそうなおじいさんの声で振り返る。

「はい。ご迷惑をかけてすみません…」

「いいんじゃよ。じゃが命を粗末にしてはならぬぞ?」

黒い犬の近くに腰を下ろし撫でながら問い掛ける。

「はい。もう…あんな真似しません」

ニコ…と笑顔で頷く。笑顔で?笑顔でえぇ!?私は急いで顔に手を当てる。

「笑えた…」

笑顔なんて…私には忘れ去られたモノだと思っていた。ずっと虐げられて犯されて傷ついて疵だらけになりなっても私は今笑えてる。それが不思議と嬉しかった。

「この少年のおかげ…だよね」

ぐっすり眠っている黒い犬を柔らかく撫でる。するとおじいさんが

「ん^^?」

となっていた。え?どうしたの?

「おぬしはこやつが小松笠だとわかるのかね?」

「小松笠?」

「…俺だよ」

ぼふんッと白い煙りが立ちのぼり黒い犬があの少年になっていた。

「ぅおΣΣ」

びっくりした…けど最初からわかっていてそれをわざわざ目で確認した感じなのでさして驚かなかった。

「起きて大丈夫?」

「驚かんのかね…しかもわかっていたとなると…」

「大丈夫だ。お前こそ大丈夫なのか?」

「もちろん」

頷きながら包帯ありがとうと言うとプイと顔を逸らされた。おじいさんはおじいさんで何かを必死に考えている。

「おねし名は?」

「あ…沙夜…です」

「沙夜。おぬしはこれからどうする?」

「質問ばっかだな主。そりゃ……え…どうしよう…」

小松笠がめちゃくちゃ困った顔をしながら私を見た。その顔そのまま返してやりたい!!!

「…私には帰る場所も成すべきこともありません。お願いします!!私をここで働かせて下さい!!なんでも…しますから…お願い…します…捨て…ないで…」

また溢れ出した涙は頭を下げた先の布団に落ちて染みを作る。

「ふぉっふぉっ…沙夜よ。おぬしは才能がある。」

「才…能?」

顔を上げるとおじいさんが頭を撫でながら微笑んでいた。

「…あぁ…」

小松笠が納得したように手を叩く。

「お前俺が見えるもんな。今人間には見えないようにしてるのに普通に会話してる。」

「うむ。沙夜はきっと凄い術士に成れるじゃろう。基礎や知識をわしが教えよう。小松笠…お前も手伝ってくれるな?」

「それはもちろん。俺にできることがあるなら!!」

凄い嬉しそうに尻尾をふっているのが可愛らしい。私はおじいさんに頭を下げながら思う。

「よろしくお願いします!!!」

私を助けてくれたおかげで世界がこんなに変わった。それが小松笠のおかげだと。どうしたら御礼が出来るだろう…と。

これで私は普通の人生が送れなくなったことに気づけないあたりが馬鹿だと後になってからわかった。



あれから5年がたったのか。

「小松笠どこにいったのかしら…」

私は17歳になりおじいさんには美人になったのうと良く言われるようになった。

才能があると言ったおじいさんの思惑通り私は術士になることが出来た。おじいさんからも一人前の称号を与えられ現在私は術士として働いている。

しかし残念なことに…師匠ことおじいさんは亡くなってしまった。つい最近のことだ。だから必然的に小松笠は私が受け継ぐという形になったのだ。

「小松笠…大丈夫?」

「…あぁ。」

おじいさんのお墓の前で小松笠は座り込み空を見上げていた。赤い目は泣いていたことを気づかせるように純血している。

おじいさんが亡くなってから小松笠は別人のようになってしまった。笑うことがなく無表情なのだ。あの小松笠を一人にするのが心配になるくらいだ。

私は隣に座りながら

「泣いていいんだよ?私の前だからって遠慮しないで」

そう言ってそっと頭を撫でると小松笠は私の方に頭を乗っけて呟いた。

「ありがとう…沙夜」

ぽたぽたと暖かい雫が首に落ちる。声を押し殺し泣いてる小松笠を見ていられずに思わず抱きしめてしまった。

「約束。今後一切絶対一人で泣かないで。私がそばにいるから。支えるから…だから一人で泣いて寂しさと悲しみに埋もれないで…」

強く強く強く強く抱きしめる。なんで私はたかが使い魔にこんなことしているんだろう。ふと疑問に思った。使い魔だって心がある。感情がある。それを無視した術士を何人も見て来た。私そんなやつになりたくなくて…使い魔たちに近づこうとした。

それで想いを寄せた結果だと言うの?

「…馬鹿だな…お前…だって泣いてるくせに」

気がつくと私も涙を流していた。小松笠に指摘されるまで気がつかないなんて私も精神的にきてるみたい。

「うるさい…私も約束守るから…」

とんとんと背中をさすりながら

「…師匠に負けないくらい立派な術士になるから…見ててね…?小松笠は…いなくならないでね…??」

私は一人になりたくないと呟いた。小松笠と一緒にいたいと心から感じた。でも今は内緒。小松笠が好きになる女になってみせる。だって私は5年前助けてもらった時から恋に落ちてるんだもの。



後から後から溢れる涙に戸惑っている俺に沙夜はいつも通りに接してくれた。それが嬉しくて悲しかった。沙夜の弱みを見せてくれないということは俺は頼りないのかと考えてしまう。

使い魔は術士にとって所詮使い魔だ。それ以下もそれ以上ない。俺はそれ以上になりたいのか…?浮かんだ疑問を打ち消すように主の言葉を思い出す。

主は死ぬ間際俺にだけ言った。

「小松笠よ。これから先術士どうしの激しい戦いが始まるじゃろう。沙夜も否応なしに巻き込まれ、沢山傷つくことになる。

しかしな小松笠…お前は沙夜を使い魔としてじゃなく一人の男として護りなさい。これはお願いじゃ。

彼女の過去を調べたら両親を早くに亡くし幼い時から遊女として教育されていたらしい。そこから逃げ出したくて何度か脱走を測ったがことごとく失敗しとる。

お前が助けた日に初めて外に出られたが逃げ切れず死を持って自由を得ようとした悲しい子なのじゃ。

孤独を誰より嫌い身近な者の死を誰よりも恐れておる。わしがいなくなってしまったら沙夜にはお前しかいないのじゃよ…。

じゃからな小松笠お前は沙夜のそばにいるために使い魔として契約してほしいのじゃ…。お前にも沙夜が必要だと思うからの…」

主は俺達を本当の子供のように育ててくれた。感謝してもしきれない。だからってなんでなんで…俺はまた涙を溢れさせ空を見上げる。

「術士どうしの戦い……か。絶対に回避してみせる。沙夜…」

今沙夜に抱く想いが主に寄せていた気持ちとは少し違うことに気がつく。しかし沙夜がこちらに歩いて来るのが見えた。俺はまた空を見上げ考える。この気持ちの正体がわかったとき俺は主の約束を守ることが出来るのか…と。



「血の契約により召喚するッ!!!獣の化身“黎千(れいせん)”“滝霞(ろうか)

”“澪姫(みおき)”“洲杜(すず)”“架蘭(からん)”」

朝の恒例行事通りに使い魔を一気に召喚する。

うさぎ→おおかみ→ねこ→きつね→たぬきの順番にぼふんッという白い煙りと共に現れる。

《ちっ…何??沙夜。毎日毎日用も無いのに呼び出して》

《沙夜様。何でしょうか?》

《澪姫にゃん召喚なう☆》

《わたくしに何用じゃ…?》

《呼んだ?呼んだ?沙夜沙夜!!!》

「相変わらず個性的ね。おはようみんなっと」

勢い良く私に抱き着いたのは一週間前くらいにやっと人型になれた使い魔の架蘭だ。小さい子どもみたいに無邪気で可愛らしい。昔の小松笠みたいだと思う。

《沙夜沙夜!!!今日は今日は何するする???》

《多分修業じゃにゃい?一緒に頑張るにゃ☆》

面倒見の良いこのコは澪姫。気まぐれなところがあるけど澪姫に架蘭を預ければしっかりと面倒を見てくれる。頼りになる優しいコだ。

《馬鹿みたい…。餓鬼のお守りなんて死んでも嫌。沙夜も使い魔こんなに一気に召喚して力の使い方間違えてるわ?》

ため息と共に毒舌を披露したのは可愛い容姿には似合わない赤い着物と刃物をいつでも所持する戦闘系使い魔だ。

「黎千。私は絆を大切にしたいの。もちろんあなたともね?だからはい。」

《…何よこれ》

黎千に手渡したのはお団子。

「この前、術士どうしの戦闘で頑張ったご褒美だよ?」

《だ…団子》

キラキラと目を輝かせながら嬉しそうに食べる黎千はレアだと思う。餌付けじゃないよ?……多分。

《…わたくしには無いの?沙夜》

不機嫌そうな声に振り返ると洲杜が御立腹気味に仁王立ちだった。あちゃー…

「ごめんね?最初に渡すべきは洲杜だったね。最後のあの幻術がなければ負けてたもの。」

《分かればよいのじゃ。》

ご機嫌に早変わりしお団子を食べる姿はもう見慣れた。高飛車気味の洲杜はとっても扱いやすい。悲しかな洲杜はちょいとお馬鹿だ。それが愛らしいと言うと信じてる。

《沙夜様。大丈夫ですか?僕でよければお茶でもご用意させて頂きますが》

「滝霞…。謙虚というか忠実というか…良く出来た使い魔よね。敬語じゃなくていいのに…」

滝霞は由緒正しいところから出た使い魔らしい。役人みたいに固いところがあるけれど難しい仕事や情報系統なら滝霞が一番安心出来る。狼ってもっと荒々しいと思っていたのは内緒だ。

《使い魔とは主人に使役されるもの。何かおかしいことがありましょうか。》

「そうね。私はあなたみたいな使い魔がいて鼻が高いわ?じゃぁみんなのお茶をお願いしましょうか。おやつの時間になりかけてるけど朝ご飯食べてないしお腹空いたわ?」

パンパンと手を叩きながら準備を始める。これが日課になっている生活に不満はない。ただ…小松笠が打ち解けてくれないのだ。私を避けているのか顔を合わせてくれない。

「みんなで小松笠呼んで来てくれない?おじいさんのお墓にいると思うから…」

私が行っても小松笠は会ってくれない。だったら同族に任せるしかない。理由は多分私はおじいさんみたいになれていないからかな?それがすごく寂しかった。




《…沙夜にゃんって主っぽくないにゃ》

澪姫がお墓へ向かう道で架蘭の手を繋ぎながら呟く。

《澪姫は澪姫はそう思う思うの?》

《ここにいる使い魔全員思っているわよ。私達は基本的には沙夜が勝った術士から奪った奴ばかり。まぁ戻りたい奴なんていないだろうけど。》

《ふん。わたくしは沙夜は嫌いではないぞ?ただ術士としては優しすぎるのは弱点になりかねないのじゃが…》

《沙夜様は僕達を家族として見ている。使い魔じゃなくて同等の存在として。それが僕達にとって幸せかどうかは知らない。

だって沙夜様ぐらいじゃないかな。人型の使い魔をこんなに使える術士。

沙夜様は計り知れないモノを持ってるよ。それを使うのは沙夜様の意思次第。結局僕等は沙夜様の使い魔だ。》

《黙れよ新米が…。沙夜は俺達を私益に扱わない。絶対に。》

お墓の前で小松笠がこちらを睨みながら吐き捨てた。

《……。お前のせいで沙夜様の憂いが晴れない。僕は完璧なサポートを目指す。いつまでも元主人にすがるイヌを何故気にかけるか僕にはわからないよ。》

《滝霞の言う通りよね。あんた…区別が付けられないことが一番主人にとって辛いって知っていてやってるんでしょうね?身近な奴が元主人だったなら尚更。》

《にゃ…。喧嘩はダメにゃ…》

《怖い怖いよぅ…》

《……いがみ合うなど無駄じゃ。お互いただ主が大切に思うが故。きっと小松笠とやらにも何か考えがあるのだろう?ただ言っておく。我等がいるから自分は要らないなど考えるでないぞ?お前も家族じゃ。それがわからないなら沙夜は滝霞にでも取られるじゃろうな。》

《なっ…》

《洲杜…!!!》

《愉快愉快。図星と見た。難儀な恋心よのぅ…。》

《いいこと聞いちゃった〜》

《にゃ☆》

《小松笠と小松笠と滝霞は滝霞は沙夜が好き好き?》

《《違う!!!!》》

《面白いな》

《っ!!!!》

とりあえず仲良しなんだね。と誰かが思ったとさ。



「戦じゃぁぁっ!!!戦が始まるぞぉぉぉ!!!」

戦。国同士が戦争を始めることだ。いつか来るとわかっていたことが始まろうとしてる。

「狩り出されるわね…これは」

お寺の周りには沢山の人間の気配がする。私達を虐げて嫌って追い出したくせに自分達のために私達を利用する村人。

「都合のいい人間ね。でもいいわ?協力しましょう。すぐに終わらせるために。」

犠牲は少ない方がいいでしょう?罪のない人間が死ぬ世界は要らない。私は力に恵まれた。今使うべきだと知ってる。

「みんなごめんね。協力…してくれる?」

振り返るとみんなは微笑みながら頷いた。

《もちろん!!!》

これが間違いの始まりだった。戦争など一人が何をしたって変わりはしないのに。自惚れは絶望を齎すことを知らない私は沢山のモノを失うことになる。



「手が…震えてる…」

《沙夜様…大丈夫ですか?》

滝霞がすっとお茶を差し出しながら心配そうに問う。明日から本格的に戦争が始まるようだ。術士は相手国の術士とのみ戦うことが決められている。私は殺し合いなどしたことないのだ。これで命を落とすかもしれないという恐怖が体を蝕む。

《安心して下さい。僕等が守ります。》

きゅっと握ってくれた手は暖かく優しかった。でも…

「ありがとう…。私も頑張るよ」

心からは安心出来ない。主人だから滝霞には弱さは見せられない。見せた時敗北を意味する。それは赦されない。

《…沙夜様…あなたは何の為に戦うのですか??なぜ犠牲になる必要があるのですか??こんな戦いに参加しなくても…!!》

「ただ…無益な戦いを無くしたい。馬鹿げた野望の為よ?ありがとう…滝霞。優しいのね……小松笠みたいに」

何で小松笠?と思う。しかし不安が少し消えたことに気がつく。小松笠のおかげなのかな?


僕は気がついた。とても絆を大切にする沙夜様だからこそ僕の入る余地が無いくらい…小松笠を愛してるんだ。

《…っ…沙夜様…僕は…》

言えばどうなるのか?僕は知ってる。悲しい顔をされるだけだ。沙夜様の悲しむ顔は見たくない。

《小松笠なら…縁側ですよ…?お探しになられたようですので》

「よ…よくわかるわね…。滝霞ありがとうっ!!お茶美味しかったよ」

淋しく湯呑みだけが残った部屋で僕は省エネモードになる。泣ければ楽なのに。とぼとぼと部屋を出た先には黎千と架蘭と洲杜が立っていた。

《よく…我慢したわね?偉いっ…》

黎千が目に涙を溜めながら抱き着いた。

《いーこいーこなんですなんです。》

架蘭がナデナデと頭を撫でる。

《優しい奴じゃな?おぬし…》

それぞれの慰めにせき止められなくなった涙が溢れ出た。僕はただ泣いた。一人沙夜様を想って。


《よ。不安…か?》

小松笠は酒を片手に月を見ながら酌をしていた。私はその隣に座り月を見上げる。

「明日が満月ね…」

少し欠けた月はまるで私みたいだと笑みを浮かべる。

「怖いよ。死ぬかもしれない…と考えれば考えるだけどうしようもない震えが私を襲うの」

体をきゅっと抱きしめながら呟く。

《正常な印しだ。それにお前が死の恐怖に怯える必要はないよ。俺が守る。》

私ははっとして小松笠を見た。いつの間にか私達は成長していたことに気がつく。二人に出会ったときの幼さはもう無い。私に限ってはどうして小松笠は使い魔なのだろう…と何度考えただろう。

「…頼もしいね。なんでかな…小松笠にそう言われたら安心出来るよ」

《そうか?じゃぁ何で泣いてんだよ》

「…え?」

またかと考える暇も無く私の体は小松笠の腕にすっぽりはまっていた。たくましい体と胸板は少年の小松笠ではない。加速する鼓動を心地好く感じながらいつの間に私より背が伸びたんだらう。頼もしくなったんだろう。と考える。

《お前と出会って5年か?》

「うん…早いよね」

《そうだな。あの時もこうしたよ》

「おじいさんがやってくれてたことをしたのよね?正直すごく安心した。今も…とても安心してる。不思議ね。

ん?……。あのさ泣いてるコには誰にでもしてそうなんだけど?小松笠って…」

《なんだよそれ…。言っとくけど俺はされることはあってもするのはお前だけだからな》

「…え…っと…」

反論は許さないというように腕に力が込められる。

《…俺はあの時助けたこと後悔してない。沙夜に会えて良かったと思ってる。》

「うん」

《最近話せなかったのは自分の気持ちがわからなかったんだ。どうしたらいいのかわからなかった。今はわかる。俺は…沙夜…お前が…》

「言わないで!!!!」

悲痛な叫びのように甲高く悲しい雰囲気を漂わせる声が出た。声が震えて体も震えた。ただ首を横に振り続ける。

《…沙夜》

着物を握りしめ声を絞り出す。

「今言われたら逃げ出しちゃう。幸せを真っ先に掴もうと躍起になるわ。それはおじいさんの望みじゃないもの。言葉の続きはすべてが終わったときに聞いてあげる。」

顔を上げればすぐ近くに小松笠がいる。私は人差し指で小松笠の唇に触れた。

「約束。私は…あなたのそばにずっといるよ。だから小松笠も私の言葉を聞くまで死ぬことは許さないからね?」

そう言い残し走り出す。心臓が爆発しそうだ。なんで最後まで聞かなかったか…私は臆病だと心から実感する。森を突っ切り真っ赤な顔と火照りが冷めるまでずっと一人あの崖で月を見ていた。小松笠を想いながら……。



「囲まれたわね…」

死体がごろごろと転がり血臭と死臭に溢れた戦場に私は眉をひそめる。暗い夜に濃い霧に包まれた森。私がかつて逃げ回った場所だ。しかし相手は数十人の術士。

《霧があるだけこちらが有利じゃ。わたくしが術を使いやすい》

「じゃぁ誘導してくれる?あの崖まで。あそこには束縛式術が貼ってあるはず」

《了解じゃ》

《沙夜様。移動し始めたようです。》

《私たちはどうするの?》

「崖に行くわ。これでけりをつける。私が最後の生き残りなんてびっくりだけど。私達は結局…裏切られてしまったわね。」

予想通り私は村人たちに売られた。同士と紹介された人間は全滅。私が死ねば村人たち側が勝ってはいお終いだ。

《馬鹿。俺が死なせない。命に変えてもな。》

「ふふ。私だってやすやすと死なないわよ。さぁて行きますか。」

滝霞の声を頼りに私は走り出した。恐怖は全くない。大丈夫。底無しの勇気が今ならある気がする。絶対に死なない。自信があった。それをくれたのは小松笠だ。

《着いたわ?あらあら見事に引っ掛かってるのね。》

「出せ!!!ふざけるなぁっ!!」

「くそ…高度すぎて解けねぇ…!!!」

《これで一安心一安心?》

《多分にゃ?こいつらをどうするかが問題だけど…》

《殺すのも一つの手じゃな》

《なら私が》

《俺が》

《《殺す》》

「脅して憂さ晴らししないのっ!!」

《ですが沙夜様。生かしておいても良いことにはならないはずですよ?》

「それでも生かすわ。殺生は好きじゃないの。」

「甘い。甘すぎるぞ。馬鹿か貴様。」

「馬鹿で結構よ。私はあなた達みたいにはならずに世界を救いたい。」

「……俺はこの部隊の隊長だ。俺達には家族もいる。仲間もいる。」

「えぇ…わかってるつもりよ」

「その俺達の家族が…国で人質にされてるんだ!!…だから…すまない。出来れば戦場じゃなく…」

私は急いで指を噛み血で契約解除と術防御壁を同時進行させた。黎千、滝霞、架蘭、洲杜の姿が消えてゆく。

《沙夜様何を!!!!》

《沙夜!!??》

「生きて!!!お願い!!!これ以上悲しみが増えることがないように…」

《やだよやだよ!!!》

《死ぬ気か!!!》

「まさか。死なないよ!!!またあとでもう一度契約してくれると信じてる!!」

「同士として会いたかった…!!っぐ」

小松は既に捕縛式術の中にいる隊長へ攻撃を開始していた。四匹が頷きながら消えたのを確認し、私も式術にいる奴らへ気を失わせる程度の電流を流しながら小松笠に近寄る。すぐ後ろは崖であの時を思い出させた。

「小娘よ…時間…だ…。俺達の仕事は…時間…稼…ぎ…」

隊長の言葉が言い終わらないうちに私は瞬時に小松笠の前に出た。

「小松笠っ…逃げて…!!!!」

ツブッ

肩に激痛が走る。

前方からは明らかに術士ではない武装した人間が弓を放っていた。小松笠を手で押し崖から落とす。

「っ……沙…」

「…ごめん…ね…小松笠…」

刺さった矢を抜く暇もなく胸、腹、足と次々に矢が刺さっていいく。

逆流して来た血を吐きだしながら空を見上げた。赤い雫が舞い赤い満月と良く似合うのが悲しかった。バランスを取れなくなった体はただ下に落ちていくだけ。

「沙夜!!!」

ドボンッ

いつかのように私の体は水に飲まれた。足掻くことも出来ずに沈んでいく。透明な水がだんだん赤く染まるのがわかった。

遠退く意識の中あの時みたいに体が浮上する。手は暖かいなにかに握りしめられていた。小松笠の手だとわかるにはしばらくかかったことに驚く。地上に着いたのか肺に酸素が入り呼吸を再開しながら目を開けると小松笠がぼんやりと見えた。

《沙夜!!!死ぬなよ!!!死なないでくれよ!!!》

ポタポタと顔に落ちる水が涙を思わせる。いや涙か。もう暖かいか冷たいかもわからない。ただ何かが落ちたと感じるだけ。

「…ごめん…ね…約束…守れそうに…ないや…」

小松笠に笑いかけながら手を伸ばす。

《そんなこと言うなよ!!まだ助かるからっ!!!》

それを握ってくれるだけで満足できたよ。小松笠。今だから言うよ。

「ううん…わかるよ…自分のことだもん…。」

《っ!!!》

「これを…みんなに」

私は術から5つの勾玉を作り小松笠に渡した。

「私の…能力を…封じた勾…玉だよ。身肌離…さず持つ…よう…に伝…えて?」

《自分で渡せよ!!!それくらい!!なぁっ!!》

ごめんねそれは無理だよ。私はもう…

「ねぇ…小松笠…耳貸して…?」

《…あぁ》

「     」

《…………沙…夜…?》

「ずっと…     」

《っ………!!!!》

突然感じた感触は熱い唇と血の味。小松笠の唇がこんなに柔らかいなんて知らなかった。キスってこんなに幸せにしてくれるなんて知らなかった。私があの時拒んでしまったけど今は受け入れられる。これが未来へ続く誓いなら良かったのにね。でも最期に知れて…良かっな。

《愛してる…っ…沙夜…俺もお前を…愛してるっ…》

撫でられる頭が心地好い。細い指が髪を掻き分け頭皮に触れた。ただ小松笠は優しく撫でる。

「やっと…聞けた…。これで思い残すことは…ないよ…」

微笑みを浮かべながらゆっくり瞳を閉じる。滑り落ちた手は地面を虚しく叩き涙が頬を伝った。

《…また…会えるよな…?》

ちゃんと頷けたかな??絶対会えるよ。何時になるかわからないけど。あぁ…体がもう動けないよ小松笠。寂しいな…。私は二度目に与えられた唇の感触を感じることは出来ずに闇へ身を投げた。深くて暖かい闇に…。




《………っ!!!》

目を開けると隣には夕梅が寝息を立てていた。いつの間にか寝ていたらしい。

《…懐かしい夢…だな》

勾玉を指でもて遊びながら細く息を吐き体を起こす。すると夕梅も気がついたのか体を起こし俺を視界に捕らえた。

「よう寝たわ。ん…?小松笠よ。何故泣いておるのだ」

《…泣く?まさか…夕梅の目がおかしくなったんじゃ》

言い終わらないうちに手に雫が落ちた。自分が泣いていると気がついた瞬間せき止められなくなった想いが涙となって溢れ出す。

《おか…しいな…どうしたんだろう》

「馬鹿か貴様。そんなに辛いなら我慢する必要ないだろう。泣け。だが一人で泣くな。私が胸ぐらい貸してやる。」

優しく頭に添えられた手が夕梅へ引き寄せる。優しい声が香りがすべてが俺の中で涙へと変わってゆく。

俺は逆らうことも出来ずにその胸を借りて声をあげて泣いた。今もなお忘れられない沙夜を想って……。




……。

何がしたかったのか自分でも…

とりあえずこれは過去編です



本編はうぷする日が来るのでしょうか…

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