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4   初めての出会い (2)

 


 中野さんは、しっかりした足取りで私を支えながら歩いている。

 歩きながら、私は、中野さんの歩調は、さっきよりもぐっと遅くなってるのに気付いた。

 多分、私に合わせてくれてるんだ。

 初め、見た目でちょっと怖いって思っちゃったけど、なんか、中野さんってもしかして、すっごいジェントルマンさん?

 隣の中野さんを見上げると、「ん?」と笑顔を向けてくれた。

「それにしても、ホンマ役得やわー。こんなかわええ子と堂々と腕組んで歩けるんやもんなー。大介兄チャンにお礼言わなあかん」

 私は慌てて下を向いた。

 多分、真っ赤だ。

 カワイイなんて言われたことないんだもの。

 学校のお友達も言ってくれるけど、でも、あれは、なんかお人形さんとかワンコちゃんとかに言うみたいな言い方だし。本気じゃないと思う。

「あ、ホラ、あの白いワゴンがペンションの車や。もうちょっとやし、がんばりや?」

 私は頷いた。

 支えてもらってるけど、やっぱり気を付けてないと転んじゃいそう。

 今転んじゃったら、中野さんまで倒れちゃいそうだし。

 結構必死だ。

 それにしても、未だペンションに着く前からこんな状態なのに、私、ペンションのお仕事なんてできるのかなぁ?

 オーナーさんや中野さんに迷惑かけちゃったらどうしよう?


 中野さんが開けてくれた車のドアから、助手席に乗り込む。

 ワゴンの中は広く、後ろには二列分のシートがあった。

 運転席に回り込んだ中野さんが車に乗り込み、シートベルトを着用する。

 あ、そうか。

 私もシートベルトしなきゃ。

 普段、車で移動なんてしないから、つい忘れちゃうんだよね。

 中野さんが、キーを差し込みながら言った。

「そや、先言うとくわ。運転中は、どっか掴まっといた方がええかもしれへんで? オレの運転、荒っぽいらしいし」

「えぇっ!?」

 私は急いでドアの上部にある取っ手につかまる。

 それを見た中野さんが声を出して笑いだした。

「あははは! 渡辺さん、よーやくしゃべってくれた。すまん。本気にするとは思わへんかった。大丈夫やって、オレ、安全運転やから」

 それ、ホントにホントですよね?

「そんなに緊張せんといてーな。取って喰うたりせぇへんさかい。こんなかわええ子を助手席に乗せとんのに、危ない真似でけへんって。ただな? オレも気ぃつけるけど、この時期、雪に慣れてへん車がぎょーさんおるさかい、オカマ掘られたりすんねん。せやから、もしぶつかられてしもたときは、堪忍な」

 中野さんがエンジンをかける。

 バックで駐車場を出るとき、中野さんが左手で助手席のヘッドレストを持って後ろを振り返った。

 なんか……変な気持ち。同年代の男の人をこんな近くで見ることなんて今までなかったからかな。なんか、惹き付けられる。

 よく、テレビや雑誌で『男の人に惹かれる瞬間』ってテーマにこの格好が出てくるけど、あれ、ホントだったんだ。


 中野さんの運転は、宣言したとおりの安全運転。と言うよりも全然スピードを出さない。

 おかげで、窓の外の景色をゆっくりと眺めることができた。

 青い空、遠くに見える白い山、道や街路樹を覆う雪。

 どれもとっても綺麗。


「さっきはホンマにごめんな。渡辺さん、名前以外、何も話してくれへんさかい、嫌われたんかと思った」

 中野さんが、運転しながら話しかけてきた。

 未だもうちょっと外を見ていたいけど、失礼だよね?

「あの、ただの、人見知りなんで……」

 私は中野さんの方を振り返ると正直に答えた。先に知っておいてもらった方がいい気がしたし。

「そーなんか。確かに、大人しい感じやもんなぁ。そしたら、オレみたいなヤツ、うるさいんとちゃう?」

「いえ!」

 そんなことないです。逆に、羨ましいくらいです。

 私もそんな風に話してみたいなぁって、さっきからずっと思ってるくらいなのに。

「そや、渡辺さんって、学生さんなん?」

「ええ」

「オレも学生やでー。歳は? 聞いてもええか?」

「今、十九で、もうすぐハタチです」

「ホンマに? なんや、オレとタメやんか。渡辺さんて、なんか落ち着いてるさかい、オレよりも年上やと思うとった」

 ただ、無口なだけなんじゃないかなぁ。

 落ち着いてるなんて、恵美ちゃんたちに言ってもらったことないけどなぁ。

「なんや、そっかー。そうやったんやー。それやったら、オレ、今から『雪奈ちゃん』って呼ばせてもらお」

 はい?

「ゆっ、ゆっ……」

 『雪奈ちゃん』?!

 思わず中野さんを見上げた。

「あかんのん?」

 中野さんは、そう呼ぶのが当たり前、みたいな顔をしている。

 そんな風に聞かれても……。

「……いえ、ダメじゃない、です、けど」

 ただ、恥ずかしいんです……っていう気持ちはやっぱり言葉にならなくて。

 あぁ、こんなんじゃダメなのに。

「ほな、『雪奈ちゃん』て呼ばせてもらうな」中野さんは満面の笑みを浮かべた。「ホラ、なんか苗字に『さん』付けって堅っ苦しいやん? そういうの、オレあんまり好きちゃうねん。雪奈ちゃんも、オレのこと『昴』って呼んでんか」

 そんな気楽に言われると、かえって構えちゃうなぁ。

 とてもじゃないけど、今日会ったばっかりの、しかも男の人を、名前でなんて呼べないもの。


 それにしても、中野さんって、すごい。口から言葉が突いて出てくるみたいに話す。

 今だって、会ってからずっと中野さんが一方的に話してる感じだし。

 いいなぁ、私もこんな風に、思っていることをどんどん話せたらいいのに。

 私は一人っ子で、高校生卒業まで、学校でもずっと無口で地味な子だった。

 どうせ、すぐに引っ越しちゃうしって言う考えもあったのかもしれない。

 女の子とですらほとんど話さなかったから、男の子となんて話した記憶すらない。

 だから余計に、戸惑っちゃう。


 

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