43 冬空の日 (1)
「えっ……また昴さん寝坊してるんですか?」
朝、いつものようにケータイの目覚ましで起きて、身支度をしてから厨房に行き朝の挨拶をした後、マスターから聞いた言葉に私は聞き返した。
私の前には、呆れた顔のマスターと苦笑気味な表情で厨房に立つ浩美さんがいる。
「そうなんだよ。本当に悪いんだけど、今日も起こしてきてもらえる?」
私は引き攣った頬をなんとか笑顔に変えると頷いた。
昨夜はパジャマ・パーティーだった……はず。
うん、あれは夢じゃない。とっても楽しかったもの。
だけど、楽しかったのは覚えてるんだけど、途中から記憶がないのがちょっぴり不安。お酒を飲んだわけじゃないから、途中で眠っちゃっただけだとは思うんだけど。
一昨日の夜、上手く寝付けなかったせいで、睡眠不足だったんだろうな。
トランプゲームの後、みんなでおしゃべりが始まって……急にすっごく眠くなってきちゃったんだけど、みんながとても楽しそうで水を差したくなくて言い出せなかったところまでは覚えてる。
ただ、なんでなのかよくわからないんだけど、朝起きたら何故か自分の部屋の布団の中にいた。
私、布団を敷かずにラウンジに行っちゃったはずなのに……。
多分、私以外の誰かが敷いてくれたんだと思う。多分、と言うか、絶対に昴さんだと思うんだけど。きっと私を部屋まで運んでくれたのも昴さんだ。
あのままラウンジで寝ちゃってたら、確実に風邪引いてたとだろうな。それに、運ぶの重かったんじゃないかな。私、普段運動しないからすぐ太っちゃうし。
昴さんを起こしたら、まずお礼を言わなきゃ……。
私は昴さんの部屋の前に着くと、今朝もまた扉をノックしてみた。
「昴さん、おはようございます。起きてます?」
私の声が、母屋の廊下に空しく響いた。
しばらく待ってみるけど、予想通りまったく反応がない。
やっぱりまだ寝てるんだよね……。
昨夜、遅かったのかな? 私を運んでくれた後、飲み直してたかもしれないよね。何時頃までみんなで飲んでたんだろう?
今日も昨日みたいにすぐ起きてくれるといいんだけどな。昨日のマスターの感じだと、昴さんがすんなり起きるのって珍しいみたいだから。
「あの、昴さん。入りますよー?」
一応断りを入れてから扉を開けて部屋の中に入った。
思ったとおり、昴さんはぐっすり眠ってるみたい。
まず部屋の中を明るくしなきゃ。
昨日と同じ要領で、カーテンを勢いよくバッと開けると、外の光が部屋の中に差し込んだ。残念ながら今日はあまり天気がよくないから昨日ほど明るくはないけど、でもこれだけ明るかったら十分寝てる人には眩しいと思う。
――昴さんは、まったく反応しないけど。
私は布団の脇にしゃがむと、布団の上から昴さんを叩きながら声をかけた。
「昴さん、起きてください! 二日も続けて寝坊しちゃダメですっ!」
ダメだ。何度か叩いてみたけど、まったく反応ナシ。
相当深く眠ってるみたい。
「昴さんってば!」
今度は揺すってみる。振れ幅が小さいと気付いてもらえないかもしれないから、ちょっと大きめに。
これならさすがにわかるかな?
「ぅー……」
あ、反応した、かも。起きてくれたのかな?
このチャンスは逃しちゃいけない! 私は大きな声で昴さんに呼びかけた。
「昴さん? 聞こえてます? 起きてください!」
「う~ん……」
「ちょっとっ、昴さ――きゃっ!?」
何が起こったのか、よくわからなかった。
急に何かに引っ張られて、気がついたら今はなんか……薄暗い? 私、起きてるよね? 目開いてるよね?
それに、なんだかとっても温いし、ふんわりしてるし、私、倒れてるような?
え? ちょっと待って、ここって布団の中? なんで? 起きなきゃ。
よっと……ん? あれ? 動けない? なんか、締め付けられてる?
ちょっ、ど、どうなってるの――――――!?
「う…ん……」
私が焦ってここから抜け出そうともがいていたら、ものすごく近い場所から低い声が聞こえてきた。
あれ? この声、聞き覚えがある。昴さんと同じ声だ。
それに気が付いて身体の動きを止めると、私を締め付ける力が少し強くなった。
うぅ。ちょっとだけ、きつい、かも?
ここから出たくて思わず上を見上げると、そこに顔があった。昴さんの。
そしてようやく、今自分の置かれている状況がわかった。
どうも起こそうとする私を昴さんがうるさがって、音源(つまり私)ごと布団の中に引きずり込んだ…みた…い……?
――え? えぇぇぇえええええええ!?
ちょっ、まっ、え? えぇ――――――っ!?
こっ、これは明らかに、マズイ、よね?
自覚してしまったせいで、心臓が狂ったようにバクバク鳴り始めた。身体も異常に熱を帯びて頬が熱い。
とっ、とにかく離れなきゃ!
身を捩ってなんとか昴さんの腕から逃れようともがく。
それなのに、私を抑え込むように昴さんの腕の力がさらに強くなる。
肺を潰された私の口から、ふっと息が漏れた。
「す、昴さん、苦し……」
堪えきれなくて訴えてみたけど、その声は掠れていて自分でも情けないくらい全然音にならなかった。
ど、どうしよう?
「んー……」
昴さんが小さく声を出したのと同時に、腕の力が少しだけ緩んだ。
あっ、ちょっとだけど腕が動かせる。
私は必死になって昴さんの胸をぐいぐいと押した。
「昴さんっ、お願い、起きてっ!」
何度も呼びかけているうちに、掠れていた声がだんだんしっかりし出て来るようになってきた。
そのおかげもあってか、焦っていた気持ちが落ち着いてくる。
うん、昴さんは寝てるんだし、そんな危険はない、なはず。変なことも起こらない、はず。状況を考えると、死ぬほど恥ずかしいけどっ!
「――もうっ!」
「うっ……」
昴さんは好きな人とこんな状況になっちゃってる私の考えなんてまったく知りもしないんだけど、それで当たり前なんだけど、あまりに反応がないからちょっとムカッと来て拳で叩いてみたとき、昴さんが呻いた。