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2   冬休みのアルバイト (2)

 


 落ち込みっぱなしの私を他所に、会話はどんどん進んでいく。

「お母さんの言うように、旅行にでも行けば?」

「雪奈が? 一人で? 雪奈、あっという間にオオカミさんに食べられちゃうよ」

「恵美ってば、それは雪奈に失礼よ?」

「だって、雪奈ってば、名前どおり真っ白なんだもん」

「すっごく、ピュアだしね。可愛いし」

「確かに」

「この大学が女子大でよかったかもねー」

 ん? どういう意味だろう?

 みんな、たまに私のわからないコトバで話すんだ。

 ううん、言葉はわかるんだけど、意味がよくわからないの。

「でも、いつまでも免疫ないのもねぇ……」

 免疫? インフルエンザのこと? 流行るって言うから予防接種は打ったけどなぁ。

「そーだ。雪奈、バイトしてたんじゃなかった?」

「そういえば、カテキョのバイトしてたよね?」

 みんながいっせいに私を見る。

「それがね、年末年始は、ご両親さんの実家に帰られるんだって。だから一ヶ月間お休みなの」

「それじゃ、その間、収入もないの?」

 その言葉を聞いて、ようやく気づいた。

 うそ――――っ!!

 耐え切れなくなって、私は机の上に突っ伏した。

 親からは、きちんと仕送りを貰っているから、別に生活に困ることはない。

 だけど、それは家賃と生活費の分だけ。遊ぶためのお金はアルバイトして稼ぐように、って言われている。

 このままじゃ、せっかくのいつもより長い冬休みを、ヒキコモリで過ごさなきゃいけなくなっちゃう……。

 いっそのこと、冬眠でもしようかな。

「じゃあ、新しくバイトすればいいんじゃない? 冬休み限定の短期バイト、たくさんあるでしょ?」

 その通りだよね。うん、その通りだ。

 私も頭を切り替えて、ちゃんとしなきゃ。

 家に閉じこもって越冬とかしてる場合じゃないのよ。冬休みのこと、考えなきゃ。

「あ、私ちょうどバイト情報誌持ってるよー」

 典子ちゃんの声だ。典子ちゃんは私の隣に座ってるし、とっても特徴のある声だからすぐわかる。

「ホント? 見たい見たい」

「雪奈にピッタリなバイト、ないかなぁ」

 え? みんな探してくれちゃってるの?

 私はのろのろと頭をもたげた。

 私以外の五人が、嬉々として私の隣の机に群がっている。

 典子ちゃんが持っている雑誌の表紙はこんな見出しが書かれていた。


  冬休みのアルバイトはこれで決まり!

  短期集中バイト特集

    特集1 忘年会・新年会のバイト

    特集2 住み込みのバイト


 毎週発行されるバイト情報誌。冬休みが近いって言うのもあって、特集が組まれているみたい。

「あ、コレ、イイ感じじゃない?」

 典子ちゃんの声がした。

「あーそうかも」

「いいんじゃない?」

 朋子ちゃんと晶子ちゃんの同意の声。


 そして、五人の顔がいっせいに私の方を向く。


 え? 何? なに? ナニ?

 何か……イヤな予感。


 そしてまた、私以外の五人で一瞬顔を見合わせると、典子ちゃんがスチャッとケータイを取り出した。

 そして、無言のままどこかへダイヤルする。

「――あの、今、アルバイト情報誌を見てお電話しているんですけど、お電話で応募ってできるんでしょうか?」

 え? 典子ちゃん、バイトするの?

 冬休みは家族と過ごすから実家に帰るって言ってなかったっけ?

「あ、ハイ、名前ですね? 『わたなべ・ゆきな』です」

 ちょっ、典子ちゃんっ!?

 それ、私の名前!!

「――えぇ、お天気の『雪』に奈良の『奈』って書きます」

 ちょっとっ! 典子ちゃんってばっ!!

 声に出そうとしたら、恵子ちゃんに口を押さえられた。

 むぐぅ……、声が出ないよぉ。

「え? あ、学生です。○○女子大学の文学部英文学科で……あ、ハイ、えぇ、わかりました。じゃあ、今日中に発送します。よろしくお願いします」

 電話が終わり、典子ちゃんがケータイをしまった。

 五人とも、私の方に笑顔を向けている。

 笑顔のはずなんだけど、それが、なんか怖いよ……。

「えっとぉ……典子ちゃん、今、どこに電話してたのかなぁ、な~んて、聞いてもいいかなぁ?」

 恐る恐る、私は聞いてみた。

「ん? ココよ?」

 さも当たり前であるかのごとく、典子ちゃんは私の方へバイト情報誌を差し出した。

 綺麗にケアしている爪でトントンとあるバイト募集の記事を弾く。

 私は雑誌を受け取り、その記事の部分を読んだ。


  ~雪のペンション 住み込みバイト募集!~

  最寄のゲレンデからは徒歩五分。自由時間アリ。食事付。

  ♪明るく、元気な方、やる気のある方、歓迎♪

    期間  十二月中旬~三月中旬(応相談)

        年末年始に来ていただける方優遇します。

    日給  八千円

    連絡先 ×××・××××・××××


「……」

 私の中は文字通り真っ白。

 の、典子ちゃんってば、どういうつもりなのよぉ……。

「ほら、今の雪奈にはちょうどいいでしょ? 食事付きの旅行気分で行っておいでよ。オマケにお金にもなるし。あ、今日中に履歴書を発送してくれって言ってた」

「確か、食堂に履歴書用の写真撮れる機械、置いてなかった?」

「あ、あったあった」

「確か、購買部に履歴書も売ってたはずだし」

「じゃあ、今から行こっ、ね、雪奈」

 えっ? えっ???

 私は未だ状況がよく呑み込めていない状態。

 恵美ちゃんと秋江ちゃんに片手ずつ掴まれて食堂に拉致されてしまった。

 ワケがわからないまま、手際良く写真を取られ、朋子ちゃんが履歴書を書いて行く。

 そして気がついた時には、構内にあるポストに典子ちゃんが履歴書を投函していた。


 えっ、えぇぇえええ!?

 どどどど、どうなっちゃうの、私?


 そしてそれから約一週間後、つまり、十日ほど前。

 運がいいのか悪いのか、私はペンションのマスターを名乗る人から、アルバイト採用の連絡を受けた。

 そして今日、そのペンションがあるという長野県の某駅に着いたところというわけだ。


 

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