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22  妹キャラの認定 (3)

 


 できるだけ急いで、ゲレンデを下る。

 それにしても、やっぱり、スラロームで滑ってる人にコノハで追いつこうとすると、本当に大変。私も、スラロームができるようになりたいな。後で昴さんに教えてってお願いしてみようかな。

 そのまま滑って行くと、あと二百メートルくらいでゲレンデの一番下に着くってくらいの場所に、武田さんと河合さんが並んで立っているのが見えた。

 スピードを落としつつ近づき、最後に膝をぐっと曲げて、二人の少し後ろで止まった。

「あれ? いないみたい……」

「そうだねぇ。この辺にいると思ったんだけどなぁ」

 二人の声が聞こえて来る。

 いるはずの人がいないみたい。もちろん、浅倉さんと永野さんのことだ。

「あ、来た来た」武田さんが私に気が付いて言った。「お疲れー」

「あれ? あの二人、いはりませんのん?」

 すぐ後ろから声が聞こえてきて、私の身体がびくって動いた。

 振り返ると、私の背中の方に昴さんが来て立っている。い、いつの間に?!

「雪奈、驚き過ぎや」

 昴さんは呆れ顔で言い、「ま、そこがええんやけどな」と付け足すとまた私の頭に手をぽんぽんと置いた。

 私が昴さんを見上げて抗議の口を開きかけたとき、後ろからくすくすと笑う声が聞こえてくる。

「もー、当てられちゃうわ。仲がいいのね」

 武田さんの声に正面の方へと首を戻す。

 って、え? 当てられちゃうって? 何、どういうこと?

「ねぇ、河合君? そう思わない?」

「そうだね。微笑ましい」

 微笑ましいって、私と昴さんのこと? あ、もしかして、勘違いされてる?

 ようやく二人が何を言わんとするのかがわかって、焦る。

「え? あ、ちがっ……」

 ちゃんと否定しなきゃって思うのに、うまく言葉にならない。

 そんなわけないじゃないですか。昴さんみたいに明るくて暖かくて太陽みたいな人が、私みたいな子とだなんて、ありえないですって。

「……ちゃいますよ」業を煮やしたのか、昴さんが口を挟んだ。「そんなんじゃありませんて。雪奈はオレにとって妹みたいなもんやさかい」

 え? い、妹? 昴さんってば、私のこと、そんな風に見てるの?

 そんな考えのよぎる私の頭を、昴さんがまたぽんぽんと撫でてくれる。

「そうなの? えー」

 武田さんは未だ何か言いたげだ。河合さんは相変わらずにこにこと微笑んでいる。武田さんは、残念そうに私たちを見、次に河合さんを見、少し肩を竦めて苦笑しつつ付け加えた。

「確かに、雪奈ちゃんって妹キャラっぽい……」

 武田さんまでっ!?

 私はちょっぴり傷ついた、気がした。

「ま、それはそうと」昴さんがこの話題はおしまい、とでも言うように声を出す。「浅倉さんと永野さん、いはりませんねぇ」

「そうそう、そうなのよ。おかしいなぁ?」

「怪我でもしはったんやろか?」

「永野さんの運動神経なら、それはないと思うけど」

 眉根を寄せる武田さんと、微笑みを絶やさない河合さん。そして、そんな二人にもうすっかり溶け込んでしまっている昴さんを、私は感心しつつ眺めた。

 すごいなぁ、昴さんは。誰とでもすぐに打ち解けて話せちゃうんだもの。羨ましい。私みたいに、上手くしゃべれないなんて悩み、ないんだろうなぁ。

 だいたい、昴さんって何か悩みあるのかなぁ? 大体のことは笑い飛ばしちゃいそうだよね。くよくよ考えて、結局行動できない私とは、大違いだ。

 そんな私の考えを他所に、みんなは斜面のあちこちを眺める。私もゲレンデの中に二人の影を探した。雪が太陽の光を反射してちょっと眩しい。ゴーグルかけてなかったら、目が痛くなりそう。

 ゲレンデにはいろんな人がいて、中には男女のカップルらしき人たちもいるけど、浅倉さんと永野さんらしき人影は、ここから下のどこにも見当たらない。

「ここでちょっと待っときましょか? 戻って来はるかもしれへんさかい」

 昴さんが言うと、河合さんが首を横に振った。

「いや、滑ろう。ここにいたら周りに迷惑になるしね。僕たちがもう一周してる内に、きっと会えるよ」

「そうね」

 武田さんが同意して立ち上がる。そして、自分の後方の、斜面の上の方を見上げた。その少し乾いた口が小さく開いたまま固まる。

「あれ? ねぇねぇ、河合君。あれ、香蓮じゃない?」

 武田さんが誰かを指差しながら、河合さんの方を振り返った。

「え、どこ?」

「ほら、あれ。あそこ。白いウェアにグレーのパンツの人」

「え? あぁ、あれ? あの、スラローム……してる人?」

 河合さんが身を屈めて、武田さんの指先を追う。私と昴さんも、武田さんの指し示す方向を見た。


 そこには、颯爽と斜面を滑り降りてくる一人のボーダーさんがいた。

 武田さんが言ったとおりの、白いジャケットに明るいグレーのパンツ。ウェアの色からして、多分、女性だと思う。なんでなのかわからないけど、一際、目を引く。

 とにかく、腰から上がほとんど動かない。斜面に対してほぼ垂直を保っている。なのに腰から下大きく左右に動いていて、まるで腰のラインで身体が二つに分かれているみたいだ。

 機械みたいに正確なリズム。軽快なターン。雪飛沫もほとんどあがっていない。

 とにかく、すごく、カッコイイ。


「あのメチャメチャかっこええ人ですか?」

「うん」

 武田さんが、もう確信を持ってるみたいに頷いた。河合さんは呆れたように小さくため息をついた。

「うーん、確かに、永野さん……だねぇ」

 私たちがそんなことを話している間に、その女性ボーダーさんは見る見る内に私たちの傍まで来て、目の前で最後に雪煙を舞わせて止まった。

 女性ボーダーさんがゴーグルをおでこに上げる。予想通り、やっぱりそれは永野さんで。

「あれ? どうしたの二人とも?」

 永野さんが武田さんと河合さんに向かって言った。

「やっぱり香蓮だった!」

 武田さんが嬉しそうに言った。

 その直後、別のボーダーさんが雪飛沫を上げながら永野さんのすぐ後ろに止まる。その男性ボーダーさんは、永野さんと同じようにゴーグルを上げた。もちろん、浅倉さんだ。なんだかその眉根がちょっと寄ってるけど。

 浅倉さんは永野さんを見据えると開口一番、言った。

「お前、ほんっとかわいくねぇっ!」

「うるさいなぁ。たまたま滑れただけじゃない」

 浅倉さんの言葉をまったく気にしていない様子で、永野さんは両手を軽く振った。浅倉さんが面白くなさそうにため息をつく。

「ったく、『たまたま』のレベルじゃねぇっての。おい、永野。お前、本当に今日が初ボードか?」

「そうだけど」

 ええっ? あの滑りで、初めてなの!?

「ホンマに!?」

 私が驚くのとほぼ同時にそう叫んだのは昴さんだった。


 

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