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11  初挑戦のスノーボード (1)

 


 着こなしに自分なりに満足して姿見を片付けたところで、部屋の戸がノックされた。

「雪奈? 着替え終わった?」

「あ、ハイ」

「入ってもええか?」

「ええ」

「開けんでー」

 昴さんが部屋に入ってきた。

 あ、昴さんも着替え終わってる。

 うわぁ、なんかカッコイイ、かも。

 昴さんのウェアは、グレーと赤が基調色。ニットの帽子はウェアに合わせてグレー。ゴーグルが赤。

 似合うなぁ。スノーボーダーです! って感じがする。

 私は……どうかな。

 珍しく昴さんは何も言わない。顎に手を当てて、繁々と私を見ている。

 そんなに見られると、は、恥ずかしいんですけど。

「あの、どうですか?」

 私は聞いてみた。

「――ホンマにめちゃめちゃ似合ぉとるよ。ビックリした」そしてにっこりと笑う。「ほな行こか」


 それからさらに三十分後、私は昴さんに連れられて、ゲレンデへとやって来ていた。

 初めてのゲレンデ。初めてのスノーボード。

 ドキドキするー!!

 心臓がバクバクしてるのを感じながら、ブーツに足を包んだ。

 浩美さんのブーツは、ワイヤー式っていうタイプらしくって、普通のタイプよりも着脱がラクなんだそうだ。

 脛のところに丸いダイヤルみたいなものがあって、それをぐりぐり回すことで、靴紐の代わりのワイヤーが巻き取られて足が締まっていく。

 緩めたいときは、そのダイヤルの真ん中を押しながら、ブーツを開けばいいんだって。

 昴さんのブーツは靴紐式だ。こっちが普通のタイプらしい。

 ぎゅーっぎゅーって、一編み一編み、自分で堅く締めていっている。大変そう……。

「ワイヤータイプ、ええなぁ。オレも今度、それ買ぉとこかな」

 昴さんよりも早く履き終えてしまった私を見て、昴さんがぼやく。

 次は板だ。

 昴さんが、板を履く前に、インフォメーション・センターから少し離れた人の少ない場所に行こうって言った。

「雪奈は、スキーもやったことないんやったな?」

「はい……」

「ほんなら、まずは、板履いて立てるようにならなな。その後、スケーティングやろ? 転び方覚えてもろて、そん次はリフトやな」

 えぇぇぇええっ、もう今日リフト乗っちゃうの?

 自分の顔が一気に引きつったのがわかった。

 昴さんが私の表情を見て大笑いする。

「雪奈、今日中に、リフト二回は乗ろな。大丈夫やって。オレがついてるさかい。な?」


 インフォメーション・センターから十メートルほど離れて、ほとんど平らな、人の少ない場所まで来ると、昴さんが立ち止まった。

「ここならええやろ」

 昴さんが私に雪の上にお尻をついて座るように言う。

 足を前に出すと、板の装着の仕方を教えてくれた。まずは固定される左足から。

 かかととアキレス腱を板の金具に当てて、つま先と足首にベルトを巻いて固定する。

「じゃあ、一回立ってみよか」

 昴さんが言い、私と向かい合ったまま数歩下がった。

 え、イキナリ?

 どうやって立つのか、教えてくれないの?

 うーん……。

 私はいろいろ考えた挙句、右足を板の手前に置き、手を後ろについてから両足の方へ体重を移動してしゃがみこむような格好をする。

 左足が、なんか変~。

 それでもなんとか立ち上がった。

「片足は立てるな。よし。ほな、次は両足固定してみよか」

 昴さんは容赦がない。

 もう一度座り、さっきと同じように右足も固定した。

 うわ、膝下が全然動かない……。なんかすっごく不安なんですけどっ!

 さっきと同じように、昴さんが数歩先で私が立つのを待っている。

 やっぱり、立ち方は教えてくれないのね?

 さっきと同じようにしたら立てるのかな?

 まず、板の上にしゃがんで、両膝を……伸ばした。

「おぉ?」昴さんが目を丸くする。「雪奈、立てるやん! 立てるようになるまで、もっと時間かかると思うとった」

 ん? もしかして、私って案外すごいの?

 それにしても、ボードって足が開きっぱなしになるんだ。

 よく考えてみたら、当たり前なんだけど……慣れないなぁ。

「雪奈って、もしかして運動神経ええの?」

 昴さんが私の目の前まで来た。両手を肩に置かれる。

 私は脚を板に固定されてるから動けない。

 うぅ、ちょっと近いですよぉ。

「多分、悪くはない、かな?」

「走るんは? 速いん?」

「高校生のとき、五十メートル走は七秒代でした」

「それってかなり速いんとちゃうの?」

「んー……どう、なのかなぁ?」

 そういえば、クラスの女の子の中では三番目だった気がする。それって速いの?

「人は見かけによらんもんやなぁ」

 昴さん、昴さん。それって絶対に褒めてませんよね?

「そーか、そーか。そーやったんや。それやったら、今日中に木の葉くらい滑れるようになるんとちゃうかな……」

 昴さんがずっとぶつぶつ呟いている。

 コノハ? って何???

「よし、雪奈、予定変更や」

「え?」

「今からリフト乗るで。一日券買お」

 え? スケーティングは? 転び方は?

 一日券って、今日いったい何回リフト乗るつもりなんですかー?!

「スケーティングだけは、ちょっとはできなリフトに乗れへんさかい、今からリフト券売り場までの間でスケーティング教えるわ。転び方は、自然と覚えるやろ」

 それで終わり?!

 狼狽する私を他所に、昴さんは私の足下にしゃがみこんで、右足のベルトを外した。

 そして、あっという間に、昴さんも自分自身の板を片足だけ装着する。

 あ、昴さん、私と逆の足だ。

「オレ、グーフィーやねん。あ、グーフィーって言うんは、右足が前の人な。雪奈はレギュラー。左足が前の人」

 そんな違いがあるんだ。

 いまさら、筋斗雲ポーズの意味を知る。

「ほんなら、スケーティングな。雪奈はやったことなさそうやけど、つまり、スケートボードに乗る感覚や。固定してへん方の足で地面蹴って、体重を固定してる方の足――軸足な、そっちに乗せる。こんな感じ」

 昴さんが、私の周りを回って実演してくれた。

 昴さんの滑りはとても綺麗だ。スイーッて音がしそう。

 ある程度見せると、昴さんは板を両足で踏み締めずらし、ブレーキをかけた。

 雪煙が舞う。

「ほなやってみ?」

 昴さんのフォームを思い出す。確か、こんな感じ?

 右足で板の内側の地面を蹴り上げ、同時に左足に体重を乗せた。

 雪の上を板がが少しだけ滑って、すぐに寸詰まってしまう。右足を地面に付いた。

 やっぱり、いきなりスイーッと行くのは無理かぁ。

 どうしたら、上手に滑れるのかなぁ。


 

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