第5話(最終話) のんびりものづくりライフ、始めます
魔物襲来から一週間。
クロスベルの街は、すっかり元の穏やかさを取り戻していた。いや、元以上に活気づいているかもしれない。
なぜなら——。
「ルイさーん、注文した短剣、できてますかー?」
「ルイ殿、先日のポーション、追加で五十本お願いしたいのだが」
「ルイくん! この前のシチューのレシピ教えて! 無理? じゃあまた作って!」
工房の前に行列ができていた。
毎日だ。毎日こうだ。
「ガルドさん、助けてくれ……」
「がはは、自業自得だろうが! しかし嬉しい悲鳴だな、工房の売上が先月の二十倍だぞ」
二十倍。確かにすごいが、のんびりスローライフとはかけ離れている。
「とはいえ、ま、悪い気はしねえだろう?」
ガルドがニヤリと笑う。
「……まあ、そうですね」
否定はできなかった。
誰かのために何かを作り、それを喜んでもらえる。ものづくりの本質は、前世でも異世界でも変わらない。むしろEXランクのスキルがあるぶん、より多くの人を笑顔にできる。
これはこれで、悪くないスローライフだ。
午後、少し手が空いたので、工房の裏手に出た。
小さな庭がある。ガルドが「好きに使え」と言ってくれたスペースだ。ここに、自分だけの工房を建てようと思っている。建築スキルがあるから、設計から施工まで一人でできる。
スケッチを描いていると、背後から声がかかった。
「何を描いているんですか?」
振り向くと、フィーネが立っていた。今日は非番らしく、白いワンピースに麦わら帽子という出で立ちだ。いつものギルドの制服姿も良いが、私服もまた——。
「あ、自分の工房の設計図です。ここに建てようかと」
「わあ、すてき。どんな工房にするんですか?」
「一階が鍛冶と錬金の作業場で、二階が居住スペース。屋上にはハーブ園を作って、薬の素材を自給自足できるようにしようかと。あと、隣に小さな食堂を併設して——」
「食堂?」
「はい。料理スキルもEXランクなので。街の人に気軽に食べに来てもらえる場所があるといいなと」
フィーネが嬉しそうに目を細めた。
「ルイさんらしいですね」
「そうですか?」
「はい。いつも、誰かのためにものを作っている。そういうところが、ルイさんの一番すごいところだと思います」
「買いかぶりすぎですよ。ただの、ものづくり好きです」
「また、その台詞」
フィーネがくすりと笑った。
「ねえ、ルイさん。一つ、お願いがあるんですが」
「なんですか?」
「食堂ができたら——わたしを、最初のお客さんにしてくれませんか?」
翡翠色の瞳が、まっすぐに俺を見つめている。
「……もちろん。最高の料理を用意して待ってます」
「約束ですよ?」
「約束です」
柔らかな風が吹いて、フィーネの髪が揺れた。彼女の笑顔が、午後の陽光よりも眩しかった。
——その夜。
いつものように貸家のベッドに横たわっていると、天井にぼんやりと光の文字が浮かんだ。
『琉生さん、その後いかがお過ごしですか? アルテミアです。目立ってないか心配で確認に来ました♪』
目立ちまくっている。
『えっ。嘘。もう有名人になっちゃったんですか? うう、やっぱり始末書かなぁ……』
文字が涙ぐんでいるように見える。
『でも、楽しそうにしてるみたいで安心しました。あ、あと、フィーネさんっていう子のことが気になってるんですけど——もしかして、いい感じですか?♡』
「……神様って、こういうことにも口出しするの?」
『神様だって恋バナは好きですよ! 応援してますからね!!』
文字が消えた。
呆れたが、少しだけ笑ってしまった。
ポンコツ女神め。でも、感謝している。
この世界に送り出してくれたこと。過剰すぎるチートをくれたこと。そして——新しい人生を歩むきっかけをくれたこと。
前世では、仕事に追われて大切なものを見失っていた。好きなものづくりすら、する時間がなかった。
でも今は違う。
好きなものを作り、大切な人たちがいて、守りたい場所がある。
——明日から、工房の建設を始めよう。
ミスリルの柱に、魔法のかまど。最高の素材で、最高の工房を作るんだ。
そしていつか、フィーネに最高の料理を出す。約束したんだから。
目を閉じる。
異世界の夜は静かで、星がきれいだった。
のんびりものづくりライフ——ようやく、本当の意味で始まった気がした。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
過労死から始まる異世界転生もの、いかがでしたでしょうか。ルイの「のんびり暮らしたい」という願いは半分くらい叶い、半分くらい叶わなかったわけですが、それもまた異世界ライフの醍醐味ということで。
ルイの工房建設編、フィーネとの恋愛進展編、そして帝国からの招聘と新たな冒険を描く第二部を予定しております。
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月代




