能力測定
今までの話でレイの特徴、髪色黒とリサの特徴、髪色明るいブラウン、同年代より一回り低い身長を追記しました。
日課であるストレッチの心地よい疲労感に包まれながら、俺は馬車で配られた学園のパンフレットを手に取った。
パラパラとページをめくり、これからの予定を確認する。
本格的な授業が始まるのは三日後。だが、その間には日用品の買い出しや、新入生の義務である「能力測定」といった準備が詰まっていた。
(今日、必要な準備はすべて終わらせておくか……)
そんなことを考えていると、不意に別れる際のリサの顔が浮かんだ。彼女は「一緒に準備をしたい」と強く希望していたから、別れ際に自分の部屋番号は伝えてある。
そろそろ来る頃だろうか――。
そう思った瞬間、静かな室内に控えめなノックの音が響いた。
コン、コン、コン。
俺は「入っていいぞ」と短く返事をしながら、玄関の扉を開ける。
「おはよう、レイ君!」
扉を開けると、そこにはいつものように眩しい笑顔を浮かべたリサが立っていた。
陽だまりのようなブラウンの髪が、彼女の動きに合わせてふわりと揺れる。
「おはよう。リサは今日も元気だな」
「えへへ、だって今日から学園生活が始まるんだよ? 楽しみじゃない?」
そんな軽い会話を交わしながら、俺たちは学生寮を出た。
目的地は、能力測定が行われる学園だ。学園の敷地内へと足を踏み入れると、そこにはすでに新入生たちの長い列が何本も形成されていた。
俺たちは適当に列に並ぶ。
今回の測定は、一般的なギルドで行われるものとはわけが違う。通常の身体能力だけでなく、「魔力測定」と「スキル測定」が含まれているのだ。
スキル自体は、生まれた時に金を出して鑑定を受ければ知ることができる。俺の『譲渡』もその時に判明したものだ。だが、魔力測定については今回が人生で初めての経験だった。
列が少しずつ前に進むたび、周囲からは測定を終えた生徒たちの歓声や落胆の声が聞こえてくる。
リサは期待に胸を膨らませているようだが、俺はただ静かに、自分の順番が来るのを待っていた。
測定台の上には、透明な水晶が鎮座していた。その内部には目盛りがあり、10刻みの針で数値を読み取る仕組みになっているようだ。
「……ふぅ」
軽く息を吐き、俺は水晶に手を当てた。
冷たい感触とともに、水晶の中の針が振れる。
【レイ・ステータス測定結果】
筋力: 35
頑健: 25
俊敏: 30
精神: 30
続いて、スキルと魔力量の鑑定が始まる。
保有スキル: 持久力
ユニークスキル: 譲渡
魔力量: 黄
魔力量は、赤・橙・黄・緑・青・藍・紫の7段階で評価される。青以上であれば、エリート街道である「魔術師のカリキュラム」を受ける資格が得られるらしいが、俺の結果は下から三番目の「黄」だった。
測定を終えた生徒たちが一喜一憂する中、ついにリサの番がやってきた。
リサが緊張した面持ちで水晶に手を触れる。針が動き、示された数値はこうだった。
【リサ・ステータス測定結果】
筋力: 40
頑健: 40
俊敏: 35
精神: 40
これがリサのステータスだ。だが、幼い頃に俺から『譲渡』を受けたはずの彼女の数値が、なぜこれほどまでに低いのか。それには理由がある。俺の『譲渡』には致命的な欠陥があったのだ。それは、譲渡したステータスが本人の力として定着することはなく、時間と共に消失してしまうという事実だった。
続いて、スキルと魔力量が鑑定される。
保有スキル: 裁縫、植物学
ユニークスキル: 同調
魔力量: 青
「レイ君、見て! 私、魔力量『青』だったよ! 魔法使いに向いてるんだって〜」
弾むような声で、リサは嬉しそうに報告してくる。
能力測定の喧騒を抜け、俺たちは掲示板に張り出されたクラス分けの結果を見に行った。
人混みを掻き分け、自分たちの名前を探す。
運良く、俺とリサは同じクラスに振り分けられていた。魔術師適正の有無で一部のカリキュラムは分かれることになるだろうが、基本的にはこれからも行動を共にすることになりそうだ。
「……よかった。レイ君と同じクラスだね」
リサが隣で、少し照れくさそうに、けれど本当に安心したように呟いた。
彼女のその反応に、俺も笑顔で答えた。
その後、俺たちは学園を出て、日用品の買い出しに向かった。
慣れない街を歩き、必要なものを揃えて寮へ戻る頃には、空は淡い茜色に染まっていた。
続く二日間は、嵐の前の静けさのような時間だった。
学園内の施設を観光がてら巡り、残りの時間はいつも通り、基礎トレーニングに費やす。
そして――。
ついに、学園生活の初日を迎えた。




