過去
馬車に揺られ、単調な振動に身を任せていると、意識は自然と五年前のあの日に引き戻された。
なぜ、俺のステータスはこれほどまでに低いのか。
なぜ、俺は死ぬ気で自分を追い込み、鍛え続けているのか。
すべては、十歳の夏――幼馴染のリサと共に、町外れの森へ足を踏み入れたあの日から始まった。
森の奥で、俺たちは一匹のオオカミの子供に出会った。
震えて鳴くその姿を迷子だと思い込み、俺たちは良かれと思って、オオカミの住処が近い森の奥へと届けてしまった。だが、それが間違いだった。
戻ってきたは母親と思わしきオオカミが、オオカミの子のそばに立つ俺たちを敵だと認識し、猛然と襲いかかってきた。
その拍子に、俺たちは崖から転落し、瀕死の重傷を負った。
鋭い岩肌に叩きつけられ、全身の骨が砕ける感覚。薄れゆく意識の中で、俺はリナだけでも助かってほしいと願い、命を繋ぎ止めるためのエネルギー――すなわち「ステータス」のほぼすべてを、彼女へと譲渡した。
結果として、俺たちは一命を取り留めた。
だが、その代償として、俺のステータスの「器」は底が抜けたように空っぽになり、同時にリナの心には消えない傷を負わせてしまった。
だからこそ、俺は鍛えるしかなかった。
数値としては反映されずとも、彼女を守れるだけの力を、この身に刻み込むしかなかったのだ。
「……レイ君? どうしたの、怖い顔して」
隣でリサが顔を覗き込んでくる。
彼女の瞳に映る俺は、果たしてどう見えているのだろうか。
「……いや、なんでもない。少し昔のことを思い出してただけだ」
あの日、リサを救うためにすべてを投げ出したあの日から、俺の歩みは始まった。




