竜の住む島へ向かう三人と生き物たち
ワタリガメが、波を押し分けてやってきた。
「ワタリガメさんも来てくれたんだぁ」
ギルターがゼータをちらっと見る。
ツムギたちがワタリガメに乗り込もうとすると、再びおばあが駆けてきた。
ヤシロさんも後をついてきている。
「ツムギ、持っていきな。ヤシロが間に合ったよ」
「なぁに?」
おばあがずっしりとした包みを差し出す。
ツムギは風呂敷をほどく。
「あ……」
「ズカンか」
ギルターが微笑む。
おばあの家に置いていた、ツムギの図鑑だった。
このあわただしい混乱の中、わざわざ取りに行ってくれたのか。
「……ありがとう。また忘れるとこだったよぉ」
ツムギがお礼を言うと、おばあはうなずく。
「うちにあっても邪魔だから持っていきんしゃい。──代わりに、フワモコの写真は全部あたしがもらうからね」
「はぁい。──ヤシロさん」
ツムギは笑って、おばあの後ろで静かにこちらを見つめるヤシロに右手を差し出す。
「色々、ありがとうねぇ。美味しいご飯、ごちそうさまでした」
ゼータが、ぴくりと眉をあげる。
ヤシロさんは、やっぱり無口にうなずいて、ツムギの手を力強く握った。
それを見届けて、ギルターが声を上げる。
「さぁ、一緒に行こう!」
始まりのあの日のように、ギルターはツムギを抱き上げてワタリガメの背に乗った。
ゼータが腕の煤を払いながら、背筋よく乗り込む。
ミルゥは図鑑の包みを背中に乗せて運んでいる。
カガリが上空を舞う。
ナギウモがモチウミを乗せて、周りを踊るように泳ぐ。
ワタリガメが海を滑り出した。
村が、みるみる遠ざかっていく。
おばあとヤシロさんが手を振っている。
ツムギもミルゥの手を握って振り返す。
他にも何人か、こちらに手を振っている村人がいた。
イオリと両親も、こちらをじっと見つめていた。
潮風がツムギの髪を撫でた。
胸元の祝珠がやわらかく光る。
……行ってきます。
一言、心の中でつぶやいて、ツムギはギルターたちの方へと向き直る。
ギルターは、ゼータをつついていた。
「ゼータお前、ツムギに言うことがあるだろ」
ゼータは不思議そうにしていたが、顎に手を添えてちょっと考えて、「ああ」とつぶやく。
「ツムギは、ヤシロとかいう男と、私の料理のどっちが……」
「ちがーう!!」
ゼータのボケ(?)とギルターのツッコミに、ツムギは吹き出す。
ギルターがわめく。
「そうじゃなくて!ツムギを脅したのをちゃんと謝れって!ほら、兄ちゃんが一緒に謝ってやるから!」
騒ぐギルターと対比的に、ゼータはいつも通りスンとしている。
「都合のいい時だけ兄貴面しないでください」
「おい!」
ツムギはあはは、と声をあげて笑う。
ゼータのほうを向いて、話しかける。
「ねえ、ゼータ」
ゼータの青い瞳がゆっくりとツムギを捉える。
「……はい」
「あのねぇ、ちゃんとわかってるよ。──あたしを傷つけるためじゃなくて、守るためだったって」
「……は、」
「え?」
「優しいねぇ、ゼータ」
ゼータはなぜか固まっている。
ギルターはきょろきょろと、ゼータとツムギを見比べている。
「あー、もう!!」
と、ツムギは海に向かって叫ぶ。
「二人とも、大好きだぁ!!」
「え?!」
ギルターがあわてふためく。
「待てツムギ!二人とも……って、変な意味じゃないよな?!」
えへへ、と笑ってツムギはミルゥを抱きしめる。
「ミルゥも、ナギウモちゃんも、モチウミも、カガリも、ワタリガメさんも、だーいすき!みんな大好き!!」
「あ、うん。そういう“好き”だよな?」
──なら、よかった。
と、ギルターが背後からぎゅう、と抱きしめてくる。
それがあんまりにも心地よくて安心して、ツムギはしばらく目を閉じたまま、そうしていた。
ふと思いついて、ギルターに向き直る。
「ねぇ、ギルター」
「ん?」
「あたしを信じて、も一つお願いを聞いてくれる?」
「……君の願いなら、何でも」
ギルターは片目をつむってみせる。
「そのために、俺はいるんだぜ」
「──キザすぎです」
ゼータがすかさずツッコんだ。
ツムギは肩をすくめる。
「……代わりに言われちゃったぁ」
ワタリガメは、海を滑るように渡っていく。
境界を越える感覚。
真珠宮が──ツムギたちの家が、見えてきた。




