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ニライカナイの花嫁  作者: 望月冴子
第5章:帰ってきた場所

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竜の住む島へ向かう三人と生き物たち

 ワタリガメが、波を押し分けてやってきた。


「ワタリガメさんも来てくれたんだぁ」


 ギルターがゼータをちらっと見る。

 ツムギたちがワタリガメに乗り込もうとすると、再びおばあが駆けてきた。

 ヤシロさんも後をついてきている。


「ツムギ、持っていきな。ヤシロが間に合ったよ」

「なぁに?」


 おばあがずっしりとした包みを差し出す。

 ツムギは風呂敷をほどく。


「あ……」

「ズカンか」


 ギルターが微笑む。

 おばあの家に置いていた、ツムギの図鑑だった。

 このあわただしい混乱の中、わざわざ取りに行ってくれたのか。


「……ありがとう。また忘れるとこだったよぉ」


 ツムギがお礼を言うと、おばあはうなずく。


「うちにあっても邪魔だから持っていきんしゃい。──代わりに、フワモコの写真は全部あたしがもらうからね」

「はぁい。──ヤシロさん」


 ツムギは笑って、おばあの後ろで静かにこちらを見つめるヤシロに右手を差し出す。


「色々、ありがとうねぇ。美味しいご飯、ごちそうさまでした」


 ゼータが、ぴくりと眉をあげる。

 ヤシロさんは、やっぱり無口にうなずいて、ツムギの手を力強く握った。


 それを見届けて、ギルターが声を上げる。


「さぁ、一緒に行こう!」


 始まりのあの日のように、ギルターはツムギを抱き上げてワタリガメの背に乗った。

ゼータが腕の煤を払いながら、背筋よく乗り込む。

 ミルゥは図鑑の包みを背中に乗せて運んでいる。

カガリが上空を舞う。

 ナギウモがモチウミを乗せて、周りを踊るように泳ぐ。


 ワタリガメが海を滑り出した。


村が、みるみる遠ざかっていく。


 おばあとヤシロさんが手を振っている。

 ツムギもミルゥの手を握って振り返す。

 他にも何人か、こちらに手を振っている村人がいた。


 イオリと両親も、こちらをじっと見つめていた。

 潮風がツムギの髪を撫でた。

 胸元の祝珠がやわらかく光る。


 ……行ってきます。


 一言、心の中でつぶやいて、ツムギはギルターたちの方へと向き直る。

ギルターは、ゼータをつついていた。


「ゼータお前、ツムギに言うことがあるだろ」


 ゼータは不思議そうにしていたが、顎に手を添えてちょっと考えて、「ああ」とつぶやく。


「ツムギは、ヤシロとかいう男と、私の料理のどっちが……」

「ちがーう!!」


 ゼータのボケ(?)とギルターのツッコミに、ツムギは吹き出す。

 ギルターがわめく。


「そうじゃなくて!ツムギを脅したのをちゃんと謝れって!ほら、兄ちゃんが一緒に謝ってやるから!」


 騒ぐギルターと対比的に、ゼータはいつも通りスンとしている。


「都合のいい時だけ兄貴面しないでください」

「おい!」


 ツムギはあはは、と声をあげて笑う。

 ゼータのほうを向いて、話しかける。


「ねえ、ゼータ」


 ゼータの青い瞳がゆっくりとツムギを捉える。


「……はい」

「あのねぇ、ちゃんとわかってるよ。──あたしを傷つけるためじゃなくて、守るためだったって」

「……は、」

「え?」

「優しいねぇ、ゼータ」


 ゼータはなぜか固まっている。

 ギルターはきょろきょろと、ゼータとツムギを見比べている。


「あー、もう!!」


 と、ツムギは海に向かって叫ぶ。


「二人とも、大好きだぁ!!」

「え?!」


 ギルターがあわてふためく。


「待てツムギ!二人とも……って、変な意味じゃないよな?!」


 えへへ、と笑ってツムギはミルゥを抱きしめる。


「ミルゥも、ナギウモちゃんも、モチウミも、カガリも、ワタリガメさんも、だーいすき!みんな大好き!!」

「あ、うん。そういう“好き”だよな?」


  ──なら、よかった。 


 と、ギルターが背後からぎゅう、と抱きしめてくる。

それがあんまりにも心地よくて安心して、ツムギはしばらく目を閉じたまま、そうしていた。

ふと思いついて、ギルターに向き直る。


「ねぇ、ギルター」

「ん?」

「あたしを信じて、も一つお願いを聞いてくれる?」

「……君の願いなら、何でも」


ギルターは片目をつむってみせる。


「そのために、俺はいるんだぜ」

「──キザすぎです」


 ゼータがすかさずツッコんだ。

 ツムギは肩をすくめる。


「……代わりに言われちゃったぁ」


 ワタリガメは、海を滑るように渡っていく。


 境界を越える感覚。


 真珠宮が──ツムギたちの家が、見えてきた。


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