水も滴る
ミルゥが、ぶるぶるっと身震いして水を払った。
飛び散った水滴が、陽の光を受けてきらきらと輝く。
見上げると、太陽はすでに高く昇っている。
「太陽の動きは、あたしがいた世界と同じなんだねぇ」
「月と星もな。空は天の神様の領域だから、よく知らねえけど……」
そんな話をしていると、宮殿の方からゼータの声がした。
「──昼飯ですよ」
顔だけ出して短く告げると、すぐに引っ込んでしまう。
ツムギは自分のお腹を押さえた。
「確かにお腹空いたなぁ」
「よっしゃ、早く行こうぜ」
「くぅーん!」
ギルターはツムギをミルゥに乗せる。
二人と一匹は意気揚々と宮殿へ向かう。
その入口で、ゼータが待ち構えていた。
「そのまま入ってこないように!」
両腕には、タオルが十枚ほど抱えられている。
「砂まみれですよ、お前たち」
ゼータは大量のタオルを思い切りギルターに投げつけた。
「おわっ!」
慌てて受け止めるギルター。
加減を知らないゼータに、ツムギは思わず笑ってしまった。
「しゃーない、身体洗うぞ。ミルゥ、こっちだ」
案内されたのは、宮殿入口の脇にある小さな円形の部屋だった。
壁を見るなり、ツムギは目を見開く。
「……え?」
何かが、ぺたりと張りついている。
淡い青色のぷにぷにした生き物だった。
半透明の体の中に、水がたっぷり詰まっているように見えた。
表面はつやつやしていて、まるで水饅頭みたいだ。
呼吸するみたいに、ゆっくりと膨らんでは、また戻る。
部屋の壁のあちこちに、全部で三匹くっついている。
「ほわぁ!ウミウシ……?アメフラシかな?」
「こいつは“モチウミ”って言うんだ」
「モチ……?かわいい名前だねぇ」
ギルターは、にやりと笑った。
「まあ見てろ。──おっと、息止めろよ」
「え?」
ギルターは上の方にいるモチウミの体を、ぷにっと指で押す。
次の瞬間──
バッッッシャアアアア──────!!!!!
「ほわあっ!!!?」
頭上から、豪快な水の滝。
ツムギたちはびしょ濡れになる。
「な、なにこれぇ!!?」
「シャワーだぜ」
「えぇぇぇぇ!?」
口に入った水を舐めてみる。
しょっぱくない。
真水みたいだ。
「すごっ!この子が水を出したの?」
「おう」
ギルターが笑いながら濡れた髪を片手でかき上げる。
ツムギは思わず見惚れた。
「ほわぁ……水も滴る……ってやつ?」
「ん?なんだ?」
「なんでもなぁい」
ツムギは慌てて視線を逸らし、モチウミを見つめる。
「どういう仕組みなのかなぁ。ぷにぷにされて、嫌じゃない?」
「つつかれるのが嬉しいらしいぜ」
「えぇー?」
ツムギは、にこにこしながら指を伸ばす。
「じゃあ、ちょっと失礼して……」
ぷに。
──バッッシャア!!
「あははっ!なにこれぇ!」
楽しさに、体が揺れる。
「えい、えいっ」
ぷにぷに。
クセになる感触だった。
ひとしきり水を浴びたあと、壁を見たツムギは小さく悲鳴を上げる。
「……やだぁ!しぼんじゃったよぉ!」
モチウミたちは、明らかにさっきより二回りほど小さくなっている。
「つつきすぎたかな。ごめんねぇ……」
「ぷぅー」
小さく水を吐くモチウミ。
それを見て、ギルターが笑った。
「海に浸すと戻るから大丈夫だぜ」
「あらぁ!そんな都合のいいシステムなの?」
見ていると、モチウミたちは砂の上をすりすりと這い、そのまま自分で海へ戻っていった。
「うーん、いい子だねぇ」
すっかり砂と海水を洗い流され、ニ人と一匹は玄関へ戻る。
ゼータが用意したタオルをギルターが手に取る。
「人間は濡れたままだと風邪をひくんだろ?乾かさないとな」
「え?竜人はひかないの?」
ツムギが目を丸くする。
「ひいたことねぇな。風邪って、どんな感じだ?」
そう言いながら、ギルターがツムギの服に手をかざす。
ふわり、と布が乾いた。
「ほわっ!魔法──あ、神気かぁ」
「そう。神気を編み込んだ布だから、効きやすい」
「すごすぎぃ!」
ギルターは照れながら、自分の服もあっという間に乾かす。
「ほら、髪も乾かしてやる。そっちはタオル使うけど」
「え、自分で出来るってばぁ……」
「俺がやりたいんだって」
「──どっちでもいいから早くしなさい。料理が冷めます」
ゼータの冷たい声が、二人の間の温かい空気を切り裂く。
二人は顔を見合わせて、吹き出した。
結局、ギルターに髪を拭いてもらい、二人と一匹は、ようやく食堂へ向かった。




