4第話『紅き誓い ―Bond of Blood―』
夜の風が、静かに二人の髪を揺らしていた。
冷たく凍えるほどの空気の中で、ただ一つ――温もりだけが確かにあった。
姫の唇が、ソラの首筋を離れたとき。
月明かりに照らされたその顔は、もう“少女”ではなかった。
白磁のような肌に、薄く紅が差す。
銀髪がふわりと舞い、紅の瞳がゆらめく。
そして――時が、確かに動き出していた。
「……あ、あれ……? 君……」
ソラは目を見開いた。
さっきまで中学生くらいだった姫が、今は自分と同じくらいの年に見える。
肩のライン、指の細さ、唇の形――どれも大人びていて、美しく、どこか妖しい。
「どうしたの? その顔……赤いよ?」
姫が首をかしげ、無垢な瞳でのぞき込んでくる。
その距離、数センチ。
ソラの喉が鳴った。
「な、なんでもないっ!」
慌てて目を逸らす。だが、目を閉じても脳裏から離れない。
あの柔らかい唇の感触、指先に残る彼女の体温。
心臓が、爆発しそうに跳ねる。
――おかしい。
死にかけた俺の心臓が、こんなにも騒がしいなんて。
「……ソラ」
姫の声が少し震えていた。
「私……こんな気持ち、初めてなの。胸が痛いのに、苦しくない……」
姫は自分の胸に手を当てる。
そこから、確かに鼓動が響いていた。
――トクン、トクン。
永遠に止まっていた心臓が、今、彼の血で動き始めたのだ。
「それが、“生きてる”ってことだよ。」
ソラが小さく笑う。
「変な感じだろ? 俺もそうだった。苦しいけど、嬉しいんだ。」
姫はゆっくりと頷いた。
その瞳に映るのは、もう“主”と“従者”ではなく――ただ一人の“想い人”だった。
だが、その穏やかな時間は、長くは続かなかった。
――ズズンッ!
地鳴りのような音が街を震わせる。
ソラが振り返ると、空が裂けていた。
黒い霧の中から、異形の影が這い出してくる。
血の契約で生まれた“禁忌の力”を感じ取り、彼らは現れたのだ。
「……来たか。」
姫の瞳が鋭く光る。
「“真祖”の血を狙う者たちよ。」
「真祖……?」
「私の中に流れる、最古のバンパイアの血。その力を求める者は、時空を越えてでも来るわ。」
ソラは拳を握る。
体の奥に熱が走った。
血の契約――彼の中にも、姫の力が流れている。
「逃げても、追ってくるだろうな……」
「だから、戦うしかない。」
姫は微笑む。
「もう、あなたを死なせはしない。今度は――私があなたを守る。」
その言葉に、ソラの胸が熱くなる。
二人は並んで立つ。
夜の街を紅い光が包み込み、運命の歯車が静かに動き出した。
> 「さぁ――“紅き誓い”を果たしましょう。」
二人の足元に、紅の魔法陣が浮かび上がる。
その光が夜空を染め上げた瞬間、
闇の獣たちの咆哮が響き渡った――。




