第3話『主と従者 ― 血が繋ぐ永遠 ―』
> ――鼓動が聞こえる。
自分のものではない。
遠くで、もうひとつの命が脈打っている。
目を開けると、紅い月が視界を染めていた。
そして、泣きそうな顔の少女――リュシアがいた。
「……ソラ」
その声は震えていた。
白かった頬に、紅い血の雫が伝う。
「君……助けてくれたのか?」
リュシアは小さく首を振る。
「助けたのではないわ。――奪ったの」
彼女の唇には、まだ赤い血が残っていた。
「あなたの血を飲んだ。
それで……私の時が、再び動き出したの」
ソラは息を呑んだ。
目の前のリュシアの姿が、さっきと違う。
まるで時間が一気に流れたように、
少女の姿から、同年代の女性の姿へ――
銀の髪は肩に流れ、
白い肌は血の温もりを取り戻し、
その瞳は紅く、艶やかに揺れていた。
「……リュシア……?」
ソラの喉が鳴った。
美しい。
ただ、それだけしか言葉が出なかった。
体が熱くなる。
心臓が暴れ出す。
視線を逸らそうとしても、もう遅い。
「ど、どうしたの……?」
リュシアが首を傾げた瞬間、
ソラは慌てて背を向けた。
「な、なんでもないっ!」
声が裏返った。
自分でもわかるほど、顔が熱い。
リュシアはその反応に気づき、
わずかに唇を噛んだ。
「……ふふ。あなた、照れてるの?」
「ち、違っ……!」
互いに視線を逸らす。
でも、耳まで真っ赤になっていた。
その瞬間、リュシアの胸の奥で、
何かが確かに“動いた”。
数百年ぶりに感じる“鼓動”。
それはソラの血が与えた、
彼女の“生”の証だった。
「……不思議ね」
リュシアは静かに呟いた。
「私の時を動かしたのは、あなたの血。
そして、あなたの想い」
ソラはその言葉に、息を止めた。
紅い月の下、
二人の影がゆっくりと重なっていく。
「ようこそ、私の従者――紅ソラ。
あなたと共に、生きていく」
その夜、
止まっていた姫の時と、
終わったはずの少年の命が、
ひとつの“永遠”として動き出した。




