第2話『血の契約 ― 紅に染まる夜 ―』
> 夜の路地裏。
静けさを破るように、怒鳴り声が響いた。
「おい、やめろよ!」
数人の男たちが少女を取り囲んでいた。
白い頬を殴られ、倒れかけている。
彼女だ――あの時、月の下で見た銀髪の少女。
僕の心臓が勝手に跳ねた。
体は震えていた。
でも、足は自然に動いた。
「離せって言ってるだろ!!」
男の拳が飛ぶ。
視界が揺れる。血の味が広がる。
それでも――彼女を抱き寄せた。
彼女の体は冷たく、細く、壊れそうだった。
「大丈夫…俺が守るから…」
何度も殴られた。蹴られた。
でも、そのたびに腕の中の彼女を強く抱きしめた。
どんなに痛くても、それだけは離せなかった。
「……俺、やっと死ねるんだな」
体が冷えていく。
音が遠のき、視界の端で彼女の紅い瞳が揺れた。
白い肌。銀の髪。紅い瞳。
「……一目惚れだったんだ」
彼女は俺よりずっと幼く見えた。
それでも、あの瞬間、
世界で一番美しいと思った。
「今度生まれ変わったら……この子と結婚したいな……」
涙がこぼれた。
彼女の冷たい手が、僕の頬に触れた気がした。
「死なせない……そんなこと、許さない……」
彼女の声が、泣いていた。
次の瞬間、首筋に熱い痛み。
彼女は僕に噛みついた。
はじめて飲む人の血。
その味は、甘く、そして――悲しかった。
「お願い、ソラ……目を覚まして……私の従者として、生きて……」
月光が二人を照らす。
白と紅が混ざり合い、
その夜、血の契約が結ばれた。
少年は死を越え、
姫の従者として、新たな“永遠”を歩み始める。




