第1話:創造の始まり ― 二つの命 ―
――空は、絵筆で塗ったように澄み渡っていた。
雲一つない青の下、姫は花咲く丘の上で深呼吸をした。
「ん~……今日も平和ねぇ。ね、ソラ?」
「うん。昨日も平和だったし、明日も多分、平和だよ」
隣では、半分寝ぼけた顔の青年――ソラが、草の上に寝転んでいた。
創造主のくせに、やる気ゼロである。
「……ねぇ、ソラ。創造主って、もう少しシャキッとしてても良いと思うの」
「いやだって、昨日“国造り”終わったばっかりだよ? 腰がまだ痛いんだ」
「あなた、竜を素手で倒すくせに、腰痛はあるのね……」
「戦いは心でやるけど、腰は現実なんだよ」
姫はため息をつきながらも、笑みを浮かべた。
彼のそんな“人間くさい”ところが、嫌いになれなかった。
そのとき――。
丘の花々がふわりと光を帯び、二人の周囲にやわらかな風が舞う。
姫とソラが思わず見つめ合うと、胸の奥が温かく輝いた。
「……ねぇ、ソラ。何か、始まる気がしない?」
「ん? また魔方陣暴発?」
「違うの! なんか、命の気配が――」
次の瞬間、彼女の掌から淡い光があふれ出し、空へと昇っていった。
光は分かれ、ふたつの小さな星となり、ゆっくりと降りてくる。
やがて――姫の腕の中に、赤子が二人。
「わ……っ、わあああ! これ、もしかして……」
「そう。私たちの……命が、二つ」
姫は嬉しそうに微笑み、そっと抱きしめた。
双子の赤子は、まだ目を開けたばかりなのに、姫の指をぎゅっと握る。
「こっちの子は、よく笑うね」
「王子ね。じゃあ、“レイ”と名づけましょう」
「で、こっちは……泣き虫だなぁ」
「姫ね。“ルナ”にしましょう」
「ふふ。いい名前だ」
「ええ。あなたが考えたんでしょう?」
「……あれ、そうだっけ?」
「もう、ほんとにもう!」
姫が頬をふくらませると、ソラはくすぐったそうに笑った。
風がやさしく二人を包み、遠くで鳥たちが囀る。
その音に導かれるように、空に魔方陣が浮かびあがる。
「また光ったぞ!? これ、今度は何!?」
「落ち着いて、ソラ……あれは、“次の命”よ」
魔方陣の光から、柔らかな声が響いた。
「お帰りなさいませ、主様――」
光の中から現れたのは、にこやかにお辞儀をする少女。
清らかな衣をまとい、手には紅茶のポット。
「……えっ、最初に生まれたの、メイドさん!?」
「きっと、あなたの“のんびり癖”が形になったのね」
「そんな、俺の怠け心が具現化ってこと!? やだなぁ……」
姫は笑い、ソラもつられて笑った。
丘には笑い声と風の歌が広がっていく。
こうして、争いのない“創造の国”の最初の一日が、ゆるやかに始まった――。




