第4話:星空の下の、小さな灯火
ガンツさんの鍛冶屋での一件は、静かな噂となって町に広がった。僕は、すっかり町の子供たちのヒーローになっていた。
「リオ! やっぱりお前、すげーよ!」
その日の午後、ガキ大将のリナが子分たちを引き連れて、キラキラした目で僕に迫ってきた。
「ガンツのおっちゃんを動かせるなんて、お前しかいない! なあ、頼む! 俺たちの『星降り祭り』を復活させてくれよ!」
その真っ直ぐな瞳に、僕は「できない」なんて言えなかった。
「…わかった。でも、いきなり大きなお祭りは無理だ。だからまず、小さなことから始めてみよう」
僕たちの「星降り祭り・復活プロジェクト」が始まった。
僕の提案は、シンプルだった。
「まず、町のみんなの帰り道を照らす、『灯籠』をたくさん作らないかい?」
さっそく、僕たちは灯籠作りを始めた。材料は、ありあわせの木の棒と、古い障子紙だ。子供たちの不器用な手では、歪んだ骨組みしかできない。でも、みんな夢中だった。
作業を始めて一時間ほど経った頃だった。
「……」
無言で僕たちの輪に加わってきた人影がいた。ガンツさんだった。彼は何も言わず、僕たちの作った歪な木の骨組みを手に取ると、自分の工房に持って帰ってしまう。そして数分後、彼が持ってきたのは、繊細な細工が施された、美しい鉄製の灯籠のフレームだった。
「うわぁ…!」
「すっげえ! キレイ!」
子供たちから、感嘆の声が上がる。ガンツさんは、ぶっきらぼうな顔で、しかしどこか誇らしげに、次々とフレームを作り始めた。
日が暮れる頃には、食堂の前に、たくさんの灯籠が並んでいた。
「よし、火を灯そう!」
僕の合図で、子供たちが一本一本、ろうそくに火を灯していく。
ぽっ、ぽっ、と。オレンジ色の、優しい光が広場に灯り始める。
その灯りと、子供たちの笑い声に誘われて、家の中に閉じこもっていた大人たちが、一人、また一人と、広場に顔を出し始めた。
「…なんだい、こりゃ」
「ああ、『星降り祭り』の灯籠じゃないか…」
彼らは、懐かしそうに目を細めた。
歪な灯籠。まばらな人影。けれど、そこには確かに、5年前に失われたはずの「お祭り」の欠片が息づいていた。
空を見上げれば、満点の星が輝いている。星の光と、地上に灯った小さな光。それらが、ミソラ町の長い夜を、優しく照らしていた。
それは、灰色の町に灯った、希望という名の、小さな、しかし何よりも力強い灯火だった。