第12話:届け!魂のアンコール!
「目標、巨大建造物。脅威度判定、レベルC。…排除を開始します」
ジェントの冷たい声が響く。レギュレーターが、ミソラ丸に向かって、重い足取りで歩み始めた。
「野郎ども、ビビるんじゃねえぞ! こいつは神輿渡御だ! 威勢よく行くぞ!」
ガンツさんの檄が飛ぶ。
「「「ワッショイ!ワッショイ!」」」
男たちの掛け声が、ミソラ丸を前進させる唯一のエンジンだ。
ゴウン!
先に動いたのは、レギュレーターだった。その灰色の腕が、ミソラ丸の側面めがけて、薙ぎ払うように振るわれる。
「させっかよ! 右に避けろ!」
ガンツさんの号令で、担ぎ手たちが絶妙なコンビネーションで神輿を操り、紙一重でその攻撃をかわす。
「お返しだ! てっぺんの拳骨、ぶちかませ!」
男たちが、大きく神輿を揺らす。てっぺんに鎮座する巨大な鉄の拳骨が、遠心力を利用してレギュレーターの胴体へと叩きつけられた!
ゴッッ!と、鈍い音が響く。レギュレーターの身体が僅かにぐらついたが、装甲に傷一つついていなかった。
レギュレーターは、無感情なカメラアイでミソラ丸を捉えると、今度はその両腕で、神輿の担ぎ棒をがっしりと掴みかかってきた。
「う、動かねえ!」
「持ち上げられるぞ!」
最新鋭の魔導機関と、数十人の生身の人間の力比べ。結果は、火を見るより明らかだった。ミソラ丸が、ゆっくりと、しかし確実に持ち上げられていく。
「くそっ…ここまでか…!」
ガンツさんが、悔しそうに歯を食いしばった。
その時だった。広場に、僕の、声にならない叫びが響いた。
「―――まだだ! まだ、祭りは終わってない!」
僕は、広場の隅にあった祭り太鼓へと駆け寄り、ありったけの想いを込めて、それを打ち鳴らした!
ドン!ドン!ドン!
それは、ただの音ではなかった。僕の【祝祭の力】が、最大限に増幅された、魂のビートだった。
(まだ終わらせない! この町が好きだ! ここにいるみんなが好きだ!)
僕の太鼓の音が、人々の心に直接響き渡る。諦めかけていた担ぎ手たちの瞳に、再び光が宿った。
「「「ワッショイ!ワッショイ!」」」
担ぎ手たちの掛け声が、先ほどとは比べ物にならないほど力強くなる。それは、僕のスキルと共鳴し、奇跡のエネルギーを生み出していた。持ち上げられていたミソラ丸が、ギシギシと音を立てながら、レギュレーターの力を押し返し始める。
「な…馬鹿な! 出力が人間の気力に押されているだと!?」
ジェントの冷静な声が、初めて焦りの色を帯びた。
僕の太鼓のビートに合わせ、エマさんが、リナが、そして広場にいた全ての住民が、手拍子を始め、声を張り上げた。
「ワッショイ!ワッショイ!」
町中の声援が、ミソラ丸へと注ぎ込まれ、金色の光を放ち始めた。
「今だああああ! やっちまええええ!」
ガンツさんが吠える。
担ぎ手たちは、最後の力を振り絞り、光り輝くミソラ丸を、レギュレーターの胸板めがけて、渾身の力で突進させた!
光の塊と化したミソラ丸が、レギュレーターに激突した瞬間、世界から音が消えた。
次の瞬間、轟音と共に、レギュレーターの灰色の装甲が、ガラスのように砕け散った。内部の魔導回路がショートし、鋼鉄の巨人は、大地を揺るがすほどの音を立てて、広場の中心に崩れ落ちた。
「「「うおおおおおおおおおおっ!!!!」」」
誰かが上げた勝利の雄叫びを皮切りに、町中が、割れんばかりの歓声に包まれた。
勝ったのだ。守り抜いたんだ。
僕の、僕たちの大切な居場所を。