第11話:出陣!巨大神輿ロボ「ミソラ丸」
「……ふざけた、真似を…!」
後方で戦況を見ていたジェントの、地の底から響くような低い声が響いた。彼の完璧に整えられた銀髪は、飛び散った綿あめが数本くっついて、僅かに乱れている。それは彼にとって、生涯で最大級の屈辱だった。
「もういい。下がれ」
ジェントは冷たく言い放つと、右手を静かに天へ掲げた。
「これより、第二段階へ移行する。全ての『非効率』を、更地へと最適化せよ」
その合図と共に、大地を揺るがす重い足音が近づいてきた。
ゴウン…ゴウン…
兵士たちが左右に割れ、その姿を現した時、ミソラ町の陽気な空気は、一瞬で凍りついた。
それは、巨大な人型の機械人形―――ゴーレムだった。
全身が、滑らかな灰色の金属で覆われ、関節や動力部には青白い魔導光が走っている。無駄な装飾は一切なく、ただひたすらに「効率的」な破壊のためだけに設計された、冷徹なフォルム。
その名は「効率化ゴーレM・レギュレーター」。
レギュレーターは、僕たちの仕掛けたトラップなど意にも介さず、ただまっすぐに広場へと侵入してくる。そして、祭りのために建てられた歓迎のアーチの前で止まると、その腕の一本を、静かに、そして何の予備動作もなく、振り下ろした。
轟音と共に、僕たちが何時間もかけて作ったアーチが、木っ端微塵に砕け散る。
それは、僕たちの「楽しい」が、冷たい「暴力」によって、赤子の手をひねるように打ち砕かれた瞬間だった。
町に、絶望が再び忍び寄る。
その、全ての音が消えた静寂の中で、しかし、一つの声だけが、朗々と響き渡った。
「―――ビビってんじゃねえぞ、野郎ども!」
ガンツさんだった。
「祭りの主役は、遅れて登場するもんだ! 開けろぉ、門をぉ!」
ガンツさんの号令と共に、彼の工房の巨大な引き戸が、ギギギ…と音を立てて両脇へと開かれていく。
暗い工房の中から、信じられないほど巨大な影が、ゆっくりと姿を現した。
「「「「ワッッッショイ!!!!」」」」
数十人の、町の男たちの雄叫び。
その声に押し出されるように、”それ”は、太陽の下へと躍り出た。
それは、僕たちが作り上げた、希望の塊。祭りのために作られた、世界で一番バカげた決戦兵器。
天を突く巨大な鉄の拳骨。金と赤で彩られた、派手すぎる装飾。屋根には、町の守り神である竜の彫刻が勇ましく咆哮している。
「出陣だ! 巨大神輿ロボ『ミソラ丸』!」
ガンツさんが、神輿の先頭で采配を振るう。
広場の中央で、冷たい鋼鉄の巨人と、温かい人々の想いが詰まった木の巨人が、静かに、しかし激しい火花を散らしながら、睨み合った。
ミソラ町防衛祭り、最終演目。
その幕が、今、切って落とされた。