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3.嫌いなタイプは失礼な人です


バン!っと大きな音をたてて開かれた扉は、突然の強い力に小刻みに振動しているが壊れることは無かった。

古臭いが丈夫さは失われていないようだが、突進と謂わんばかりに扉を開いた張本人に怯えてガタガタ震えているような錯覚を覚える。

なんだなんだ、とフェロニアの肩越しから扉の方を覗き見れば、そこには白銀の大きな耳をピンと立てつつ眉間に深い皺を寄せた青年が居た。

天使の羽の次は獣耳か…なんだろう、イヌ科かな?と場違いにも興味津々に見ていると、青年はこれでもかと不満に歪んだ表情のまま、ソファの前で身構えているマグナスを見てそれからフェロニアへと視線を移す。そこで影に隠れていたレウィシアと目が合った気がして、咄嗟に身を隠した。


「…そいつか、此度の花聖女は」

「はい。花聖女はお疲れですし、まだ説明も済んでいません。殿下、どうかお引き取りを」


此方へと近づいてくる殿下と呼ばれる青年の行く手を阻むように、マグナスが前へと歩み出た。

殿下、という事はこの国の王族ってことだろう。結構な身分の方のご登場だが、この険悪な雰囲気は何事だろうか。

緊張に胸が高鳴って煩い。音を鎮めるように、レウィシアはぎゅっと胸の前で両手を握りしめた。


「守護獣よ。そこを退け。本当に花聖女が現れたのか、花聖女が国に害を為す者か見定めなければならん」

「失礼ですね。彼女は私が選んだ聖女です。…身を隠す女性に対して不遜な態度をとるのは、紳士にあるまじき行為では?」


目の前まで来た殿下にフェロニアがにこやかに言えば、殿下の眉がピクリと動く。それでも殿下は胸の前で腕を組み仁王立ちしを続ける。姿を見るまで一歩も引かない、という意思が顕著に表れていた。

一触即発の空気に息苦しくなる。この空気の悪さの原因はレウィシアにあるとわかっているので、自分で何とかせねば、という無駄な正義感がふつふつと湧き上がってきてしまった。

しかしどうやって?

はいどうも私が花聖女とやらです、とへこへこお辞儀しながら出てしまっては、せっかく殿下から隠してくれた二人の努力が無駄になってしまう気がする。

かといって私の為に争わないで!と涙ながらに出て行っても冷たい視線が返ってくるだけのような気もする。

そもそも現状説明もまだまだ途中だし、状況がよくわかっていないのに無駄に行動するべきじゃないかもしれない。

どうしよう、と思い悩んでいると、痺れを切らしたのか殿下は突然フェロニアの腕を掴んでぐい、と横に引っ張った。

思考の渦に取り込まれていたレウィシアは気が付いたら目の前に殿下の姿があり、更に目の前まで顔を近づけられているではないか。

あらやだ思ったよりイケメン。なんて思いながら口をぽかんと開けて唖然としていると、まじまじと吟味するかのように向けられていた殿下の紫紺の瞳がぎょっと見開かれた。


「ぶっっっっっっっっっっっっっさ」

「……………は?」


逃げるように体を後方に逸らした殿下は、有り得ないものを見る目でレウィシアを見下ろす。その口はわなわなと震えていた。

初めて出会って一言目に侮辱されるなんて生まれて初めてだ。ぶさい?不細工ってこと?挨拶の前に見た目を乏しめる人なんている?

もしかしたらこれがこの世界でのこんにちはって意味なのかも、とあらゆる可能性を考えていると、状況を見守っていたマグナスがはあ、と溜息を吐きながら片手で顔を覆った。


「なんだこれは、これが我が国の花聖女なのか!?こんなの表に出せないではないか…国民になんと説明する!」

「は、はああああ!?ちょっと失礼じゃありませんか!?」

「失礼も何も事実だ!困るのはこっちなんだぞ!しかも…くっっっっっっっさ!なんだこの生臭さは!まるで死んだ魚に湧いた蛆虫みたいな臭さだ!」

「う、うじむし…!?うわあああん言っていい事と悪いことがあるよおおお」


さすがに傷ついた。

見知らぬ人にここまで言われなければいけない謂われなんて無いはずだ。

横でどうどう、と殿下を諫めていたフェロニアの胸に飛び込んでわんわん泣いていると、マグナスが一歩一歩と逃げるように後ずさりし始めた殿下を諫める。


「御覧の通り、彼女は我々とは違う種族です。違う世界から来られたので、我々と見た目に差異があるのは仕方のない事だと前もって言っておいたでしょう。それに、臭いもこの世界の物を口にすれば次第に消えます。見た目も臭いも、花聖女様は悪くありませんよ」


少し強めの口調の言葉に、すんすんと鼻を鳴らしながらその通りだと言わんばかりに頷く。

見た目に関しては世界が違えば美意識も違うだろうし、臭いに関してはこっそり確認してみるがそこまで異臭を感じない。もしかしてあれか、やっぱり殿下はイヌ科だからか。嗅覚に優れてそうだ。


「花聖女様はいきなり連れてこられても冷静ですし、説の理解も早い。賢く聡明なお方に対してあまりにも不躾です」

「し、しかし…」

「しかし、ではありません。協力的な態度をとっていただいている方に対して、助力を願う側の我々が、ひいては代表格である王族の貴方が無礼を働いてどうするんですか。どうか彼女に謝罪を」


よしよし、と子供をあやすかのように頭を撫でてくるフェロニアに甘えている内に、マグナスがいろいろと説教をしてくれていたようだ。

彼の正論にぐうの音も出ないがそれでも認めたくはないのか。殿下は強く歯を食いしばりながら小さく唸り、マグナスとレウィシアを交互に見遣った後、勢いよくレウィシアを指さした。


「断る!!そもそも我が国に花聖女は必要ないと前から言っているではないか!俺は花聖女を認めないし、優遇するつもりもないぞ!」

「殿下!」

「うるさい、これは決定したことだ!いいな、国王から沙汰があるまで決して教会の外に出すな!覚えておけ!」


ギャンギャンとまあ、良く吠える。

殿下に対して失礼かもしれないが、殿下もまた失礼なので気にしない。

まるで悪役の捨て台詞のように吐き捨てながら、殿下は来た時と同じく足音荒々しく部屋を出て行った。



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