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33.ひみつ


やっと束縛された状態から解放されたレウィシアは、包帯に撒かれた左足を寝台の上に放り出したまま偉そうに腕を組んでいた。

その横で同じように腕を組んだ殿下が困り眉で申し訳なさそうにしているマグナスを見下ろしている。

先ほどの混沌とした状況から一転、フェロニアが説明してくれたおかげで冷静を取り戻したようだ。


「つまり、怪我をしたから大人しくしていろと言われてるのにも関わらず目を離した隙に居なくなっているから縛り付けた、と」

「はい」

「更に紐を外せというおねだりが非常に不愉快だから口も塞いだと」

「少し齟齬がありますが、はい」


答えを聞いた殿下は脱力したように大きく息を吐く。友が変な趣味を持っていなくて心底安堵したようだ。

それを見ていたレウィシアが、ベッドの脇でお茶請けを持っていたフェロニアからカップを受け取り優雅に口元へ運んだ。ベッドの上での飲食は憚れるが、殿下が居る手前大人しくしていた方が無難だろう。


「嫌ですねえ、マグナスさんが変な趣味持ってるわけ無いじゃないですか」

「お前がちゃんと大人しくしていれば最終手段にでる必要も無かったんじゃないか?」


ズズ、と啜りながらフォーリア茶を飲めば的確なツッコミがすぐに帰ってくる。

ごもっともだ。正論過ぎて思わず視線から逃げるようにそっぽを向いた。


「で、なんでお前はそんな怪我をしたんだ?マグナスに聞いても全然答えん」

「うっ」


聞かれたくない事を聞かれてしまった。絶対に馬鹿にされる。

恐らくマグナスはレウィシアの中に僅かに残った尊厳を守るために敢えて原因を伝えなかったのだろう。

大きく肩を揺らせてから上半身を限界まで捻って完全に殿下に背を向けたレウィシアは、誤魔化す様に黙ったまま茶を啜る。

言えない。ちょっと大きい鳥に興味を惹かれた結果窓をぶち破ったなんて言えない。

言ったら最後、これでもかと馬鹿笑いされたあとけちょんけちょんに貶されるだろう。


「お、乙女の秘密」

「何を言っとるんだ貴様は」


苦し紛れに言えばこれでもかと蔑視された。だがこれでいい。真実を知られて罵倒されるより全然心へのダメージが少なくて済む。

だらだらと汗を流しつつもこれ以上余計な事を言ってしまわないように固く口を引き絞っていると、殿下は諦めてくれたのかマグナスの方に体を向けた。

助かった、と小さく息を溢す。


「思ったより大した怪我じゃなくて残念だ。俺はそろそろ帰るぞ」

「おいそこは安心しとけよ」

「マグナス、お前も此奴に毒されて変な事をする前に俺に相談しろ」

「聞いてるんですかそこのワンコ、」


ちゃん。そう言い切る前に、殿下の腕が電光石火の如く飛んできて思いきり頭を掴まれた。容赦ない掌はぎりぎりと側頭部を絞め、伴って彼の爪が食い込み非常に痛くて思わず持っていた紅茶を放り投げてしまう。

穴空いてるんじゃないかこれ。そう思うほど容赦ない体罰に反抗する気も起きない。


「次その呼び方をしたらブ・チ・殺・す・ぞ!」

「いたいいたいごめんなさいもう言いません!」


どうやら地雷を踏んだようだ。ワンコちゃんは流石に駄目、ね。次からは気を付けよう。

殿下は涙目になりながらちゃんと反省している様子のレウィシアに満足したのか、ぶつくさと文句を言いつつも手を放す。それからマグナスと少しだけ会話をしているが、なんの話をしているのかは痛む頭を摩るのに夢中で聞いていられなかった。

フェロニアが先ほど放り投げられたティーカップを拾って、ベッドから少し離れた所にあるテーブルの上に置く。まだ少し中身が残っていたので床に零れてしまった。お高い絨毯なのに申し訳ない、きっと凄腕メイドのピレティが綺麗に掃除してくれるだろう。

爪が食い込んでいた側頭部に穴が開いてないか確認していれば、殿下はマグナスを連れてそのまま部屋から出て行ってしまった。挨拶も無しだなんて、いくらお互い嫌いあっているとはいえ扱いがお粗末過ぎやしないだろうか。

ぱたり、と絞められた扉を睨みつけながら頬を膨らませて拗ねていると、その様子を見ていたフェロニアがくすりと笑う。


「殿下は花聖女様の事がお気に入りの様ですねえ」

「今の何を見てその発想になったんですかね??」


ベッドに腰かけながら言うフェロニアが、包帯で撒かれた左足を優しく撫でた。

血が流れているのを見た時は顔面真っ青だったが、思いの他浅い傷で助かった。マグナスがすぐに治療してくれた甲斐もあって、傷跡は残るだろうが歪にならずに済みそうだ。


「嫌いな人に対してあそこまで感情を剥き出したりしないでしょう?」

「そういうものですかねえ」

「そういうものです。私、殿下の前ではあまり喋りませんもの」

「言われてみるとそうですね、そういや最初の頃に殿下の事嫌いって言っていたような…」


確認するように言うと、フェロニアはおほほと誤魔化す様に上品に笑った。

訳が分からなくて小首を傾げると、彼女はそれ以上何も言わないままレウィシアの頭を撫でる。


「そのうちわかりますよ、きっと」

「???」

「さ、安静にしているとなると暇ですね。今のうちにお勉強の方進めておきますか?」

「んー。そうしますか。私魔法についてもっと知りたいです」


なんだか誤魔化されたような気がするが、深く追求する事でもない。レウィシアは提案を快く受け入れた。



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