26.見つかりました
マグナスとレウィシアは守護獣の報告に急いで回廊から中庭へと下りる。折角の浄化に繋がる手掛かりなのに、枯れてしまっただなんて。
フェロニアが嬉しそうに伝えてきたのが少々気に掛かるが急いで丈の長いローブを翻しながら花壇の傍まで走った。
強い夏の日差しが降りかかる。じわりと顔に滲む汗は暑さからか、焦りからか。
息を切らしながら花壇を見下ろすと、一面に咲いていた花は確かにくすんだ土色へと変化して萎れていた。
「なんてことだ…」
「良かったですね」
眼鏡のずれを直しながら呟くマグナスとは対照的に、行儀よく屈んだままのフェロニアがあっけらかんと言い放った。
彼女は手掛かりが無くなってしまった事を残念に思っていないようだ。証拠に顔にはにこやかな笑みが浮かんでいる。何がそんなに嬉しいのか。
「どういう意味?」
レウィシアが尋ねれば、守護獣は両手で枯草と化した花を搔き分けて土を掬った。掌の上に盛られた一山の土は黒っぽい濃茶でゴミなどの異物も見受けられない。肥料などは使っていないようだが草花に適したいい土を使っている、と亡き母に倣って園芸が趣味だったレウィシアにもわかった。
フェロニアはレウィシアの問い掛けに目もくれず、顔の前まで掌を持ち上げて只管土を見つめた。
「この花壇の土は、外から持ち運んだものですね?」
「え、ええ。元々中庭にも小さな畑を作る予定でして。結局教会の庭が畑だらけになってしまうので辞めましたが。確か前大神官の代の時に行商人から買い付けたものです」
教会が今よりも貧しかった時の事だ。あまり良い土ではありませんが、とマグナスが付け足すと漸くフェロニアが立ち上がってレウィシアの顔を見た。
両の掌をずいっとレウィシアの胸元に差し出してくるのて、思わず後方に体を逸らす。
「浄化成功ですよ、花聖女」
「…へ?」
「なんと!これが浄化なのですか!」
どういう事?と聞き返すより早く反応をしたのはマグナスだ。彼は眼鏡の蔓を指で押さえずり落ちない様にしながらまじまじと掌の上にある土を眺めた。
「いや、浄化って…これが?」
「はい。この土は浄化されております。瘴気は地中深くから大地を辿って地上に現れます。この土はかつて瘴気の通り道になっていたのか、多少ですが瘴気に汚染されていたようです」
「なるほど…っていうか、汚染されてた土が教会にあったとか…皆の体とか、大丈夫なんですか?」
国王の状態が脳裏に蘇って慌ててマグナスの方を見る。彼は眺めていた土から視線を外し、心配そうに眉を潜めるレウィシアに笑みを浮かべた。
「大丈夫ですよ。大地を瘴気が駆け巡ったぐらいでは濃度が低いので人体に影響ございません。問題なのは地上に噴出した後の瘴気です。」
「そうなんだ…なら良かった」
「瘴気は目に見えぬもの。幾度も瘴気の通り道となった大地は濃度が高くなります。その前にこうやって、花聖女が浄化していくのですよ」
言いながらフェロニアは慈しむように浄化された一山の大地を見た後、再び花壇へと戻した。
「恐らく、レウィシア花聖女の浄化は植物を通して行われるもの。花聖女、ここにもう一度何かを植えてみましょう。人体の浄化をするなら、人の口に入れる事ができるものを」
「なるほど…なんとなくしかわからないけど、わかった」
私が花を植えると、その土地が浄化されるらしい。つまり育てた植物に浄化の力が宿る的な事か。正直想像していた浄化方法とは違った為あまりピンと来てはいないが、試す価値はありそうだ。
因みにレウィシアが想像していたのはキラキラと光り輝く光が瘴気を覆ったり、光の塊が瘴気諸共爆発を起こして消滅させたりなど如何にも魔法らしい見た目を想像していた。
蓋を開けてみれば間接的な方法で、しかもキラキラ輝く光すら見られない。
その事に少しだけ肩を落とす。
「兎に角、浄化をする事はできると判明しましたので殿下に報告しましょう。丁度呼び出しもされていたことですし。植える種は…フォーリアの種にしましょうか」
「フォーリア?」
「市場に出回っている茶葉です。花聖女も飲んだことがございますよ」
説明に此方の世界に来たばかりの頃を思い出す。
あの忌まわしき殿下との初邂逅の後、涙ちょちょぎらしながら飲んだ独特な紅茶みたいなものだ。
「フォーリアの葉を煎茶として飲むのが一般的なんです。簡単に作れるので、試してみる価値はあります」
「なるほど!浄化の魔法がお茶に宿っていれば大地も人体も浄化できて一石二鳥ですね!」
「ええ、その通りです」
まだ確定したわけではないが、国王を治す手立てが見つかった事に大手を振って喜ぶ。
そんなレウィシアに聞こえないように、「可能であればその茶を売って教会の資金源に…」と何か商売事を企むマグナスが眼鏡の縁に指を添えながら呟いた。レンズが陽射しに反射して表情が読み取れないが、きっと悪代官のような顔をしているのだろう。




