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24.帰るまでが遠足ってやつ


目の前に瘴気に侵された人がいる。

そしてその瘴気を祓う為に異世界から派遣されてきた聖女がいる。

だというのに、目前の問題を解決できそうにありません。


「ゴホゴホッ」

「ああ、えっと、浄化!」


これ見よがしに国王が再び咳き込むものだから、もう一度両手を掲げてみた。

しかしどう足掻いても浄化の魔法が放たれる気配が感じられない。

口を押えてとうとう前屈みの姿勢で激しく咳き込み始めた国王が、側近と殿下の手を借りて再び天蓋の奥へと戻された。


「このままでは埒が明かんな。お前たちは一旦教会に戻れ」


上品で煌びやかな水差しを国王の口へと運びながら、殿下が素っ気無く言う。

その言葉に落胆したのはレウィシアだけでなく、フェロニアもだった。


「守護獣よ、おまえの話は聞かせてもらった。俺が今言えるのはこれだけだ」

「……はい」


フェロニアは人間との確執を何とかしたい。レウィシアは国王を浄化したい。

どちらも中途半端なまま終わってしまい、退室を促されても中々諦められないでいると、いつの間にかマグナスが背後まで来て肩を軽く叩いた。


「一度戻りましょう。浄化について少し調べないと」

「はい…」


せっかく苦労を掛けてここまで来たというのに。後ろ髪を引かれる思いで静かに部屋を出ると、廊下で待機していたピレティが待ってましたと言わんばかりに駆け寄ってくる。

少し長めに時間が掛かってしまったし、不安になってしまったのかと思ったら彼女は若干焦りを含んだ様子でマグナスに詰め寄った。


「あのあのあの、先ほど見知らぬ方が来まして!中に居られるのは花聖女かと尋ねられたのです!」

「なんですって…?」


ピレティの言葉にマグナスが方眉を上げて訝しんだ。彼は少し躊躇したあと、国王の部屋から少しだけ早歩きで廊下の先へと進み、地上一階まで繋がる螺旋階段の手前で立ち止まってもう一度ピレティの話を聞く姿勢を取った。恐らく側近や護衛の兵士に聞かれたくなったのだろう。


「ピレティ、その方の特徴を詳しく教えていただけますか?」

「紺色の髪をした、若いフェリスの男の人です。こう、結構キツイ感じの顔立ちでした!中に居るのは大神官だけです~と答えましたが、あの人変に笑って何処かに行ってしまいました!」


言いながらピレティは指を使って目を吊り上げると、まさか、と小さく溢す声が発せられる。


「…とにかく、一度教会に戻りましょう。私が前を行きますが、念のため騒がないようお願いしますね」

「はい、わかりました…」


マグナスの提案に頷く。ピレティの言う人物が何者なのか、マグナスに心当たりがありそうだが兎に角今は来た時同様身元がバレない様に帰るのが先決だ。

国王の容体も気になるし、心残りが有り過ぎる王城訪問となってしまった。


「フェロニアさん。私には本当に浄化の魔力があるんですよね?」

「ええ、確かにありますよ。そもそも花聖女の居た世界には魔法という概念が無さそうなので、それが要因しているかもしれません。戻ったら一度じっくりお話しましょうね」

「うん。とにかく今は無事に戻らないとだね」


聞こえるか聞こえないかの小声で話す。

来た時とは打って変わってフェロニアの表情には心の余裕が見受けられた。国王に胸の内に秘め燻りを打ち明けて楽になったのだろう。その事に自然と笑みが溢れる。

黒地に金色のアラベスク模様が描かれた美しい壁に掛けられる絵画を横目に見ながら長い螺旋階段を下り、廊下と階段がある空間を繋ぐ石造りのアーチ型開口部を潜る。暫く長い一直線の廊下を進み、突当りを左に曲がると漸く見覚えのある回廊だ。ここでドールスの前で珍獣扱いされたのがかなり前のように感じた。

幸い遭遇したのは警護の兵のみで、殿下の居ない今会うと対処しきれない人物には遭遇しなかった。

それから再び庭園へと下り、美しい花を眺めながら歩けばあっという間に荘厳な城門の前に辿り着く。

そこで漸く張り詰めていた空気を解くように緊張を解いた。

息苦しさから解放され思わず被った布を取りそうになり、直前で手を止める。

城門の前に佇む兵士の視線が刺さった気がした。


「はあ…やっとここまで来たぁ」

「あと少しで教会ですよ」


改めて空を見ればもう暗くなっているではないか。どうりで足元が見辛いわけだ。

立ち止まった足を再び動かすよう催促されるも、心身ともに疲れたのか中々前へと進まない。

非常に重く感じる足を叱咤して、すぐ近くに建つ教会へと一同歩を進めた。


「なんだか、私何しに行ったんだろうって感じですね」


ぽつりと考えてた事が口に出てしまった。王城から離れ教会から目と鼻の先という所で、改めて後方に聳え立つ城を見る。入口の大きさから察しては居たが、何度見ても巨大な城だ。見える範囲でも幾つもの尖塔を数え、あそこに王様の部屋があるのかな、と確信は無いが位置的に一番奥辺りにあるひょっこりと頭を出した尖塔を眺めた。


「仕方ありません。急を要する事ですし、私の方こそ考えが至りませんでした。後悔するよりも浄化の方法を探しましょう」

「そうですね…王様、大丈夫ですかね」


呟くような問い掛けに返事は無い。マグナスにも推し量ることができないのだろう。

とにかく今後の目標は浄化できるようになることだ。一抹の不安を振り払うように頭を横に振ると、殿下から渡された布がふわりと翻ったので慌てて押さえつけた。

油断大敵、帰るまでが遠足である。


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