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18.静かにね


王城の入り口は流石というべきか全体を見ようとすれば見上げた首が痛くなるほど大きく豪勢だった。

至る所に施された装飾は獣人の種族であるヴルフェス、アビス、フェリス、ヘルヴィだ。きっと腕の良い職人がデザインしたのだろう。荘厳な城と見事に調和している。


「ふおお…本物の城だ…」

「あまり見上げるな。間抜け面が見えそうだ」

「すみませんね気を付けますう」


逐一追加される罵りに低めの声でわざとらしく謝れば、教会からお供として着いてきてくれたマグナスとピレティが呆れたように苦笑を溢した。どこにいってもこの二人の遣り取りは変わらないだろう。

さあ、このアーチ状の素晴らしい扉を潜ろう。人生初の城に期待で胸を膨らませながら一歩踏み出そうとすると、ガシッと頭を掴まれた。

殿下の野郎が人の頭を不躾に掴んでやがる。何をしてくれるんだと振り返れば、彼は顎で入り口の真横にある細道を示した。

背の高い垣根に挟まれた道はどうやら城の側面に続いてるようだ。


「真正面から入るな。目立つ」

「なぜですか?普通に入ればいいじゃないですか…」


不満そうに口を尖らせると呆れたように額を覆った殿下がわざとらしく大きな溜息を吐いた。


「どっかの誰かが賢く聡明な方だと言っていたな…」


殿下が憎たらしそうににマグナスを見て言うと、彼は突然回ってきた火の粉に慌ててレウィシアに耳打ちした。


「花聖女、周りをよく見てください」

「周りって、」


言葉通りにぐるりと見回してみる。布のせいで狭くなった視界の中に入ってきたのは、軍服を身に纏った犬耳、猫耳、鳥の翼達。

レウィシアは漸くああ、と理解した。被された布は獣人の特徴が体に無い事を隠すためのものだった。


「人間って私だけですか」

「そういう事です。露見されれば大騒ぎ必須です」


人間、更に花聖女でもある。

まだ公に発表していない以上無用な騒ぎは避けるに越したことはないだろう。


「理解したなら行くぞ」

「はいはい。行きましょう、フェロニアさん」


緊張気味に黙ったままの彼女の手を掴むと、彼女は安心したように握り返してきた。

彼女が何を話そうとしているのかわからないが、それが彼女の為になればいいと願う。

レウィシアを此方に連れてきた張本人とはいえ、連れてこられてもパニックにならなかったのは彼女の気遣いのおかげだ。きっと何か相当な理由があるのだろう。

心配こそすれ、恨むことなど一切無かった。


「庭園側の入口から入る。途中何度も兵や貴族に会うだろうが、気を抜くなよ」

「へいへい」

「……」

「はい!」


うっかり頭から布が取れないように片手で押さえつけながら移動している。十分気を付けているつもりなので気の抜けた返事をしたのがよくなかったのか、足を止めて睨まれたのでちゃんと返事をした。

庭園というだけあって美しい薔薇のアーチが何度も続き、細道から開けた空間に出たと思ったら色んな花が見事に咲き誇っていた。庭師が頑張っているのか、動物を象った垣根まである。


「花聖女、あれがガルウガッチョですよ」

「え、どれどれ」


ずっと言葉を発していなかったフェロニアがやっと口を開いた。示された指の先を見ると、そこには三本の尾が生えた猫らしき形の垣根が。

どうやら元の世界と此方の世界での猫は別物のようだ。


「あんまり可愛くないですね」

「私もそう思います。花聖女の世界に居た猫は可愛いですね」

「あ、見たんですね!子猫とか毛がぱやぱやしてて可愛いですよね~」

「……」


ついきゃっきゃと話し込んでしまっていると無言の圧を感じた。

殿下がこめかみに青筋を浮かべながら握りしめた拳を翳している。

はしゃぎすぎてしまったようだ。はい、黙りますと意味を込めて口を噤んで見せた。


「おや、殿下」


こそこそと、しかし足早に広い庭園を通り抜け、城門と比べたら当然遥かに小振りだが装飾の素晴らしさでは負けていない純白の扉が見えてきたと思ったら、突然真横から声が掛かった。庭園を眺める為に見晴らしよく造られた回廊からだ。段差があるとはいえ、声の主とレウィシア達の間には腰までの背丈の垣根しかない。

ピレティが驚いて尻尾を逆立てている。可愛い。


「これはこれは。叔父上殿」

「(お、叔父上…!?)」


殿下のたからかな声に驚く。叔父上という事は、国王のご兄弟か。いきなりラスボスに遭遇した気分だ。

注目されないように咄嗟に頭を下げたが、叔父上からの視界を遮るためにさり気無く近寄ったマグナスにもっと下げてと小声で耳打ちされた為更に頭を下げる。屈むと言っても差し支えない状態だ。


「こんな所にいらっしゃったとは、随分探しましたよ」

「少し外に用事があったもので。どうかされましたか?」


殿下は見たことない笑顔を浮かべていたが、作り笑いだ。内心このタイミングで出てくるなこの野郎とか思っているのだろう。

彼は叔父上にばれないように腰の後ろで掌を強調して見せてきた。待て、という指示だろう。

叔父上が近くの扉から庭園に降りてきそうなので、殿下はその場に留まらせるために間髪入れずに声を掛ける。


「何かあれば側近に申し付けてくれればよろしいのに。叔父上はいつも私を探される」

「可愛い甥だ。できれば直接話したいでしょう」

「ははは。御冗談を」


冗談なのだろうか?殿下の対応が少し刺々しいと感じるのは私だけだろうか。

布の下で冷や汗を垂らすレウィシアは硬唾を呑んで見守っていると、叔父上は次に大神官へと目を細めながら移した。


「おやおや、それにそこにいるのは大神官では?」

「ご無沙汰しております。ドールス卿」

「去年の祭典振りですかなあ、ヴァルカン神の祭典は大変賑やかでしたなあ」

「(ヴァルカン神…?)」


実に嫌味らしく言われた言葉に、会釈したままのマグナスは眉を潜めた。

聞いたことのない名前にレウィシアも眉を潜める。

そういえばこの国の聖女信仰はほとんど薄れている。なら、国民は何を信仰しているんだろうか。

ドールス卿と呼ばれた男の言う神を信仰しているなら、今の発言はなんと皮肉を込めた嫌味だろうか。

こいつ、嫌い。

レウィシアの中で『私の華やか人生で関わりたくない人ランキング』の殿堂入りにもう一人追加された。


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