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16.ゆっくりでいいよ


遅い、なにをぐだぐだしている!

そんな殿下の怒鳴り声が窓の外から聞こえてきた。恐らく教会の入り口でうだうだと文句を言っているのだろうに、ここまで聞こえてくるなんて。なんて声量なんだ、と少しだけ恐れ戦く。

悔しいので少しだけ。


「急ぎましょう。まずは御髪を整えます」

「お、お願いします」


マグナスが殿下の対応に回ったので、レウィシア達は急いで支度を始めた。

促されるままフェロニアと向き合う形で床に座る。正確にはメイドが持ってきたクッションの上に。

未だに大号泣を続けるフェロニアが少し心配で、手を伸ばして彼女の膝に置いた。

ぴくり、と彼女は肩を震わせる。


「もしかして、言うのが怖いんですか?」


返事は無い。

少し乱れた髪を結いなおす為にぐいぐいと引っ張られるが、なるべく頭が動かないように踏ん張る。


「昨日…私が寝ちゃう前に、本当は連れてきたくなかったと言ってましたね。もしかして関係してる?」


すん、と鼻を鳴らしながら漸く指の隙間から真っ赤な瞳が顔を出した。

まるで幼い子供の様で、思わずくすりと笑みが零れる。


「ごめんなさい、私まだ知らないことだらけで…フェロニアさんがなんで泣いてるのか、聞いてもわからないと思う。でも聞くことはできるし、言うと少し楽になるよ」

「花聖女…」


優しく諭すように言うと、彼女はやっと顔から手を離した。ずっと泣いていたせいで目の周りが真っ赤に腫れている。地肌が真っ白なので余計に痛々しい。

きゅ、と頭上で髪の束を纏め上げ、そこに新しい髪飾りが差し込まれる。銀の手鏡を手渡されたので確認すると、綺麗な白銀の翼が模された簪だった。


「ね、見てみて。フェロニアさんとお揃いみたい!」


無邪気な笑顔で簪とフェロニアの翼を交互に指さすと、フェロニアさんは漸く泣き顔のまま小さく笑いを溢した。

昔から泣き叫ぶ子供をあやすのは得意なのだ。どうよ、と胸を張ると、ピレティが横ですごい!と拍手した。

小刻みに拍手を繰り出す彼女にもすごい!と称賛を送りたい。ここでこの装飾の選んで持って来るのは中々にセンスがある。

もうフェロニアは大丈夫そうだと、メイドに促されるまま立たされ、今度はローブの身嗜みを整える。

軽く埃を掃われ、いつの間にか出来た皺を引っ張って直す。ぐるぐると周りをメイドが囲み圧倒的な手捌きで瞬時に整えられ、新しい肩掛けも装備された。

たかが王城、されど王城。気合の入り具合が凄い。最後に顔を柔らかい布で拭われた後に軽く頬紅を付けられる。完成です、とピレティが額の汗を拭うと、そこには今朝同様完璧なご令嬢が居た。


「ここまでしなくても…」

「だめです!国王様に初めてご拝謁、しかも初めての浄化ですからね!気合を入れないといけません!」

「そうかなあ…」


綺麗すぎて逆に動き辛い。慣れない格好過ぎてどう動けば乱れずに済むのか、レウィシアには知る由もなかった。

香の匂いはまだ十分に続いている。殿下の怒鳴り声はまだ聞こえてくるので、早く行ってあげないと怒りを鎮めているマグナスが可哀想だ。


「行きましょう、フェロニアさん。お話はいつでも聞きますから」


言いながらしゃがみ込んだままのフェロニアに手を伸ばす。彼女はおずおずとレウィシアの手を掴んだ。

ぐい、と引っ張れば抵抗する事無く立ち上がる。よし、良い調子だ。まだまだ眉を八の字にしていつでも泣ける気配を醸し出しているので、油断はできない。


「玄関は此方です。着いてきてください」

「ありがとう!殿下結構怒ってるみたい…急いでいきましょう!」

「はい!」


どんどん怒鳴り声が強くなる。あんなに声を張り上げて喉が痛くならないのだろうか。

フェロニアの手を掴んだまま、後片付けはメイドに任せて足早にピレティの後を追う。

身嗜みが崩れないように動くのは意外と体力を使うと初めて知った。玄関に着く頃には軽く息を切らしていた。

アーチ状の玄関の扉は両開きだが片方だけ開けっ放しで、そこからマグナスの背中と純白の翼が見える

彼は目の前の相手に対して何度も頭を下げていた。ああ、あんなに怒られて。彼もほとほとうんざりしてるだろう。


「すみません、お待たせしました」

「遅い!!!!!!!!」


キン、と鼓膜に響く怒声に思いきり眉を顰める。なんて声だ。マグナスはこの怒声をずっと間近で聞いていたのか。

殿下は玄関の外で数人の兵士を連れて仁王立ちしていた。その表情はこれでもかと不機嫌に染まっている


「まったく、支度にどれだけ時間を掛けているのだ!臭みはちゃんととれたんだろうな!これだけ時間を持たせて、まだ臭いままだったら承知しない…ぞ、」


殿下はどんどん怒鳴り声から唖然とした声に変えていく。

扉の影から手を引かれて姿を現したフェロニアを信じられないものを見るような顔で指差した。


「泣いてた!!!??」

「はい、がっつり泣いてました」


流石の殿下も動揺が隠せないようだ。守護獣がこんなにも外部に泣きっ面を晒すなんて、何かあったのか。彼女は大号泣の余韻かまだすんすんと鼻を鳴らしている。


「どっ…なん…何故!?」

「まだわかりません。ていうかあまり刺激しないでください!今情緒不安定なんです!」


庇うように両手を広げてフェロニアの目の前に立つ。

殿下はそれでも混乱しつつ何かを言い募ろうとしたが、はたと何かを察したかのように辞めて腕を組んだ。


「………生理か!」

「ぶっ!」


なんてデリカシーの無い男なんだ。こんなのが殿下だなんて本当に信じられない。奴は恥ずかしげもなくなら仕方ないな、と納得しているではないか。

泣き止んでよかったと安堵していたマグナスが顔を茹蛸よりも真っ赤にしながら噴き出すと同時に、レウィシアの無言の鉄槌が殿下の頬をこれでもかと強打した。


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