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15.泣かないで


「ひんっ…ひぐっ…もうじわげありまぜん!ずべでわだじのぜいなんでず!」


濁音交じりの嗚咽混じり。掌で隠されているが顔面液体だらけなのだろう。

まさかマグナスの昔話に感動して大号泣しているのかと思ったが、それも違うようだ。

窓際の自分の世界に浸っていたマグナスも、流石に異変に気付いて現実へと戻ってきた。

振り返り、掌の隙間からぽたぽたと液体を垂らすを守護獣を見てぎょっと目を見開く。


「泣いてる!!??」

「ね!泣いてるんです!どうしましょう!」


どうしていいかわからず取り敢えずフェロニアの背を摩ってみるが、効果が無いようで彼女は延々と謝罪と共に嗚咽を漏らしている。

ひたすら謝っているが、いったい誰に対して謝っているのだろうか。

泣くだけで何も言わないのでお手上げ状態だ。


「大神官、匂袋ができました!」


文字通りお手上げして降参ポーズをとったりいないいないばあしてみたりなんとか泣き止まそうと苦戦していると、両手に大量の自作匂袋を持ってきたピレティが廊下の向こうから駆けてきた。

最初は笑顔を浮かべていたが、三人の状況を視認できるようになると次第に笑顔は消えていき、そしてぎょっと目を見開く。


「泣いてる!!??」

「そーなんです泣いてるんです!しかも泣き止みません助けてください!」

「にゃ、にゃあ…助けてと言われても…」


美猫耳メイドのピレティの猫語は凄まじい破壊力だ。萌えという文字が衝撃波と共に襲い掛かってくる感じすらするが、今はそれどころではない。


「なぜこんなにも泣いているんですか!?」

「それがわかれば苦労しません!本当にわからないんです!」

「ずびばぜん…ずびばぜん…」

「ずっとこの調子です!」


よしよし、と今度は頭を撫でてみる。長い白銀の髪は思った以上に柔らかい。

三人でフェロニアの周囲を囲み、今度は痛いの痛いのとんでけーや布団がふっとんだ!などと寒い親父ギャグを言ってみたりとできる限りのことをするが、それでも彼女は全く泣き止む気配がない。

それどころか余計に泣き喚き始めた気がする。何故だ。


「非常に困りました。香の匂いが消える前に王城へ行く準備をしなければならないというのに…」

「ど、どうしましょう…とりあえず泣き声をBGMに準備し始めますか?」

「私、メイドを連れて支度道具持ってきますね!」


提案するなりピレティが再び廊下の向こうへと消えていく。

少し冗談で言ったのに本当にこのまま準備を始めるようだ。しかも用具入れの目の前の廊下で。

え、本当にここで?とマグナスを窺い見ると、彼も良案が思いつかないようで戸惑い顔だ。


「びーじーえむ…?」


そっちか。

この世界は言葉が通じるときと通じないときがある。明確な線引きはできていないが、もしかしたら英語は通じないのかも。がばがば翻訳されている気分だ。


「なんていうか…背景音楽の事です」

「ああ。花聖女は物知りなのですね」

「いやそれほどでも…ってこんな事話してる場合じゃありません」

「わだじのごどなどぼおっでおいでぐだざいいいっ」


私の事など放っておいてください、となんとか聞き取れた。

そのうちどこの言語か不明になりそうだ。

レウィシアはピレティが戻って来るまでの間に少しでも原因を探ろうと懸命に話しかけてみる事にした。

流石に泣き声BGMをずっと聞いていると心が沈んできそうだ。


「フェリシアさん、泣いてるだけではわかりませんよ。何が原因ですか?マグナスさんですか?」

「え?私?私ですか?」


突然振られて困惑しつつも思い当たる節が無いか記憶を手繰り寄せる。

暫く考え込んだ後、眼鏡の奥の碧眼を突如見開いた。

まさか本当に思い当たる節があるのか。


「私の祈りが原因ですか…!」

「そうなんですか!?」


もしや大神官の崇高な祈りが届いたとかだろうか。

期待を込めて二人でフェロニアの反応を見るが、彼女は力なく首を横に振った。

違うのか、と隣でマグナスが落胆する。


「なぜ守護獣がこんなにも…もしや国に異変があったりとかするのでしょうか。過去の文献にはこんな事例載っていませんが…そもそも守護獣や花聖女に関する文献自体片手で足りる程しかないので何とも言えません」

「……私が関係しているのでしょうか」

「ひぐぅっ」


言った途端盛大な嗚咽が溢れる。イエス、という意味か。

マグナスとお互いに視線を合わせ、徐にフェロニアへと戻す。

レウィシア、つまり花聖女に関係する事だ。花聖女、私のせい、申し訳ありません。

唯一出た二つの言葉を合わせて、この三つが鍵なのだろう。


「…伝承」

「ひんっ」

「…信仰」

「えふっ」

「教会」

「ふうっ」

「殿下」

「「ごふっ」」


順番に反応がありそうな単語を上げていくと、フェロニアの一際大きな嗚咽とレウィシアの事切れる寸前の吐血みたいな声が合わさった。

なぜ貴方まで反応するのか、と若干冷たい目で見られるが、レウィシアからしたらなぜそこで天敵の名を出すのかと責めたい気分だ。

なんとなく泣いている原因がわかった。先ほどのマグナスの昔話の中にあるようだ。

もう少し頑張れば理由が特定できそうだが、他に何があったかと顎に指をあてて会話の内容を思い出していると、ピレティが数人のメイドを連れて走ってくる。

手にはそれぞれ支度道具が抱えられているが少し焦った表情だ。

彼女はまだ現場から遠い位置で大声で叫んだ。


「た、大変です~!殿下がお迎えに来ちゃいました!」

「ええ!?もうですか!?なんであの人は行動が早いんだ…!」


まだ支度始めてすらいないのにい、とピレティがわっと泣き始める。

泣き虫が二人になった。レウィシアも便乗して殿下に会いたくないのにい、と泣き始めるか真剣に悩む。




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