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13.体臭問題


そもそも殿下は王の浄化ができそうか確認しに来ていたらしい。

しかも、王は殿下よりも嗅覚に優れているという顔面真っ青な情報まで残して帰って行った。

どうやら王の部屋に香を焚いておいてくれるようだ。


「香を!ありったけの香を焚くのだ!」

「陛下が瘴気に蝕まれていたなんて、いつの間に…!」


途端に騒がしくなった神官たちが彼方へ此方へと右往左往する。

ばたばたと慌ただしい足音は初めて此方に来た時を彷彿させた。


「参りましたね…香で対処できればいいのですが。花聖女、場所を移しましょう。香を焚くならもっと狭い所がいい」

「あ、はい」


臭くてごめんなさい。心の中で謝りながら移動を開始したマグナスの後を付いていこうとして、ふと踵を返した。


「フェロニアさん、移動するようですよ?」


食堂の真ん中で立ったままのフェロニアの元まで戻り、顔を覗き込む。

どうしたことか、また笑顔が消えかけているではないか。しかも反応が無い。

おーい、と言いながら顔の前で手を振ると、彼女は漸く気づいて笑顔を作った。


「はい。今行きます」

「…?」


様子のおかしい守護獣を疑問に思いながらも、二人は廊下の先で待つマグナスの元へ急いだ。

暫く歩いて、まだ訪れたことのない部屋の前で立ち止まる。

そういや教会の案内をしてもらう約束をしていたことを丁度思い出したが、いまするべき話題ではないだろう。徐に開かれた扉の先は、読んで字のごとく狭い部屋だった。


「用具入れです」

「部屋ですらなかった…」

「申し訳ありません、急を要するもので…ここ以上に的確な場所が思いつかなかったんです」


言いながらマグナスは手際よく用具入れに入っていた物を廊下へと移し始めた。

バケツ、長柄の箒、雑巾、洗剤らしきもの。どうやら掃除用具入れのようだ。かなり長く愛用されているのか年季が入っている。


「このような場所で大変申し訳ないのですが、辛抱していただけますか?」

「全然平気です。寧ろすみません、私のせいでこんなことに」

「いえ。昨日も言いましたが、仕方のないことです。異世界から来ると知ってから色々察してはいましたから。準備が滞ってしまい申し訳ないくらいです」


いえいえすみません、とお互いに謝るのがしばらく続き、なんだかおかしくなって二人で笑みを溢す。そんな事をしていると大量の香を抱えた神官が走ってきた。

マグナスに手渡された香は棒状の形をしていて、火をつけた後煙で香りを楽しむものだ。


「さ、中へお入りください。塗香と匂袋も準備しましょう」


はい、と小気味いい返事をしながら中に入るとフェロニアまで付いてきた。流石に狭すぎるし翼が邪魔なので諦めてもらう。


「だめだめ、今急いでいるんです」

「ですが、」


尚言い募ろうとするフェロニアは明らかに様子がおかしかった。今日は情緒不安定な日なのだろうか。


「扉のすぐ傍にいてください。ね?」

「…わかりました」


少し残念そうだが納得してくれてよかった。

そうこうしている内にマグナスが香に火をつけ、すぐに振り消すと途端にいい匂いが広がった。それを筒状の入れ物に移し、そのまま手渡される。


「では、扉も閉めます。念のため隙間を開けておきますが、息苦しくなったら言ってください」


わかりました、という返事を皮切りに扉がそっと閉められる。窓も明かりもない用具入れは真っ暗で、隙間から零れてくる光だけが唯一の頼りだった。

香の匂いはすぐに充満した。噎せ返るほどの香草の匂いに思わず咳き込む。

すぐに反応したマグナスに大丈夫、と一言放って、新鮮な空気を吸うためにできるだけ隙間に顔を寄せた。


「無理はなさらず」

「はい。ありがとうございます」


少しだけ沈黙が流れる。マグナスも扉のすぐ傍にいてくれているようだ。

何か話題は無いかと思案していると、先に口を開いたのはマグナスの方だった。


「正直良かったと思っています」

「え、国王様の状態が悪いのが?」

「いえそちらではなく…」


もしかして国家転覆を企んでいたりするのだろうか。

天使に見えて実は悪魔?と思ったが違うようで安心した。


「そういうところが、です」

「???」


話の意図がわからなくて、小首を傾げる。

彼はそんなレウィシアの姿を想像したのか、小さく笑いながら更に続けた。


「正直、花聖女様がいらっしゃると守護獣から聞いた時に、帰りたいと泣き喚かれたらどうしようと不安だったので」

「流石にしませんよ大人ですので…」

「ええ。それどころか中々に豪胆なお方で」

「誉めてますよね?」

「一応。他にも、冷たいお方だったらとか。いろいろと考えてました」


マグナスは言いながら天井を仰ぎ見た。

彼なりに不安だったのだ。伝承の中の存在だった、己が崇める御方が想像とは違ったら。

その時、大神官として信仰を続けられるのか。


「花聖女をお迎えするのが幼い頃からの夢でしたので。かなり緊張しましたが気さくなお方で安心しました」

「願い叶ったり、ですね」

「はい。この時代に生まれてこれてよかったです」


少なくとも彼はちゃんとレウィシアの事を花聖女として認めてくれているようだ。

大神官の地位としてではなく、彼本人の感情として快く思ってくれて嬉しい。

どこぞの殿下と違って。

レウィシアは香の入った筒を手に持って隙間からの僅かな光に照らした。

まだまだ香が切れるまでに時間はありそうだ。


「マグナスさんのお話、もっと聞きたいです」

「ええ…私の話などつまらないですよ…」

「おねがいおねがいおねがい!」

「え、ええ……」


困らせるつもりはないが、あと一押しで話してくれそうだ。

彼がなぜ神官になったのか、なぜ数少ない聖女信仰を持つ人なのか。

純粋に興味があるだけだ。決して他意等無い。



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