第四話 目指せ優勝! ジャンボかぼちゃコンテスト
《十月九日 土曜日》
展覧会兼コンテスト当日がやって来た。年一回行われるこのイベントは、新居浜市で開催される。
ジャンボかぼちゃコンテストの優勝者には賞金があり、その額は十五万円。棗と千陽はこれに目がくらんでいた。
四人はJR松山駅から『特急しおかぜ』を利用して、会場最寄りの新居浜駅へ。そこからはバスを利用して、会場へと移動した。
ジャンボかぼちゃは、屋外に展示されていた。
「やっぱアトランティック・ジャイアントしかないね。有利やけん」
「あれが、うちらのやつやな」
四人は近寄っていく。
「他のと比べてみても、ワタシたちのが一番大きいんじゃなかろか?」
「これは、優勝出来るんちゃう? てうわっ、あれ見て。うちらのよりでかいんちゃう?」
棗は予期せぬ大物を見つけたようだ。遠くの方を指し示す。
「本当に大きいね。なんか、自信なくした。でも重さで競うけん、中身はスカスカなのを祈るばかりじゃ」
出展されていたかぼちゃは三十個ほど。エントリーナンバーが記されたシールが貼られていた。棗と千陽は固唾を呑んで、このあと行われる計量を待つ。
それまでに屋内会場の『秋の草花イラスト展覧会』を見学することにした。
「みんな上手いね。ワタシの絵も霞んでしまうよ」
「私の絵も、下手くそに見えてきた」
「久未と千陽はまだええやん。うちのなんか、この幼稚園児の作品よりひどいし」
「わたしもだ」
棗と梨穂は、頬をちょっぴり赤くする。
出展資格は愛媛県在住者。就学前の子供から百歳以上の方まで、老若男女問わず多数の作品が展示されていた。
「ただいまより、第十三回ジャンボかぼちゃコンテスト、計量を行います。ご来場の皆様はぜひとも屋外へお集まり、ご覧下さいませ」
午前十一時、司会のお姉さんからお知らせが入った。
「エントリーナンバー一番、伊方町の茎田稔さん……」
番号順に次々と計量されてゆく。こちらも出展資格は同じ。
「おーい、クーミン。リホ。そろそろワタシたちのが出るけん、見に行くよ」
「あっ、あんなとこにおった」
久未と梨穂は、パンプキンソフトクリームが販売されている出店の行列に並んでいた。
「続きまして、エントリーナンバー十一番、松山市の松山柚風女子中・高等学校生物部。去年に引き続き二度目のご出展でございます」
男性スタッフ七名によって持ち上げられ、計量器に乗せられた。
「すごいです。百五四キログラムもあります。前回の記録を大幅に更新しましたね」
司会のお姉さんがそう告げると、会場内から「おおお!」という歓声と、拍手沸いた。
「確かに嬉しいねんけど、素直に喜べんな」
「あとはあのかぼちゃの結果を待つぎりじゃ」
棗と千陽は一喜一憂せず、平静に保つ。
「エントリーナンバー二十三番、宇和島市日振島からお越しの武智光秀さん。第一回から連続出場しておられるジャンボ野菜作りのスペシャリストでございます」
司会のお姉さんから、その出展者のプロフィールが告げられた。
「……やっぱり、光秀爺ちゃんのじゃったか。今年も出したんじゃな。かなりまずい」
千陽は焦りの表情を浮かべながら、ぽつりと告げた。
「なあ千陽、あのお方、そんなにすごいん?」
「まあね。ここ数年連覇を重ねてるんよ。ワタシたちの、去年の光秀爺ちゃんの記録は超えれたんじゃけど、あっちはさらにパワーアップさせてるけんね」
そのかぼちゃもついに、クレーンによって計量器に乗せられた。
「なんと……三一九キログラムです。かの藤原純友さんもびっくりですね。昨年光秀さんが出された記録の倍以上ありますね」
司会のお姉さんははっと驚く。会場内からも割れんばかりの拍手と喝采。
「まっ、負けた――」
「やっぱりあかんかったね。完敗じゃ」
棗と千陽は唇を噛み締めながら、例のかぼちゃを眺める。
このあともこの記録を超えるものは出ず、全ての計量を終えた。
引き続き、表彰式が行われる。
「武智光秀さん、優勝おめでとうございます。これで見事七連覇ですね」
司会のお姉さんから祝福のお言葉が送られた。
「ありがとうございます」
光秀さんはぺこりとお辞儀した。優勝者にはインタビューもなされる。
「ここまで大きく育てるのにかなり苦労されたでしょう?」
「うーむ、自家用船でここまで運んでくるのが一番苦労したかな。かぼちゃの野郎は放って置いても勝手に育ってくれるけん。来年は、五百キロオーバーを目指しますぜ」
嬉しそうに答え、Vサインをとる光秀さん。場慣れしているようだった。他の参加者や見物客から盛大な拍手が送られた。
松山柚風女子中・高等学校生物部は準優勝に終わる。
「あのお方、今回で七連覇なんか。強すぎや」
「賞金目当てのやましい気持ちでいったけん、バチが当たったみたいじゃわ。準優勝にも賞金出してほしかったね。せめて三分の一の五万でも」
棗と千陽は苦笑いをしていた。
「二人とも嬉しくなさそうだね。私は、参加記念品でパンプキン・スイーツセットをもらえたから嬉しいけど」
「去年の記録と比べたら、これでも上出来だと思うの。表彰状ももらえたし」
久未と梨穂は大満足な面持ちだ。
「落ち込まないで。Tomorrow is another day.よ」
棗がスマホで顧問=担任に結果報告。励ましのお言葉をかけてくれた。
「やっぱ悔しい。この悔しさを、砂金採りで発散するしかないわこれは」
「お金はもらえん、というかむしろ払うけど、一攫千金の妄想だけでも――」
棗と千陽の強い要望により、午後からマイントピア別子に立ち寄ることにした。
「私やったことないんだけど、どうやって採るんだろう?」
専用のパンニング皿を手に持ったまま、久未は悩む。
「水の中の砂をパンで掬って、回しながら揺すって砂を捨てるんよ。そのさい最後にキラキラしたものが残ることがあるんじゃけど、それが砂金なんよ」
「七粒ゲット! おまけにタヌ金まで採れたーっ」
千陽が久未に教えている最中、棗は快哉を叫んだ。
「わーっ、なっちゃんすごーい」
「ナツメグ、ラッキーじゃったね。タヌ金三つで純金インゴットと交換できるんよ」
「ほんまか? お金にはならんけどほしいな」
「私も頑張ろう」
「久未ちゃん、いっぱい採ろうね」
こうして四人は、夕方まで砂金採りに興じた。あれ以降タヌ金は一つも採れず、利用料金数千円を出費したものの、四人にとっていい思い出となったようだ。
新居浜駅のホームで、特急列車の到着を待っていたところ。
「うぉーい、準優勝の女子高生のみなさーん。ちょいと待ちなされ」
後方から一人のしゃがれた男性の声が聞こえてきた。
「あ、あなたは、かぼコン優勝者の武智光秀さんじゃありませんか。一体どうして?」
棗は即振り返り、驚きの声を上げる。
「賞金をお嬢さんたちに全部差し上げようと思ったのよ。物欲しそうにしてたじゃろ?」
光秀さんはそうおっしゃり、彼の一番近くにいた梨穂に賞金袋を気前よく手渡した。
「そっ、そんな、このような大金、悪いですよ」
梨穂は丁重に断ろうとした。
「ハハハッ、遠慮せずに受け取りなされ。俺にはまったく必要ないものやけん。俺は趣味の延長で作っておるからのう。お嬢さんたちは高校生じゃし、洋服買ったり、スマホ代とかでいろいろ使うことがあるじゃろ? 俺にもお嬢さんたちと同じくらいの孫娘でおるんでよく分かるのよう。これは俺からのお小遣いじゃ」
光秀さんはとても機嫌よく申される。
「ほんまにありがとうございます。このお金はうちらで大切に使わせてもらいます」
「光秀爺ちゃん、この恩義は一生忘れませんよ」
棗と千陽は感謝の意を述べつつも、心の中では有頂天になっていた。