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いよかんびより  作者: 明石竜


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最終話 二学期終了 迷惑なクリスマスプレゼント

《十二月二十四日 金曜日》

「おはよう、ちはるちゃん、りほちゃん。メリークリスマス!」

「メリクリー、千陽、梨穂」

「メリクリ、クーミン、ナツメグ」

「おはよう、今日は待ちに待ったクリスマスイヴね」

 二学期、さらには今年最後の登校日。いつもように四人が揃う。

「なんか梨穂。いつにも増して嬉しそうやな。イヴやからか」

「それもあるけど、詩穂がね、芸文祭以降はちゃんと勉強するようになって、成績もほんの少しだけど上がってるの。それでさっき千陽ちゃんと話し合って決めたんだけど、詩穂がもっとやる気を出してくれるように激励の意味も込めて急遽、午後からわたしのおウチでクリスマスパーティーを開くことにしたの。詩穂にもメールで伝えたよ。久未ちゃんと棗ちゃんもぜひ来てね」

「うん! 喜んで行くよ」

「久々に詩穂ちゃんに会える。楽しみや」

 八時半から体育館で終業式。それが済んで教室へ戻ったあとはお馴染み、担任からのあれの配布だ。

「はーい、兵頭さん」

「ありがとう先生。なっちゃん、いっしょに見よう」

 久未は受け取るとすぐに棗の席へと駆け寄った。

「あー、毎度ながらめっちゃ緊張するわーっ」

 棗は久未の通知表が渡されるまで、自分のも開かずに待っていた。

「4とか5がようけやるけど、高校は10段階評価やからな」

「あっ、私今回も家庭科に10がついてた。歴史総合も7だ。それ以外全部5以下だけど……」

 二人はこの結果に一応満足していた。

「真っ赤なお鼻の トナカイさんは いつもみんなの 笑い者♪ おーい、兵頭さん、妻鳥さん。いい所で出会ったねえ」

 帰りのホームルームが終わってすぐ、待ってましたとばかりに一組の教室に鹿島が姿を現した。有名なクリスマスソングを口ずさみながら。

「あのう、何ですか? 先生」

「何か用すか? 全然似合ってへんサンタのコスプレなんかして。それこそ笑い者やで」

 棗は迷惑そうな表情を浮かべる。

「まあたいした用事ではないんだけどね、きみたちには日頃からいろいろとお世話になってるからねん、感謝の意を込めて何かお礼をしなきゃと思ったのさー。ほい、これ。おいらからのクリスマスプレゼントさ」

 鹿島は真っ白な布袋から、きれいにラッピングされたプレゼント箱を取り出し、二人に手渡した。

「わぁー、嬉しい! お菓子かおもちゃか何かですか?」

 久未はにっこり笑い、興奮気味に問いかけた。

「ふふふ、開けてからのお楽しみだよーん」

「鹿島先生、ありがとな。オレンジ色のリボンとは温かみがあるな」

 久未と棗はわくわくしながらリボンをほどき、包装をはずして箱を開けた。

「あれれ? 紙しか入ってないよ」

「何やこれ?」

中に封入されていたのは、二つ折にされたB4サイズの用紙。

「これはねえ、数学ⅠAⅡBの総復習プリントなんだよーん。通知表で6以下がついた子に見事授与されるペナルティーっさ。全部で十五枚。一日一枚ずつやれば、冬休み中に片付いて、おまけに自然と模擬試験やセンター試験にも通用する力がついてくるよん。継続は力なりー。一年生諸君は、大学受験なんてまだまだ当分先のことだよね、なーんて思ってる子が大多数だけど、あっという間にその時はやって来るからねん」

 鹿島は微笑みながらおっしゃった。

「そっ、そんな殺生な。正月三が日の分まで含まれてますやんか」

「私、こんなクリスマスプレゼントはいらないよう」

 久未と棗は即、望んでいないクリスマスプレゼントを鹿島にお返ししようとした。

「返却は一切認めないよーん」

 けれども鹿島は両腕をクロスさせ、乗算記号×の形を作って拒否。

「もう、しゃあないなあ、やったる、やったる。なあ、先生はイブの夜、やっぱ彼女と過ごしはるんやろ?」

 棗はにやにやしながら訊いてみた。

「そりゃそうさ。おいらの彼女は星の数ほどいるから、今日はこれからクリスマスケーキやプレゼントもたくさん買いに行かなきゃいけないし、そのあとは冬コミも控えてて上京しなきゃいけないし、お正月はそこで手にした戦利品を全部読まなきゃいけないし、おいらの年末年始は毎年とっても忙しいのさ。それじゃーね」

 そう告げて、鹿島は走り去る。彼も師走は師走らしく過ごすのだ。

三者面談は、このあと十一時から行われる。

「あっ、お母さんだーっ。こっち、こっちーっ。なっちゃんのお母さんといっしょに来たんだね」

 一組教室前の廊下で待っていた久未は、お母さんの姿を見かけると嬉しそうに手を振った。

 出席番号が前の久未から面談が行われるはずだった。ところが、

「妻鳥さんのお母様も、話すことは全く同じなのでごいっしょにどうぞ」

 担任はこうおっしゃった。

「それは効率的でいいわね」

 棗のお母さんは快く応じる。

「えー、恥ずかしい」

 棗は嫌がるも、

「わーい。なっちゃんといっしょだーっ。五者面談だね」

「かしましく楽しい面談になりそうね。ふふふ」

 久未、そして久未のお母さんはとても大喜びだ。

お母さん二人は予想通りね、という感じで、終始上機嫌で聞いておられた。


「お母さん、私、これからりほちゃんちのクリスマスパーティーに行くの。帰りは夕方になるかな。なっちゃんもいっしょだよ」

「そっか。それじゃあ、くみに棗さん。今からけいちゃんと、予約したクリスマスケーキもらいに髙○屋へ行って来るわね。他のごちそうもたくさんお買い物してくるけん、パーティーではあまり食べ過ぎないようにね」

「うん!」

 久未は満面の笑みを浮かべた。

 けいちゃんとは恵子の愛称。棗のお母さんの名前だ。

「母さん、うち、フライドチキンはレッドペッパーのかかった劇辛のやつな。あと、トッポッキも食べたい」

「了解。楽しみに待っててね」

 お母さんたちと下駄箱の所で別れる。

久未と棗は中庭花壇へと向かった。クリスマス飾り用のお花を摘むためだ。そこに、千陽と梨穂が待っていた。

「クーミン、ナツメグ、叱られた?」

 千陽が嬉しそうに話しかけてきた。

「べつに。こうなることは予想出来てたみたいやから」

「私も。慣れっこだからね」

 二人は事も無げに答える。

「ほうなん。いいなあ。ワタシのママやったら一晩中押入れの刑食らわされとるよ」

摘み取ったばかりのポインセチアを竹カゴに詰めて、梨穂のおウチへ。


「お姉ちゃんたち、いらっしゃーい!」

玄関を開けると、詩穂が快く出迎えてくれた。とってもかわいらしいサンタのコスプレ姿だった。三人はキッチンテーブルへと案内される。そこにはクリスマスツリーが飾られていた他、あの痛案山子もサンタスタイルになってイスに座らされていた。

「このお料理は、全部あたしの手作りだよ」

 詩穂は自信満々に言い張る。

 テーブルの上にケーキの他、ローストチキン、ローストビーフ、クラムチャウダーなどなど、クリスマスの定番料理がたくさん並べられていた。

「やっぱりもう作っちゃってる。詩穂がパーティーの主役なんだから、お姉ちゃんたちに全部任せてくれてもよかったのに」

 梨穂はにこっと微笑みかける。

「だってあたし、お料理大好きだもん」

 詩穂は照れくさそうに言った。

「あとの準備はお姉ちゃんたちがやるね」

「分かった」

四人は持ってきたお花を飾り、ローソクに火をともす。パーティーの準備が整った。

「「「「「メリー・クリスマス!」」」」」

 シャンパンを開け、みんなで祝いの言葉。

「それじゃあ、消すね」

 詩穂はローソク目掛けて思いっきり息を吹きかけた。

「あっ、まだ二本残ってるや」

 もう一度チャレンジ。今度は全部消すことが出来た。他のみんなから拍手が送られた。

こうして、少し遅めのランチタイムが始まる。

「ところで詩穂ちゃん、ほんまにうちの高校の自然科学コース受けるんか?」

 棗はローストチキンを齧りながら尋ねた。

「うん。進路希望調査の紙に“第一志望で”書いて提出したよ」

「頑張れ、しほちゃん。私でも通ったから絶対通るよ」

「英語がめっちゃいい詩穂ちゃんなら余裕や! 数理の次に配点比重高いし」

 久未と棗は大きく拍手する。

「シホちゃん、リホから聞いたんじゃけど、苦手教科も勉強するようになってくれたんじゃってね?」

「うん! 国数理、かなり上がったよ。もちろん英社の成績もちゃんと維持させたままでね。ちょっと待ってて。期末テスト持ってくる」

 詩穂は嬉しそうに答え、自分の部屋へ取りにいった。

「はいどうぞ。千陽お姉ちゃん」

 そして躊躇うことなく手渡す。

「国語66、数学47、理科51か。確かに上がってるけど、まだまだ厳しいんよ」

 千陽は的確なコメントをしてあげた。

「えへへへ」

「笑い事じゃないでしょ、詩穂」

 梨穂はフォークの柄でコツンッと頭を叩く。

「痛いよお姉ちゃん」

「今の詩穂の力でも、まだ不合格になる可能性の方がずっと高いんだから、公立も併願した方が絶対いいと思うの。面談でも言われたんでしょ?」

「あたし、そこ以外受ける気は微塵もないから、単願でいいの」

「詩穂、願書提出期限は一月下旬だから、まだ考え直せるのよ」

 梨穂は念を押す。

「絶対受けるもんねーっ」

 詩穂は強く言い張った。

「本気で柚風の自然科学コースを受験するのね。それじゃ、詩穂。冬休みはアニメとマンガは封印して、お正月返上で苦手教科の猛特訓よ。ただでさえ受験生なんだから。お姉ちゃんが付きっ切りで、マンツーマンで厳しく指導してあげるね」

梨穂は優しい笑みで詩穂に話しかける。

「そっ、そんなあーっ」

 詩穂は嘆きの言葉を上げた。それでも、彼女の意思は決して変わらなかった。

梨穂も、詩穂に合格して欲しいな、と心の中から強く願っているのだ。



「なっちゃん、りほちゃんちのクリスマスパーティーとっても楽しかったね」

「うん。詩穂ちゃんのお料理めっちゃ美味かったからついつい食べ過ぎた。晩ご飯入るかな。今日はクリスマスイヴを楽しむとして、明日からは冬休みの宿題片付けていかんとな」

「そうだね。英語と国語のウィンターワーク、中身ちょっとだけ見てみたけど、分からない問題ばっかりだったよ。ちゃんと仕上がるかなあ」

「数学も元々多く出されてとったのに、ペナルティまで課せられたしな」

「こうなったらサンタさんにお願いして宿題全部やってもらおうかなあ」

 帰りの汽車の中で、久未と棗のたわいない会話が弾む。沈みゆく美しい夕日が、二人を照らし出していた。

高校の授業が難しくなるのは、まだまだこれから。前途多難な久未と棗、でもきっと大丈夫。成績優秀な梨穂と、千陽もついているから。

(おしまい)

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