第十四話 期末テスト
《十二月三日 金曜日》
帰りのホームルームで、担任から期末試験の範囲表が配布された。
「あーあ、もうすぐ十三科目の地獄がやって来てまうーっ」
「五日間もあるのはほんとにきついよね」
憂鬱な気分になっている棗と久未をよそに。
「ねえカッシー、明日ワタシといっしょにルミナリエ見に行かん? ついでにセンタープラザも連れてってよ」
「なんで越智さんなんかと行かなきゃならないのさ。期末試験の勉強は?」
「そんなの余裕に決まってるじゃん」
帰り際、廊下で出会った鹿島に楽しそうに話しかける千陽なのであった。
期末では五教科十科目に加え情報A、家庭総合、保健も筆記試験が課させる。
※※※
《十二月九日 木曜日》
「ねえなっちゃん、本当に次の授業、化学なんだよね?」
「そう、みたいやな」
持ち物として指示されていたエプロンと三角巾を手に持ち、腑に落ちない心境で調理実習室へ向かう久未と棗。
中学時代からこの学校にいる千陽と梨穂は、何か理由を知っているようだった。
七時限目、今学期最後の化学基礎の授業。開始のチャイムはまだ鳴る前に、全員集まったところで化学の先生は説明をし始めた。
「では今からカップケーキを作りますね。なんで化学の実験するのに調理実習室なんじゃろうなって疑問に思った子もいるよね。材料に使われるベーキングパウダーの主成分は炭酸水素ナトリウムやけん、その性質についてもついでに学ぼうという意図なんよ」
化学の先生は白衣ではなく、かわいらしいウサギさん柄の刺繍が施されたエプロンを身につけておられた。
「もう二十年以上は昔になるかな。娘が小学生の時に家庭科で作ったやつを使ってるんよ。では今から僕がお手本を見せますね」
照れくさそうにおっしゃり、華麗な手さばきで材料を混ぜ合わせ型に流し、オーブンで焼き、あっという間にカップケーキを完成させてみせた。香ばしい香りが漂う。
クラスメイトたちは「素敵! お爺ちゃんにほしい」「結婚してーっ」「先生パティシエみたいだ」などと称賛の声を上げる。
「いやいや。それほどでもないよう。僕は六十近くになるまでお料理なんか一度もしたことがなかったんじゃけど、孫娘にいっしょに作ろう、作ろうってせがまれて、仕方なくお菓子作りをしてみたら、すごく楽しくて、それからはまってしまったんよう。クリスマスが今から待ち遠しい」
先生はご満悦だ。
クラスメイトたちもエプロンを身に着け、先生には負けまいと作業に取り掛かり始めた。
抹茶、オレンジ、チョコチップなどなど班ごとに好みの味にトッピングしてゆく。
生物部四人班も完成させると、すぐさま先生に見せに行った。
「先生、これどうぞ」
久未が差し出す。
「では、いただきますね」
先生は快く受け取り、お口に運ばれた。
「とっても美味しいですねー」
その瞬間、笑みをお浮かべになられた。
「このカップケーキ、ほとんどクーミンとリホに作ってもらったんよ。ワタシが作ったらギャルゲーによく出てくるドジっ子キャラの手料理みたいなんが出来てしまうけんね」
千陽は笑いながらしゃべる。
「カップケーキは大きな失敗はまずないと思うんじゃけど……兵頭さんも馬越さんも、僕なんかよりお料理ずっとお上手やね」
「いえ、それほどでも」
先生に褒められ、梨穂は謙遜しながらも照れる。
「お料理、お母さんとよく作ってるからね」
久未は自信たっぷりだ。
「兵頭さんは試験の成績がいつもかなり悪いので、これも特別に成績評価に加点しておきましょう」
「やったあ! ありがとう先生」
先生からの思わぬ発言に、久未はバンザイのポーズで喜びを表現した。
「けど、試験も頑張ってね」
「……はーぃ」
先生からのその一言で、一気に落胆。
期末テストは、十三日から十七日までの日程で行われた。
※※※
《十二月二十二日 水曜日》
帰りのホームルームにて、担任から期末試験の結果が全教科まとめて返却された。
「やっぱり、やっちゃった」
期末試験合計得点、1300点満点中梨穂は1226点。なんと今回は、一点差で二位に転落してしまったのだ。
「リホ、どないしたん? ついに記録途切れさせてしもうて。体調悪かったん?」
千陽は心配そうに声かける。
「なんか、保健だけ飛びぬけて悪いね。50点台じゃん。平均点以下じゃし。ワタシは89やったんよ」
「だって……用語書きたくなかったんだもん」
梨穂は頬を少し赤く染め、小声で照れくさそうに答えた。
「あ、分かった。そういうことか。リホは本当に恥ずかしがり屋さんじゃな。数Ⅰ・Ⅱで満点取れたのは良かったね」
「うん。リベンジ果たせたよ」
梨穂は笑みを浮かべた。
「ワタシも満点。カッシーからの挑戦状、今回も楽勝じゃった」
千陽、1131点。中間テストよりは順位を上げて五位となった。
久未と棗の成績も、ほんの少しだけ順位が上がっていた。
続いて、先月行われた模擬試験の結果も返却された。
「なっちゃん、私、数学64点もあったよ。高校入ってからの最高記録だ」
「うちは66点。うちもベスト記録更新したよ。でもこれ、200点満点やからな」
「そうだったね。忘れるとこだった。けどクラス順位最下位じゃなくてよかったよ」
二人は苦笑いを浮かべる。
「ワタシも、あんまり取れてなかったんよ。定期テストではいい点取れるんじゃけど、こうゆう本当の実力が試される試験は苦手なんよ」
千陽の、模試の合計得点はクラスで二十位。平均点をわずかに下回っていた。
「それでも、うちと久未よりもずっと高い点数やな」
棗はうらやましそうに結果用紙を眺める。
「あっ、私、国語だけはちはるちゃんに勝ってる! 嬉しいーっ」
「古文と漢文は、ワタシの一番の苦手分野なんよ。見るだけで頭が痛くなってくるんよ」
千陽は苦い表情で打ち明けた。
梨穂は全教科学年トップに輝いた。しかし県内、そして全国には彼女よりも上位の成績を修めた者がまだまだ大勢いた。
「次はもっと頑張ろう」
これで満足はせず、さらなるステップアップを目指している。
その他のクラスメイトたちも、試験の結果をお互い見せ合ったりしてわいわい騒いでいた。
「みなさーん、お静かにーっ。ビークワイエット! 今回の模試、全教科合計で少なくとも七割以上は取ってないと、国公立有名私大は厳しいわよ」
担任は手をパンパンパンッと叩き、さらりと告げた。教室は一気に静まり返る。
(まあいいや。三学期から頑張ろう。お正月くらいは遊ばなきゃ)
(こりゃ冬休み頑張らんとまずいんかな?)
久未と棗の今の心境だ。
「兵頭さんに妻鳥さん、ちょっといいかな?」
帰り際、四人で教室を出ようとしたところ、担任に呼び止められた。
「これ、ちゃんとおウチの人に渡してね。二学期の成績のことで少しお話したいことがあるの。捨てちゃダメよ」
担任の先生は優しく微笑みかける。二人に手渡したのは、
「はーい。分かりました先生」
「ああ、またか。一学期に引き続いて」
三者面談のお知らせについて書かれたプリントだった。




