やっと入った仕事
ワイバーンは姿を消し、私たちは、ドロップアイテムを貰うためにワイバーンへ近づくと、緑のポニーテールの女性が地面に横たわっていた。
「ケイニス?ケイニスなの?」
ツァィインがポニーテールの女性に駆け寄る。どうやら知り合いのようだ。
「誰なんですか?この方は?」
私がツァィインに尋ねると、ピリカが答えた。
「そう言えば、あなたは知らなかったね。5ヶ月前から行方不明になっていたニューシェンのメンバーです。彼女の名前は、ケイニスです。ゴーレム達が必死になって様々なダンジョンを探したのですが見つからなくて困っていた所なんです。」
ツァィインは、無理矢理座らせられたケイニスに泣きながら抱きついている。ミシミシと骨の軋む音がする。よほど心配していたのだろう。ケイニスが無事で良かったが、今の状況は無事なのだろうか。私の顔は真っ青になった。私の表情が気になったのかピリカが説明する。
「ケイニスは、ダメージを受けても自動的に回復します。痛みは感じてるけど、抱きつかれた程度なら骨折ししても治るから安心してね!」
ケイニスを近くの宿まで3人がかりで運び、ベッドで休ませた。
「……こ…ここは?」
ケイニスが目を覚ました。ケイニスの話によると、もともと緊張するとワイバーンになる体質らしい。ライブ前の緊張によりワイバーンとなり元の姿に戻れなかった。ここで問題となるのは、ケイニスが再びワイバーンになったらどうするかだ。モンスターや獣族の殲滅を進める政府に対してケイニスの秘密がバレるのは不味い。もし誰かが次にワイバーンを討伐したらケイニスの秘密がバレてしまう。何がなんでも私たちのパーティで討伐に向かう必要があるが、危険度が高いため、再び借金が増えてしまう。どうしたらいいものか。
「ケイニスの代わりにマスカラが一緒に舞台に立ってみないか?」
ヒメラは私に提案を持ちかけてくる。
私がケイニスの代わりに……? そんなこと出来るのかな。
「私は……舞台で輝ける人間じゃない」
「それはやってみなきゃ、わからないじゃないか」
「でも、私にはケイニスやみんなのような才能はない。だから……」
「なら、才能があるとはどんな定義で言ってんだよ! 誰だって最初はゼロから始まるだろうが!」
ヒメラは私に激情をぶつけてくる。私にこんなにも感情を剥き出しにしてくる人は初めてかもしれない。そんな彼女に少しだけ驚いたが、同時に嬉しくも思っていた。いつも私のことを見ている人がいてくれたのだから。自信はないけど……私に出来ることがあるのならやりたい。これまでたくさんお世話になって来たんだし、少しでも恩返しをしないとね!
翌日、ゴーレムが仕事を持ってきた。ゴーレムの故郷、ゴーレムパーマーイのダンジョン内でライブツアーをする事になった。ゴーレムのいる広大な森の中にある山脈内の洞窟がダンジョンとなっている。
私が転移してからというもの、踊り子なのに私が観客席で観て以降一度もライブが無かった。稽古をするメンバーの手伝いのみ。仕事が無いので資金稼ぎのクエストを定期的に出かけていた。仕事が少ないのは、平和じゃない異世界で、ライブとか舞台とか観に行くお金が殆どの人には無いからだ。
ゴーレムパーマーイのダンジョン内にいる冒険者を元気付けるためにライブを行うらしい。
果たして、全員生き残ってライブを成功させることはできるのだろうか?
【続く】