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異世界転移

異世界転生と異世界転移を間違えていたので投稿し直しました。

 私の名前はマスカラ。ドラゴンの獣人冒険者。私たちドラゴン族は、普段は人間なんだけど、感情が昂るとドラゴンの姿になってしまうんだ。これはそんな私が可愛くなるまでの物語。


 日中だというのに今日も辺りが暗い。人間に迷惑をかけないと決めたからずっとこの洞窟で暮らしている。暗いのはもう慣れた。暑くなってきたので急にかき氷が食べたくなり、街へ向かった。ドラゴンに変身してもバレないようにスポーツキャップを被り顔が見えないようにした。


……明るい!眩しい!!


洞窟の外は眩しくて前が見えない。キャップのつばで顔が隠れていても眩しい。時間をかけてやっとの思いで街へ辿り着いた。

 久しぶりの故郷。自分が以前見た街並みと大きく変わっていた。かつてお団子屋が立ち並んだお団子通りは高層ビルが立ち並んでいた。

街へ来てかき氷が食べれる店がどこにあるのかわからなかったので街行く人に聞いてみた。

「ああ!それならこの近くだと、グラソンが有名だよ。」

グラソンで苺のかき氷を頼んだ。雪のようにふわふわした食感がたまらない。かき氷屋で踊り子のポスターを発見する。“ニューシェン”可愛さをアピールしているアイドルグループらしい。

…‥可愛い‥‥?そうだ!可愛くなれば人間から怖がられないで済むわ!

久しぶりに食べたかき氷は美味しかった。私の知っているかき氷は、食感がザクザクとしている荒削りされた氷の上にシロップが載っている。だが、今日食べたものは、まるで初雪のように柔らかく、口の中に入れると春の訪れのように溶け出し、食感もフワフワだった。

 かき氷を食べた余韻に浸かっていると、勇者一行が私の前方から近づいてくる。

全身が震えた。

勇者一行が私の前を一歩。また一歩と近づいてくる。

近づく度に呼吸が荒くなる。

私は今にも叫び出しそうだった。


──来ないで。

──私を見ないで。

──私に話しかけないで。


 色んな言葉が頭を過るが、結局どれも言葉にはならなかった。

逃げたいが、筋肉が固まって動けない。


 勇者が私の横を通り過ぎる瞬間、私は地面にヘタレ込み、昔のことを思い出していた。あの忌まわしき記憶だ。


 シャローム。私の故郷だ。当時人間と獣族が仲良く暮らしていた。だが、ある日、獣族の1人であるコヨーがシャロームで暴れた。


「グオオオオオオオオオオ!!!」


これに続くかのように、獣族が次々と頭を両手で抑えながら咆哮をあげて巨大化し、街を破壊した。

この事態を勇者一行は見逃さなかった。



銅で出来た冠を被った、黒髪でツイストパーマ、ジャラジャラと首に勾玉をつけ、長さが2mはある巨大な剣を持ち、赤いマント、桔梗色の甲冑の勇者 ゼリオン・グリンデル。

黒い中折れ帽を被り、外側が黒、内側が紅のローブを着て、杖をついた老人 ジェームズ・ゲラート。

黒いスカプラリオを着た僧侶 アイリ・クロサワ。

植物の繊維からとった糸で編んだ布の服を着た筋肉ムキムキな戦士 バルバ・モラン。



彼らは、王族に仕え、民から英雄として讃えられている。だが、私たち獣族の憎き敵だ。私は彼らを見ることは愚か、彼らの噂を聞くだけでも息が上がってしまう。


 勇者はコヨーに大きな剣を振り下ろす。

しかし、コヨーの毛皮は鋼鉄の様に固く、剣を弾くと、そのまま勇者の片腕に噛み付いた。


「ぐああっ!」


勇者はコヨーの上顎と下顎を両手で持って、必死に引き離そうと試みるが、コヨーは顎の力を強めていくばかりだった。

これに怒りを覚えた魔法使いのジェームズが、コヨーの顔に杖を向けた。


「汝、炎の加護を下さるかのぉ!」


 ジェームズが呪文を唱えると、杖の先から炎が出てコヨーの頭を焼き尽くした。

 勇者一行は、次々と巨大化した獣族を倒した。勿論、私の家族も。

 獣族が暴れる事件が起きてからシャーロムでは、獣族が住んでいることが王族にバレると勇者一行が家にやって来て、惨殺していった。一部の獣族は、洞窟やダンジョンで疎開している。私もその一人だ。


 嫌な夢を見た。目が覚めると、ベッドの上にいた。気絶していた私を誰かが運んでくれたようだ。

 病院の看護師によると、私が道端で倒れている所を勇者が助けてくれたらしい。なぜか私は嬉しくなかった。そればかりか、寒気がして身震いした。もし、私が彼らに獣族だとバレて殺されていたらと、想像するだけで震えが止まらない。

 こうして私の冒険は始まった。

 今日は、ニューシェンがシャロームにやって来る日だ。この日をずっと楽しみにしていた。あのポスターを見てからニューシェンのファンになった。楽しみにしている反面、前世での思い出を回視した。そう、私は魔王討伐の命を受けた地球からの転生者なのだ。

(回想)

 中流階級で育った私は、モテまくる幼少期を過ごしたが、同性からの圧力や女性からのハラスメントにより異性に対して強い恐怖を感じていた。容姿をだらしなくして、清潔感をなくしてみたら同性からも異性からもハラスメントがなくなった。不細工で清潔感がないことは、彼らに対する鎧となった。しかし、長年友だちだった異性からも嫌われた。高校1年生のある日、いつものように教室で挨拶すると友だちから

「誰?」

と怒鳴りつけられ、非常な剣幕で私を睨めつけた。関係はその日で終わった。幼少から長年凄く仲が良かったのでショックだった。女性の存在は、身長が低くても自分よりも遥かに大きく感じた。これだけでは終わらなかった。昔馴染みの友だちの誕生日に女性の名前を入れた財布とホテルで売ってるお菓子に手紙を添えて渡すと、渡してすぐに目の前でゴミ箱へ捨ててきた。そして、その女性はこう言った。

「うざい!こんなのフリマアプリで売れないじゃない!」

私はこの言葉を聞いて呆れた。

「あなたのために、時間をかけて選んだのに」

そう言うと、「私のためじゃなくて、自分へのご褒美のためでしょ!」と返された。

 私は学校の屋上に上がり、柵に足をかけた。この高さなら死ねるだろう。柵に体重をあずけ、ゆっくりと身体が宙に浮いていく。宙に浮いてる間は、1秒間がスローモーションのように長く感じた。しかし、地面まであと数センチというところで、意識を失った。真っ暗な視界の中に一人の女神がいた。私は死んだのだろうか。

「いいえ、死んではいません」と彼女は言う。

「え? だって私は今、あの高さから飛び降りたんですよ?」と私が言うと、彼女は微笑んで言った。

「そうですね」

「私……死んだの?」と私は再び聞いた。

「そうです。あなたは死んだのです。」と彼女が言う。視界が鮮明になっていくにつれ、彼女の像もはっきりしてきた。蒼い羽衣に黒っぽいワンピースを着て能面を顔につけた女神だった。

「やっぱり私死んだのですか…」

自分の死を受け入れると、

「ふふふ嘘です。面白そうなのでからかってみました。からかってすみません。あなたはまだ生きています。これからあなたをある世界へ転生させます。あなたが望むものは何ですか?」と女神は笑いながら尋ねてきた。

「私は昔から女の子になりたくて…。女の子になれたら友だちもずっと友だちでいられただろうし…。」

「でしたら、丁度良い!転生先にあなたと同じく自殺を図ろうとしていた少女がいます。一度彼女とあなた、入れ替わって貰います!聖なる魂よ、今ここに!サブスティテューション!!」

女神は魔法を唱え、私は粒子のように消え、気がついたらこの世界でマスカラとして生きていくことになった。不思議な事にマスカラの今までの記憶と前世の記憶が同時に頭の中に入っている。私の身体は今でも前世で動いているのだろうか?

(現在)

 踊り子の歌やダンスがどれも素晴らしく、私は感動した。特に、ツァィインはひとりでも鮮やかな踊りを見せた。ツァィインはいつも笑顔が輝いていた。ショーを観て感極まった私は早速楽屋へ向かった。無理矢理楽屋へ押し掛けたため、スタッフのゴーレム達に押さえつけられた。

「私を弟子にして下さい!」

身体を押さえつけられても口の自由は利いた。するとツァィインは、

「あらあら、まあまあ」

と言って困りながらも喜んでくれた。ゴーレム達が私を解放してくれたので私はすかさず言った。

「弟子にして下さい!」

するとツァィインは言った。

「そんな事を言われると照れちゃうわね。いいのよ、好きなだけここに居て。貴方はとても可愛いし面白いわ。でも弟子というのは無しね。師匠と呼ばれると、自分の実力を超えられた時に見下されたみたいで嫌だから。」

そんな訳で私は今でもツァィインの所に居座っている。定住生活ではなく、モンゴルのゲルのように移動式の住居だ。巨大な亀の甲羅の上にテントが建てられている。ツァィインは、

「貴方は多分ゴーレムに好かれる体質ね!私はいつもゴーレムに助けられるからこの体質には感謝しているの!」

と言って私を抱きしめてくれた。私の大好きなツァィインはこのことをとても喜んでくれていた。

私は、ツァィインのメイクやヘアアレンジをすることになった。前世が男だったとは思えないくらい手際よく出来た。マスカラの記憶が原因だろうか。ヘアメイクや夕食を一緒に食べている時に劇場で気になったことを沢山聞いた。その中で最も気になったことは、時々劇場に来るお客さんの中に死霊術師が混ざっていることがあるらしい。死霊術師はゴーレムなどの人型モンスターを操り、人々に災いをもたらすという。何も起こらなければいいのだが…

マスカラとして転生してから数日が経った。しかし、未だにマスカラがどういう生い立ちで育ったのか、どういう性格なのかわからない。私の脳内には、前世の記憶とマスカラの断片的な記憶しか無い。獣族の一人であるコヨーが暴れたこと。コヨーはマスカラの知り合いだったこと。勇者一行に一族を抹殺されたこと。獣族として姿を隠しながら生きていた苦しい日々。これしか彼女の手掛かりがなかった。そう言えば、能面をつけたふざけた女神が、私とマスカラの魂を入れ替えたって言っていたな。私の身体はどうなったのだろうか?私の友だちや家族は?高校生活は?不安でしかない。私の身体で何か変なことをされていたらどうしよう。まあ、どうせ元の世界に戻る訳ないからマスカラとして精一杯生きていこう。

  マスカラが元の身体に戻っても状況が飲み込めるように日々の記録を取る事にした。

※※ ※※ ※※ ※※ ※※ ※※ ※※ ※※ ※※ ※※ ※※

サクヤ暦5621年5月2日

 女神の魔法で異世界に転生した。グラソンで美味しいかき氷を食べた。シャロームまでの道中で勇者一行に遭遇。気絶した私を勇者が助けて、シャロームの民宿まで届けてくれた。

サクヤ暦5621年5月5日

 シャロームで冒険者踊り子集団ニューシェンのコンサートを観た。ツァィインに弟子入りし、ニューシェンと行動を共にするようになる。

 ツァィインは物静かで人見知りだが、とても明るくて気配りが出来る人なので、前世で女性恐怖症だった私とも仲良くなった。

サクヤ暦5621年5月12日

 ツァィインと一緒に暮らすうちに、ツァィインの一日のルーティンは大体決まっている事に気がついた。仕事は9時から始まるので、8時20分に起床。10分で朝ごはんと身支度を整える。仕事場には必ず10分前には到着し、全員に挨拶していた。仕事の後に必ずベッドへダイブする。そして夕食を食べずに翌朝を迎える。

※※ ※※ ※※ ※※ ※※ ※※ ※※ ※※ ※※ ※※ ※※

サクヤ暦5621年5月15日

 今日は初のクエストだ。ニューシェンのメンバーと私の4人でクエストへ向かう事になった。ニューシェンのメンバーにとっても初クエストらしい。

 この世界のクエストは、冒険者協会が管理しており、冒険者のランクと関係なくクエストを受けることが出来る。駆け出し冒険者のランクはLから始まり、クエストのクリア数に応じてランクが上がる仕組みになっている。例えば、ランクLの次はK、Kの次はJだ。ただし、Aの次はS、Sの次はSS、…となっている。

 タッチパネル式の掲示板にクエストが沢山掲載されており、冒険者は自由にクエストを受けられる。クエストランクや報酬、地名、ドロップアイテムなどの条件指定やフリーワード検索機能まで付いていて、とても便利だ。

 赤い髪色でミディアムウェーブのヒメラがはしゃいでいる。ヒメラが飛び跳ねる度に長い耳が上下左右に揺れる。

「今日は初クエストだぞ〜!気合い入れて頑張ろう!」

ヒメラは、大きな声を出しながらタッチパネルを押してクエストを受注した。

 クエスト内容は、ワイバーンの討伐。クエストランクJだ。討伐対象・ワイバーンの危険レベルは10である。危険レベルとは、冒険者協会の基準で、モンスターが冒険者にどれくらい危害を及ぼすかという判断に使われる指標だ。数字が高いほど強いモンスターということになる。護衛用ゴーレムの危険レベルは5なので、ワイバーンは護衛官よりも遥かに強い。

「ねえ、ヒメラさん。別のクエストにしてくれると嬉しいな♫」

私は笑顔を作りながら強い口調で別のクエストを進めた。しかし、ヒメラは全く聞く耳を持たない。

「護衛より強いモンスターを倒すなんて、辞めた方が良いよ。コンサートが近いのにクエストで死んじゃったらどうするの?」

髪色が紫で肩の位置までストレートヘアーのピリカもヒメラを注意する。

「はっはっはっ!みんな弱音を吐くな!挑戦してこそのクエストだ!気合いで何とかなる!」

ヒメラはよくわからない根性論を言って、受注ボタンを勝手に押してしまった。

 ボタンを押してコンマ一秒後に受付の女性が満面の笑みを浮かべながら人数分の死亡保険の誓約書を持って来た。

 この世界で冒険者ランクよりも高いランクのクエストを受ける場合、必ず死亡保険に加入させられる。死亡保険の料金は、一人10万トロフィでクエストクリアと共に解約され、10万トロフィが戻ってくる。10万トロフィが払えなくてもクリアすれば借金は無かったことになる。しかし、もしクエスト失敗すると、生きていた場合でも10万トロフィは全て冒険者協会の資金になる。冒険者協会の資金源は、こうした無謀な冒険者たちの死亡やクエスト失敗によって賄われている。トロフィとは、この世界の貨幣である。日本で千円が一トロフィ。つまり、ここの世界で自分達のランク以上のクエストに挑戦するためには、自らの生命と日本円で一億円を賭けることになるのだ。いくら売れっ子の踊り子と言っても年収300トロフィなので多額の借金を背負うことになった。

 クエストに出発する前から三人が泣き崩れる中、ヒメラだけが元気だった。

「もう後戻りは出来ない!クリアするしか解決策がないぞ!」

ヒメラは開き直っている。ヒメラの言う通りだが、ヒメラに非がある。クエストに行くまでみんなのモチベーションを上げることが困難だったが、私達はワイバーン討伐に向かった。

 暫くクエストの指定区域を歩いていると、ブウォン、ブウォンという風を斬るような大きな音がした。

 鋭く黒い鉤爪が地面に勢いよく降ってきた。背後に突然日陰が出来ていた。後ろをゆっくりと振り返ると、視界全体が翠色の鱗で覆われていた。視線を上にやると、巨大な何かが私達を見下ろしていた。

 キュオオオオオオン

 巨大な生物の咆哮は、耳をつん裂き、大地を砕いた。

 ワイバーンだ!

 とうとう現れてしまった。護衛官のニ倍の強さの巨大生物。パーティ全員が息を呑んだ。圧倒的な気迫。大きな存在感。全てが冒険者に絶望を与えた。

 地響きと共にヒメラが飛び上がり、ワイバーンの脳天に渾身の一撃をお見舞いした。しかし、何も起こらない。怒ったワイバーンは、ヒメラの腹に尻尾をぶつけ、森の奥まで飛ばした。

 続いてツァィインが詠唱を始める。

「プルタオルネ!!ネンネ!!」

詠唱と共にワイバーンが激しい炎を上げて燃える。ミディアムやウェルダンにならず、レアの状態で炎が消え、ワイバーンは眠りについた。

 クエストをクリアし、借金からおさらば出来た。暫くの静寂の後、歓喜が湧いた。

別サイト「たいあっぷ」でも掲載中です。「たいあっぷ」では辰梛孰(しんないず)様が挿絵を描いて下さっているので、是非そちらもご覧下さい。https://tieupnovels.com/series/4236

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