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杖は鈍器だと思う

 カウンターへ向かうと、今度は身長低めの小柄の女の子が応対してくれた。

「いらっしゃいませ」

 彼女はにっこり笑うとこう答えた。

「私の名前は、シルヴィア。初めて職業についた方には、こちらで些細な装備を配布しています」

 というと、カウンターの下から大きな8角形柱の形をした箱を目の前に置いた。

 その箱は、上部に大きな穴が開いており、周囲には金色の文様で魔方陣らしき物が描かれており、箱の色は見る角度によって色が変わるようになっていた。


「マジョーラーカラーがこんな所で見られるとは……」

 ぽつりと呟いた。


「これは、職業変更後にだけ使える由緒正しき装備箱です。このなかに手を入れ、強く念じることで具現化しその職業に最適な武器や装備が取り出せますよ」

 シルヴィアがそう言うなり、突然ブチョウに表情に生気がみなぎる。

 そして、人を押しのけ突然箱の前に立ちはだかった。


 どうやらこういうくじ引きやらギャンブル要素はブチョウにとっては好物らしいな……。


「よしよしよーし。ここで一発デカい武器を引いてやろうじゃないか!」

 袖は無いのに、腕をまくるふりをするブチョウ。


 皆してそんなブチョウを横からじっと観察していると、

 ブチョウが何かを掴んだような険しい表情になった。

「みてろよ~」

 そう言うと、ブチョウがその物体を箱からゆっくり引き抜く、まずオレンジ色の手のひらサイズの宝玉がちらりと見え、そのキラキラとした宝玉が穴から出ると続けて木製の柄のようなものが見えてきた。


 一同、「おおぉ」と声を上げた。


 ブチョウはさらに引き抜く。

 その柄のようなものは、すごく長く、引き抜くもなかなか柄の部分が終わらない。

 そして、全体像が見えて初めて分かるそのフォルム。


 そう、ただの木製のバットだった。


 そして、オレンジの部分は宝玉ではなく、オレンジ色の『防犯用カラーボール』であった。

「バールじゃないのかよー!」

 叫ぶブチョウ。

 すかさず、ミーナが突っ込む。

「そんなん持ち歩いていたら警察に捕まるじゃないの!」

 

 そういう問題では無いのだが……。

 再び意気消沈するブチョウを横目に、ユウがゆっくりと箱に手を入れる……。


 息を呑む一同。

 そして、何かを掴むと箱の中から樫の木の杖を引きずり出した。

 樫の木の杖は、先端が少し膨らんでおり《ぬ》のような形状をしている。殴られるとブチョウのバットより痛そうであった。


「なんか、ヒーラーなのに魔法使いっぽい~」

 とはしゃぐユウに対して、


「そっちの方が攻撃力高そうじゃないか! 俺のバットとカラーボールを交換してくれぇ!」

 バットを振り回しながら叫ぶブチョウ。


「ひ、ヒーラーがバット持ってたら、な、なんの職業か解らないですよ!」

 ――ギリギリと音を立てブチョウを羽交い締めにしてなんとかその場を抑えた。


「じゃあわたしいくね!」

 ミーナが箱に手を突っ込む……、

 すると、広●苑くらいの糞デカい本と黒い指ぬき手袋が出てきた。


 その本は上製本であり、表装は黒い布地が貼ってある。

 そして、箔押しで文様が描かれており、丸背で本の角にはL字型の金属装飾が施してあるのだが、ページは全て真っ白であった。

「なんかこの、本ちょっと重いんですけど……。この手袋は右手用なのかしら……」

 ミーナは右手に手袋をはめて言った。


 ブチョウが叫ぶ。

「高そうな本だな! 売って良い武器買うから俺のバットと交換してくれえええ!」


 俺は再びブチョウを羽交い締めにした。


「ハァハァ……。やっと俺の番だな……」

 と言い、ブチョウを右手で押さえ、警戒しながら箱に左手を入れると、『カチャリ』という音と共に左手が少し重くなった。


 ん? 


 なんだか違和感を感じた俺はとっさに左手を引き抜いた。


「うわぁなんだこれ! 左手に腕輪が装着されてる! し、しかもこれ外れないんだけど」

 とっさに叫んだ。


 その腕輪は、左手首から肘の手前までを覆っており、腕橈骨筋(わんとうこっきん)がすっぽりと隠れるようにな感じになっている。色は銀色で金属のような質感で、ボタンが幾つも付いており、エアコンなどのリモコンにもある蓋のようなものもあった。

 なんかこれ、プレ●ターで見たような気がする……。


 ブチョウはとっさに背後に回り込んだ。

「なんかハイテクそうだな! 俺のカラーボールと交換しよう!」

 そう叫ぶと襲いかかってきたが、ブチョウの突進を横にひらりとかわすと、後ろに回り込み、再びそのまま羽交い締めにしたのち、なんとかその場を抑えた。


「ハァハァ、何やってんですかブチョウ……」

 息を切らしながらブチョウに訊いた。

「だってよぅ、バットだよ俺……。確かに野球は得意だったよ……。とはいえ屈強な敵どもをこんなバット1つで敵たおせるのかよ……、カラーボールだって臭い付けて終わりじゃねーか……」

 そんな俺に対して、ブチョウは涙を浮かべ、膝を床に付け、四つん這いになって嘆いていた。


 シルヴィアがブチョウの頭をさすりなだめていた

「だいじょうぶですよ。個人個人にあった能力によって各装備は強化されているので、実は見た目よりずっと強くて頼りになりますよっ。ブチョウさんの活躍楽しみにしてますっ」

 そう言うなり、シルヴィアは嘆いているブチョウにニッコリ微笑みかけた。


 ブチョウの表情がみるみるうちに明るくなり、機嫌が直った。


「うっしゃぁああああ! やるぞこらあぁぁぁぁあ!」

 ブチョウの謎のスイッチが入った。


 そんなブチョウを横目に、シルヴィアを含め、みな口々にチョロいな。と呟いた。


「と、言うわけで!」

 シルヴィアがぴしゃりと手を叩いた。そして続けて

「いま紹介できそうなのは、っと冒険の定番。スライム狩り1000匹と、薬草500個の採取と試食、あとポーションの試飲400本くらいですかね。

 あっ。あと、壁が抜けられないかどうかひたすら壁に体当たりする仕事もありますよ」


「えっ。ちょっとまって。桁が多すぎじゃないですか」

 思わず聞き返した。


「どうかしましたか? みなさんこれくらい軽くこなしていますよ」

 にっこり笑うシルヴィア。

 そ、そうだ。今の我々の仕事はテスターだった……。


 そのシルヴィアの笑顔をよそに、その視界の遥か向こうで大量の薬草食べようした同業者が薬草を口に運びながら、青い顔でうなだれていた。「158個……、159個……。うっぷ」とブツブツ言っている。


「えっ、えーと……。そ、その。ス、スライム狩りを……」

 と言ってる最中に、先ほど飛び出したクロウとカツヨシがスライムの粘液まみれでぐったりしているのが視界に入った。


「わかりました。スライム狩りですね!」

 目をキラキラさせるシルヴィア。

「スライムは、物理攻撃がほとんど効かないんですよ。なので魔法でバシバシやっちゃってください。あと、可能であればいろいろな属性や攻撃方法を試してみるのも手ですね」


 あぁ。そうか。彼らは魔法が使えないのからそういうことになっているのか……。

 うちらはスキル未確認だが一応使えそうなのがいるので休み休みやればいいいか。

 と思いつつ。そのクエストを受けることにした。


「さて、行きますよブチョウ~」

 くるりと後ろを向き、ブチョウの方に視界を合わせると、「ふんっふんっ」と言いながらバットをブンブン素振りしていた。


 この人さっきのシルヴィアさんの話ちゃんと聞いていたんだろうか。


「そんなところで、素振りしないでくださいよ。あぶないなぁ」

 ブチョウに声をかける。


「これからバッタバッタと敵を倒せると思ったら、いてもたってもいられないじゃないか!」

 声を荒げるブチョウ。


「はいはいとっとと行きますよ~」

 と、ミーナが部長の背中を押し、ユウが

「すみませんすみません」と周囲に謝りながらブチョウを外へ連れ出して行った。

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