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部長と穴

 休憩から一夜。

 一行は余りの寝づらさと環境の悪さに悩んでいた。

 それもそのはず、ブチョウの歯ぎしりと放屁は決まったビートでリズミカルに行われ、ことある毎にシャウトするのだ。

 ミーナと連携し、なんとか地底湖の対岸に寝袋ごとブチョウを移動させたは良いが、洞窟に響くいびき声がより反響し、いっそう悪化した。その後入口付近に置いたり、キャンプファイヤーみたいに薪でブチョウを覆ったりと、いろいろと工夫したが、結局元の位置が一番マシという結論にたどり着くまで、ゆうに3時間ほど経過した後であった。


「ア…あァ……。全然眠れなかった……」

 頭を抑えながら起き上がった。


 ユウとミーナは地底湖のほとりで、顔を洗いながら愚痴をこぼしている。

「なんか、全然眠れた気がしないんだけど……」

「わ、わたしも……、あぁ……うつらうつらしてきて、……もう……眠れる……と思うとシャウトすんのよ!! ちっとも眠れないのよ!!」


「おはよう……ユウ……ミーナ……その様子だと眠れなかったみたいだね……俺もだよ……」

 バシャバシャと顔を洗う……。地底湖の水は眠気すら何処かに行くほど、ひんやり冷たかった。辺りを見回すと何故かブチョウが居ない。


「ブチョウは?」


「あれ? さっきまでそこで寝てたけど……」

 きょろきょろとあたりを見回すミーナユウ。何かに感づいたのか、ユウはブチョウらしきものを発見した。

「あ! あそこじゃない?」


 洞窟の壁面の隙間で、地面に顔を突っ込んでブルブル震えているブチョウがいた。奇跡的にいびきが一切聞こえなかったため、場所の特定に時間がかかったのだ。


「ブチョウ! 大丈夫ですかブチョウ!!」

 そういってブチョウに駆け寄っていき、救出せんがため背中から手を通して引っ張り上げたら、ブチョウの顔よりちょっと大きめの穴があった。


「こんなところに穴が……」

 穴は小石を落とすと、約1.5秒前後で〈コツーン〉という音が返ってきた。重力加速度を約9.8m/s^2として、およそ11m程度……、下は空洞であり、いびきや歯ぎしりといった音は全てそこに消えていったのだ。最初からこの穴にブチョウを突っ込んでおけば快適睡眠ライフがおくれたというのに……。一同は悔やんでも悔やみきれなかった。


「いびきを相殺するこんな素晴らしい穴があったなんて……」

 ミーナは悔しそうに呟いた。


「それはそうと、この穴からは風がこちらにながれて込んでくるみたいだな……」


 ブチョウをどかしたその穴からは、絶えることのない涼しい風が吹き出してくる。その風は臭いなど……、例えば硫黄臭さとかそういう危険な臭いがする訳ではなく極々普通の風であった。有毒ガスであればたちまち意識を失い、可燃性ガスが充満している場合は、松明で引火し爆発、崩落するということも考えられるわけだ……って、平気で火とかぶっ放してたり松明持ってウェーイとかやってたりした浅はかな行動を思い返した……。もう少し慎重になろう。そう思うシンであった。


「もしかして、だけど。例の道具屋のペンダントって……ここに落ちたって訳じゃないよね?」

 ユウは穴を見つめながら、訪ねてきた。


「可能性がないって訳じゃないけど、可能性が無いとは断言できないよね。って、まてよ……。ユウのゴルフボールって魔力乗るんよね……? ちょっとファイヤー使ってこの穴に落として貰える? さっき調べてみたけど、可燃性ガスとかはないから大丈夫だと思うんよ」


 「ん。わかった。ちょっとやってみるね」


 ユウは鞄からゴルフボールを取り出すと、掌に乗せて詠唱した。そうしてその状態で玉を下に落とす。ボールは火の塊となり下へと落ちていったが、真下でバウンドすることはなく何かに弾かれたように横に跳ねて転がっていった。


「ちょっとあれじゃない?」

 ミーナが指を差している。


 下に落ちた玉の光を受け、その弾かれた場所でキラリと光る何かがあった。火の届く範囲をよく見ると、石畳が敷き詰められているのが確認でき、下の階層にある種のダンジョンがあると考えられた。

 もしかしたらここに来るまでにあった、外れルートの階段がそうなのかもしれない……。


 「さすがにここから行くのは、身体がギリギリ入るか詰まるかって感じだし、なによりちょっと高すぎるな……とりあえずさっき行った階段から行くか」


 と、立ち上がった瞬間――、壁にもたれかかっていたブチョウが姿勢を崩すと、まるで知恵の輪のパズルのように身をよじらせながら、絶妙な姿勢のまま穴の底へとするりと落ちていった。


「あっ……、ブチョォォォォォ!!」


 ――――

 ――

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