4.レガテリテは妊娠に怯える。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
妊娠というものがなにか解らなくて混乱する。
夜伽をして子供を作ると旦那様に聞いてはいたけれど、私の体の中で子供が育つという意味が分からない。
みんながおめでとうと言うのでおめでたいことなのだろうけど、私だけ置いてけぼりにされている。
怖い。
私の異変に専属メイドが気がついてくれて、妊娠のことを教えてくれた。
話を聞けば聞くほど恐ろしくて、仕方ない。
毎日気持ち悪くてご飯もまともに食べられない。
不安で押しつぶされてしまいそうだった。
サルバシアは週に二日しか帰ってきてくれない。
帰ってこられた日は笑顔でいなくてはならない。
私は自分の体を持て余していてそれどころではないのに。
サルバシアは帰ってきても夜伽をしなくなった。
それだけが唯一の救いになった。
けれども私の寝室には近づかなくなった。
結婚した時より縮まったと思っていた距離が妊娠してまた遠のいて、私は愛されなくなってしまったのだ。
子供を産むことが妻にとってとても大切なお仕事だと聞かされていなかったら、私は狂っていたかもしれない。
サルバシアに抱きしめられない事が不安で仕方なかった。
孤独と、体調を戻せないのとで、死んでしまいたいと思ったのも一度や二度ではない。
やっと吐き気が治まり、少し体調が良くなると、今度は空腹に悩まされるようになった。
量は食べられなくて、三度の食事をちょっとずつ一日掛けて食べている。
体の中で何かが蠢き、その気持ち悪さに怖気がはしった。
お腹の子が元気に育っている証拠だと言われても、いつお腹を蹴破られてしまうのではないのかと、恐ろしくて仕方なかった。
サルバシアとの距離は開いたままで、私はまた一人ぼっちになってしまった。
叫び出したいのに、叫び出してしまうとサルバシアに報告が行くことが解っていたので、私は私を抱きしめて一人でただ恐怖と孤独に震えているしかなかった。
酷い痛みに長い長い時間苦しめられて、精も根もつき果てて、もう死にたいと何十回となく思って子供が生まれた。
私の中で蠢いていたものがこの真っ赤で血濡れたものだと知って、この子も誰にも愛されない子になるのだと思った。
初乳を与えるようにと言われ、何のことか解らずにいると、乳首を咥えさせろと言われ、私は混乱した。
「旦那様以外にしてはいけないことなのではないのですか?」
そう聞くと「赤ん坊のご飯は母親が与える母乳が必要なの」だと教えられた。
乳首を咥えさせると、赤ん坊は必死に吸い付いた。
サルバシアが乳首を弄ぶのとは違い、快楽がないことにホッとした。
血濡れた子供は洗われて綺麗になったけれど、皺くちゃで、可愛らしさはどこにもなかった。
子供が生まれてからは、子供の泣き声と胸の痛みにのたうった。
胸が倍ほどの大きさになり、張って痛みがあり、乳首から母乳がポタポタと垂れた。
一日中泣く子供に、クタクタになっているのに、お父様が私に会いに来た。
子供を抱いて「よく頑張ったな」と私にいろんなことを言っていた。私はただにこやか笑ってお父様を受け入れたけれど、私をこんなに苦しめる元凶はお父様だと、恨みをつのらせていた。
私が眠れる時間を一時間も奪って、子供を抱き続け、破顔したまま帰っていった。
私は抱かれた記憶もないのにと、また子供が嫌いになる理由が一つ出来た。
やっとお父様が帰ったと思ったら今度はサルバシアが私の枕元に座り、両親を連れてくると言った。
私がこんなに体調が悪い時に連れてこなくてもいいのにと思ったけれど、私は笑顔で楽しみだと答えた。
誰も私のことは気にかけてくれず、子供のことばかりを言う。
サルバシアもそのご両親も子供を抱いては泣かして、泣いたら私に押し付ける。
早く帰ってほしいのに、いつまで経っても帰らない。
笑顔を浮かべていることも出来なくなってきたころ、やっと帰っていった。
ご両親が帰ると、サルバシアが夜伽を求めてきた。
嫌でたまらなかったけれど、私の義務らしいので。喜んで受け入れて居るように見せた。
また妊娠したらどうすればいいのか、それが不安で、いじられて反応する体はサルバシアを受け入れても、今までのように気持ちよくはならなかった。
子供はサルバシアの両親がずっと抱いていたために、抱き癖がついたとメイドが言い、ベッドに下ろすと泣き叫ぶようになっていた。
やっと乳母が雇われ、夜は子供の面倒を見てくれるようになったけれど、今度は胸が張って痛くて仕方なかった。
私はやはり孤独で、サルバシアは帰ってくると私を抱いたが、私は心の中で拒絶していた。
しつこく私の体を弄り、私を上に乗せ、私に腰をふるように求める。
私のことを考えてくれる人は誰もいなかった。
お父様は子供がよほど可愛いのか月に一度、子供に会いに来ていた。
私は我慢の限界を超え、それでも我慢し続けるしかなかった。
子供さえ居なければと毎日毎時間思った。
そんな時、私をサルバシアが仕事をしている本邸に移すという話が出た。
サルバシアは忙しいので、この家に来るのが大変だというのだ。
「子供を側においておきたい」と言われ、あぁ、私はやはり要らないのだと思った。
子供の付属物になったのだと思った。
私の意思は無視され、私と子供は本邸に移された。
本邸は侯爵家の半分より少し大きいくらいの屋敷で、私はサルバシアの寝室の一つ間を開けた部屋を充てがわれた。
サルバシアと私の部屋の間にあるのは夫婦の寝室だと言われ、週に二度、夫婦の寝室にくるようにとサルバシアに言われた。
本邸に移ると、サルバシアとの食事の回数が増えた。
女主人として、本邸の屋敷の仕事も割り振られた。
子供は泣き続けるが、サルバシアは子供の機嫌がいいときしか構わない。
泣き始めると仕事だと言って居なくなる。
私は子育てと、女主人の仕事と夜伽の仕事でくたくたになっていた。
誰も私には容赦しない。
エントロスでの暮らしに戻りたいと思い、夜伽の晩以外毎晩泣き暮らした。
乳母は何故か子供を我が子のように扱い、私が子供に触れると嫌がるようになってきた。
それが一ヶ月ほど続いた時、乳母は居なくなった。
また子供の世話を一人でしなくてはならなくなった。
抱き癖は直らず、下ろすと泣いた。
私は抱きながら眠った。
それでも週に二日はサルバシアは夫婦の寝室に私を呼び、しつこく私の体を弄り回した。
その後に子供を胸に乗せて眠るのだ。
救いは、子供を産んで半年ほどすると、快楽を感じられるようになったことだった。
今度は感じすぎて意識を失い、それでも許されず、体の中にサルバシアを感じながら、揺さぶられて起こされる。
感じるようになったことが救いだと思っていたのはほんの少しの間だけで、心と体の乖離に苦しむことになった。
子供を産むまでは体の中にサルバシアを感じると愛されていると思ったのに、今は愛されていると思えない。
サルバシアに弄ばれてる気がして仕方がないのだ。
サルバシアは夜伽を楽しもうと言うが、私にとっては地獄への扉が開く始まりでしかなかった。
子供が一歳になると、サルバシアにとって楽しむ夜伽ではなく、子供を作るためのものへと変わった。
数度の夜で覚えのある、気持ち悪さを感じ、食事ができなくなり、妊娠が告げられ、夫婦の寝室に呼ばれなくなった。
私の気分の悪さは誰も気にかけてくれず、サルバシアの両親と、お父様が訪問してくる。
気持ち悪さを必死でこらえ、笑顔で迎え入れる。
子供を甘やかし、可愛がるだけ可愛がると帰っていける人達はいい。
残された子供と、自分の体すらままならない私が残され、子供は私に纏わりつく。
歯の生えた口で乳首を噛みちぎられるのかと思うほどの痛みに耐えてお乳を与え続け、やっと母乳を与えなくてもよくなった。
しばらくするとまた子供が体の中で蠢きだし、それに触れるとサルバシアは喜んだ。
次は女の子が欲しいと勝手なことを言い、お腹が大きくなっている私の裸を見たがり、お腹にキスをして話しかけていた。
一人目の子供のときと違い、私の気持ちの悪さが治まるとサルバシアは私の中に入りたがった。
突かれる度にお腹が張り、痛みが襲う。
もしかしたら子供が死んでくれるかも知れない。
それだけを望んでサルバシアを受け入れていた。
また子供は体の中で蠢く。
気味が悪い。
またあの血まみれの子が生まれるのかと恐ろしくて仕方ない。
二人目もまた死んだほうがマシと思える苦痛に苛まれて産んだのは、サルバシアが望んだ女の子ではなかった。
サルバシアは女の子が産まれるまで頑張るぞと笑顔で言った。
もう、殺して欲しいと。毎夜、思った。
本当に女の子が生まれるまで子供を産むことになり、女の子は可愛くて仕方ないからともう一人女の子をと望まれた。
私は四人の男の子と二人の女の子を産んだ。
誰にも愛されずに育った私は、誰も愛せず、婚姻の義務を果たし続けた。
どの子供も愛せず、笑顔の下では子供を殺すことと、自分を殺すことのどちらが楽になれるかを考え続けていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
レガテリテは子供が泣いていても、何時も笑顔で対応していて、母親として、妻としてとても素晴らしい女性だと思った。
その日の気分で振り回されることなく、私の両親が来たときも、ご父君が来られたときも笑顔で対応している。
週に二度の夜も私の求めに柔軟に受け止めていた。
出産後暫くは潤いが足りないと思っていたが、半年もすると、潤い、具合がよく私を楽しませた。
子供を産む前と後では全てが違い、体が熟れて物欲しげにひくつくようになった。
私はレガテリテに溺れたが、出産後の他の女も試してみたくなって、町で出産後の女と暫く遊んだ。
レガテリテほど具合のいい女は居らず、すぐに飽きてレガテリテを堪能したほうがよほどいいことに気がついた。
レガテリテは完璧な女だった。
それが嫌味にならず、儚げに母と妻を見事に演じ分けていた。
口うるさいことは何も言わず、私の求めるがままに女主人としても立派に仕事も果たしている。
サランドルの乳母の様子がおかしいと報告を受け、乳母に目を光らせていると何を勘違いしたのか、私に誘いをかけてきた。
その場で解雇し、レガテリテは子育てを苦もなく熟していたので、新たな乳母を雇い入れるのは見送った。
サランドルが一歳になると次の子を望まれるようになり、楽しむ夜伽から子供を作るものに変えた。
レガテリテに似た女の子が欲しくて、レガテリテの腹に話しかけたが残念ながら生まれてきたのは男の子だった。
妊娠中のレガテリテも美しく、私をその気にさせた。
一度目のときも、楽しめばよかったと後悔した。
女の子が生まれるまで頑張ろうとレガテリテに言うと、笑顔で「そうね。女の子は可愛いでしょうね」と賛成してくれた。
三人目も男の子で、四人目で念願の女の子が生まれた。
女の子が生まれた時、レガテリテは涙を流して喜び、育てていると、女の子と男の子では全く違うのだと知った。
私はもう一人女の子が欲しいとレガテリテに言うと、やはり「女の子は可愛いものね」と言って、子作りに精を出した。
五人目も男の子で、六人目が女の子で、レガテリテの体つきが変わったことに気がついた。
小柄なことは変わりなかったが、ピンと張っていた胸は柔らかく、手に吸い付くようで、尻は少し垂れたかな?と思ったが、背後から楽しむ時はその柔らかい尻がまた私を楽しませた。
私はレガテリテを心から愛しているのだと思った。
たまに他の果実も欲しくなるが、最上はレガテリテだと思った。
六人の子を産んだが、レガテリテはまだ二十五歳。
子作りはせず、夜伽は楽しむものとして週に二度、レガテリテを楽しみ続けた。
夜会に一度連れて行ってみようかと思い立った。
レガテリテは今まで私の期待を裏切ったことがない。
夜会でもきっと、私の満足の行く妻の役目を果たしたくれるような気がした。
駄目なら次からは連れて行かなければいいだけなのだから、綺麗に着飾ったレガテリテを見てみたいと思った。
六人目の女の子が母乳を必要としなくなって、私はレガテリテを夜会に連れて行く決心をした。
レガテリテのドレスを選び、宝石を選ぶ。
初めてのことに戸惑い、オロオロするレガテリテが可愛らしかった。
コルセットに縛られる事に慣れるために、レガテリテは家でもコルセットを着けて生活をしていた。
その腰は信じられないほど細かった。
手折れてしまうのではないかと心配になるくらいで、そこまでコルセットで締めなくてもいいんじゃないかと、メイド達に言ったが、メイド達は細ければ細いほどいいのだと言って、私の言うことは聞き入れられなかった。
学園に通っていても、レガテリテは子供を見たこともありません。
誰にも教えられていないため、妊娠や出産の知識は全くありません。