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2.レガテリテが感じた初めての幸せ?

 翌朝は優しいサルバシアと一緒にベッドで朝食を一緒に食べた。

 人の温もりってこんなに優しい温かさなんだと初めて知った。

 ただ、もう昨夜のようなことはしたくないと強く思った。



 週に一度サルバシアが帰ってきた日は夜伽をしなくてはならなくて、夜伽は嫌だったけれど、かまってほしかったので我慢した。


 ベッドにやって来て、事が済んだらベッドから出ていく日もあれば、そのまま一緒に眠ることもあった。

 

 一月も経つ頃には、夜伽さえなければ、一緒に目覚める朝は何だか嬉しいと思えるようになった。

 初めて与えられる人の温もりが嬉しかった。

 だから他のことは我慢することにした。


 エントロス家と違ったのはサルバシアは週に一度しか家に帰ってこないことだった。

 家の中にはサルバシアの存在は薄く、サルバシアに会いたいと使用人達に伝えても困った顔をするだけで週に一度しか会えなかった。


 エントロスではいつも人の気配を感じられた。それが使用人だろうが、家族であろうが。

 お父様も毎日同じ食卓を囲んだし、家族の輪の中に私は入れなかったけれど人は居た。

 けれどこの家は人の気配が薄くて、人の温もりを知ってしまったために、寂しさをより強く感じてしまう。


 食事も一人、夜も私の就寝の準備が整うと誰の気配も感じない。


 この家には使用人すら居ないのではないかと思ってしまう。


「サルバシア様はお仕事が忙しいのですか?」

 勇気を出して執事に聞いた。

「忙しくしていらっしゃいます」

「そうですか・・・」


 なら仕方ないと息を吐きながら諦める。

「一度旦那様に寂しいと仰られたほうがいいと思いますよ」

「そんな我儘言ってもいいのでしょうか?」

「伝えなければ解っていただけないこともあると思いますよ」

 執事の言葉に勇気づけられてサルバシアが帰ってきてくれた時に、「寂しいです」というと「すまない」と言って、抱きしめてくれてその日は朝まで一緒に居てくれた。


 朝食を一緒に食べ、仕事に送り出す。

 見送ってしまえば私はもう何もすることがない。



「私にも出来るお仕事を下さい」

 そう、執事に頼む。

「何が出来ますか?」

「分かりません・・・」

「では、奥様が女主人としてすべきことを少しづつ覚えていただきましょう」

「はい」


 サルバシアが戻ってくるのをただ待ち続けるより、少しでもサルバシアの役に立つことをしようと思った。


 寂しいと伝えてからは週に一度しか戻らなかったサルバシアが、週に二度帰ってきてくれるようになった。


 夜伽が週に二度に増えてしまったけれど、その後抱きしめてくれることが嬉しくて、夜伽は我慢した。


「多く帰っていただけて嬉しいです。お仕事大変ではないですか?」

「大丈夫だよ」

「私の我儘で無理はしないでください」

 サルバシアは苦笑した。


 夕食を一緒に食べ、一緒にベッドに入る。

 夜伽をする日もあれば、ただ一緒に眠るだけの日もあった。私は初めて人に大事にされてとても幸せだった。

 執事の言う通り、言ってみなければわからないこともあるのだと知った。

 それが狂ってしまうのは私の妊娠が解ったことから始まった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「サルバシア。別邸に行くのは週に一度と約束したでしょう?!最近は週に二度も向こうに行っているじゃないの!!」


 ティラベルは豊かな胸にくびれた腰、張った腰に色気を垂れ流す口元のホクロ。

 外見だけなら愛妾として満点をやってもいい。

 だが、ティラベルは妻を迎えた途端に豹変した。


 まるでティラベルの方が本妻なのだと言うかのように、私へ我儘を言い出しはじめた。


「可愛い我儘なら聞いてあげたいところだが、文句なら聞きたくはない。仕事も忙しいし下がれ」


 ティラベルはここ三年、本邸に連れ込んでいた愛妾だった。

 まだ結婚もしていなかった私が、愛妾に使うお金が惜しくて、本邸に連れ込んだ愛妾だった。

 妻を娶るときには出て行ってもらうことを了承させていたのだが、レガテリテという、特殊な妻を娶ることで、追い出す必要もないかと、残留を許した。



 始めの頃はティラベルが妻のような振る舞いをしても気にならなかった。

 ままごとのような妻の振る舞いを許していたせいだろうか、控えめでいい女だと思ったのに、たった三年で、厚かましく図太いこの屋敷の女主人のような顔をしだした。


 使用人達から不評を買い、最近ではティラベルの言うことを聞く使用人は少なくなっていると聞いている。

 女主人の仕事はせず、愛妾として美味しいところだけを享受し、ただ偉そうに自分の思うがまま人を動かそうとしても、誰も付いてなど来ない。


 私はレガテリテを知って、ティラベルに疲れていた。


 私がティラベルに下がれと言ったのに目の前で腕を組んで私を睨みつけている。

 大げさに溜息を一つ吐いた。


「夫が妻の下に帰る事に何の不思議があるんだ?」

「何が妻よ!!本邸に住んでいるのは私よ!!別邸に住む妻なんか放っておけばいいじゃない!!」


「キーキー叫ぶのは止めてくれないか?こちらに帰る日がどんどん少なくなりそうだ」

「サルバシア!!」

 ティラベルは、人の顔とはこんなにも醜くなるのかと驚くほど醜い顔をした。


「ご機嫌がななめのようだ。今日は妻の下に帰るとするよ」

「許さないわよ!!」

「ティラベルに許してもらわなくてはならないことなど一つもないよ。気に入らないなら出ていってくれないかな?」


「私を捨てる気?!」

「本邸に住んでいても、愛妾だという立場を忘れた愛妾は要らないんだ」

「私は本邸に住む女よ!!ただの愛妾なんかじゃないでしょう?!」


 あまりの鬱陶しさに、後は使用人たちに任せて私は妻の下に戻った。



 レガテリテとの結婚が決まる前、エントロス侯爵が話したのは貴族の妻として不足がある娘だということだった。


 本来子供の頃からするべき社交をさせたことがない。学園では下位の者たちとは友人関係を持ったようだが、自宅で身の置き場のなかったレガテリテはお茶会の開催もしたことがないし、招かれたこともない。当然、夜会にも出席したことがない。


 だが子供の頃から教育はしていたので侯爵家の娘としての教養はあるし、頭もいい。

 家庭教師の名前を聞いてあまりにも厳しい人の名だったので驚いたほどだ。

 教えればきっと何でも出来るだろうと侯爵は言う。


 だが、育ってきた環境のせいで、人との付き合い、いや、貴族の付き合いはできないだろう。だが我慢を知っている。

 足りない代わりに優れたところも多いが、本妻には向かない娘だと。そんな風に説明された。


 家の中でエントロス侯爵がレガテリテに構うと、妻と子供達がレガテリテを虐めるので構えなかったのだと言っていた。

 幸せになって欲しいから学園を卒業と同時に家から出すのだと言っていた。


 嫁に出した姉達が出戻って帰ってきているからと。


 エントロス侯爵は私が愛人を本邸に入れていることは知っている。それでも構わない。周りがレガテリテに気づかれないように気をつければ、レガテリテは知らないまま、妻として幸せで居られるだろうと。


 本妻であるレガテリテを別邸に住まわせるので構わない。

 側に居るときだけで構わないので、愛してやってくれ。

 エントロス侯爵にも、レガテリテには欠けているものが多くあると認識している。だが、何が欠けていているのかは分からない。と言った。


「そんなレガテリテを妻として、大切な嫁としてくれるならば私が生きている限りはカリオスト家と君への援助は行おう」


 私はその援助を当てにしてレガテリテと婚約を決めた。

 結婚の日まで会わせられないと言われた時には驚いた。

 会えば余計な情報を学園で知ってしまう可能性があるので、レガテリテに結婚相手が誰かも伝えないと言われた。

 そうすれば何も知らないまま嫁げるだろうと。




 別邸にやって来たレガテリテは、年齢より幼く見え、とても頼りな気で、全身から不安を感じさせた。


 想像以上に物を知らない子で驚いたが、常識を知らないので、こういうものだと教えればそれを信じた。


 だが、せめて初夜くらいは教えていてほしかったと頭を抱えた。

 怯えていることが解るのに、私の望むことにはなんでも応えようとするのが、いじらしく、初夜ではちょっとタガが外れてしまったのは秘密だ。


 (つごうのいいおんな)として一から育てるのは楽しかった。

 我儘を言わず、じっと私の帰りを待っているのもいい。

 私の顔を見ると心から嬉しそうに笑うところもいい。


 家の中に居るだけなので、自分の置かれている状況すら理解していないことも、私にとって都合が良かった。



 エントロス家の希望で結婚式もなく、ウエディングドレスも着せなかったが、ウエディングドレスくらいは着せてやったら良かったかもしれない。そんなふうに考えるくらいには、レガテリテを気に入っていた。


 社交が出来て、今のままの性格なら本邸に置きたいと思うほどに。


 私はレガテリテを、一緒にいない時は粗雑に扱っていることになるのだろう。

 だが本人が粗雑に扱われていると思っていないのだから、文句を言わない、素晴らしい妻だった。


 別邸(つまのもと)に帰るとレガテリテがとびきりの笑顔で迎えに出てくれる。

「おかえりなさいませ。旦那様」

「ただいま。何か変わったことはあったかい?」

「特に何もありません」

「そうか」

 背が低いこともあって、つい、頭を撫でてしまう。

 それを嬉しそうに受け入れる。


 レガテリテは私の嫌がることはしないように気をつけているのか、私の機嫌の良し悪しを汲み取るのが上手い。

 今日はティラベルのことがあって気が立っていた。

 それに気がついたのか、立ち位置がいつもより遠い。


 執事が私の背後に立ち、苦言を言う。

「奥様、旦那様には本当のことをちゃんとお伝えして下さい。旦那様、変わったことはありました。奥様の体調が優れません」


「大丈夫なのかい?」

「なんともありません」

 嘘をついているようには見えない。

「辛い時はちゃんと休むんだよ」

「はい。ありがとうございます」


「それと、奥様は内向きのお仕事が得意なようで、今はこの屋敷の全てを取り仕切っておられます」

「そうなのかい?」

「はい。奥様はとても優秀なお方だと思います」


 褒められたことが嬉しいのか、頬と耳を赤くして照れている。

「そうか。助かるよ」

 頭に手をやり、撫でるようにして、頬に手をやる。少し熱っぽい気がする。


「本当ですか?サルバシア様のお役に立っていますか?」

「ああ。屋敷のことを見てもらえるだけで、大分楽になるよ。ありがとう」


 頬に触れるとやはり少し熱い。

「熱が出ていないか?」

 額に手をやるとかなり熱い。

 ベッドで寝かすようメイドに言い、医者を呼ぶように言った。



「疲れからくる風邪だと思います。これから熱が上がるかもしれませんね」

 煎じ薬を渡され、医者は帰っていった。


 医者の言った通り、レガテリテの熱はどんどん上がり、息をするのも苦しそうにハァハアと荒い息を吐いている。


 側に付いていようと私は思った。

「サルバシア様にうつしてしまいます。私が治るまではこちらに来ないでください」

 息を切らしながらそう言って、メイドに頼んで私を部屋から追いやった。


 なんとなく本邸に帰る気になれなくて、別邸で過ごす。 

 仕事のために昼間は本邸に帰るが、夜は別邸で過ごした。

 会えないのに別邸にいる意味はない。

 そう思ったが夜はレガテリテのために別邸に居た。

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