15 客人のように
「先程の話は本当でしょうか?」
東屋を出た後、私は前方を歩く騎士のアーサーに尋ねた。
「先程の話とは?」
「はい、王妃様の話です。陛下が色々なメイドに手を出しているという……」
そこまで話したとき、アーサーがピタリと足を止めた。
「どうかしましたか?」
「姫……」
ゆっくりこちらを振り向くアーサー。その表情は険しい。
「もう少し、ご自分の立場を考えて口は慎まれたほうが良いでしょう。滅多なことは口にしないようにして下さい。いつ、何処で陛下の耳に今の言葉が入るかもしれないのですよ。そうなればいくら姫とはいえ……」
……ひょっとしてこれは忠告なのだろうか?
「分かりました。申し訳ありません」
「……なら、結構です」
アーサーは再び前を向くと歩き出した。もう余計なことは口にしないでおこう。それよりも今は今後の計画をたてなければ。
城に潜入することは出来た。もし、『モリス』国で私が国王を殺害したと言う噂がこの国にまで流れていたら私の立場がますます不利になる可能性だってある。
ここは早急に行動し……ここから逃げなければ。
私は両手をグッと握りしめた――
「とりあえず、本日からはこちらのお部屋をお使い下さい」
案内されたのは白い扉の部屋だった。
アーサーが扉を開けると、広々とした部屋が目の前に広がる。豪華なベッドにソファセット。クローゼットにドレッサー……
人質となった私には似つかわしくない部屋だった。てっきり屋根裏部屋のような部屋をあてがわれるとばかり思っていただけに驚いた。
「あの、本当にこの部屋を使わせて頂けるのですか?」
「ええ。そうです。……もしや、ご不満ですか? もっと良い部屋をご希望ですか?」
首をかしげるアーサー。
「いいえ。とんでもありません。人質である私にこのような立派な部屋を使わせて頂けるなんて、驚いたのです」
「そうですか。なら不満は無いということですね」
そのとき――
「お話中、失礼いたします」
背後から女性の声が聞こえて振り向いた。するとワゴンを押したメイド服の女性が立っている。
「本日からミレーユ姫のお世話係になるアンヌと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
え? この上に……私に専属メイドまで?
「専属メイドも来たようなので、私はこれで失礼します」
「ありがとうございました」
アーサーの言葉にお礼を述べると、彼は一瞬私を見て……足早に去っていった。
「ミレーユ姫。まずは湯浴みの準備をさせて下さい」
二人だけになると、すぐにアンヌが話しかけてきた。湯浴み……確かに今の私は野営の旅でここまで来たので汚れている。
「はい、ありがとうございます」
礼を述べるとアンヌは部屋の中に入ってきた。
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久しぶりに誰かの手を借りて湯あみを終え、バスローブを羽織って部屋に戻った。
すると、部屋の中にもう一人別のメイドが立っていた。
「初めまして、ミレーユ姫。お着換えの手伝いに参りました。どうぞこちらのドレスにお着換えをお願い致します」
メイドは手にしていたドレスを広げた。そのドレスは胸元の空いたカシュクールドレスだった。
「……これを着ろというのですか?」
肌の露出が多いドレスに思わず眉をしかめる。
「はい、ドレスのサイズが分かりかねましたので、こちらをご用意させて頂きました」
「分かりました……ではそちらを着ることにします」
私はため息をつきながら返事をした。
そして、このドレスの意味を後程知ることになる――




