10 国境
護衛騎士たちの言う通り、馬車の旅は三日続いた。その間、決して宿屋に泊まることはなく、野宿の旅となったのだった。
これは恐らく大公の嫌がらせだったのかもしれない。
そしてジェイクが追いかけてくることもなく……ついに三日目、私を乗せた馬車は『タリス』国の国境へ到着した――
山林を抜けた先に、木製の巨大な柵が見えた。
「あれは……」
馬車の窓から外の景色を眺め、呟いたときにひとりの護衛騎士が教えてくれた。
「あれが『タリス』国の国境です。我々はあの場所で貴女を引き渡します」
「……分かりました」
ついに国境に到着したのだ。私は羽織っていたマントのフードを被り直すと、緊張する面持ちでその時を待った。
やがて、馬車の外から声が聞こえてきた。
「その馬車、止まれ! この先は『タリス』国の国境だ! 許可の無い者は通すわけにはいかない!」
「我々は『ランカスター公国』の者だ。この国と戦争下にある『モリス』国の王女を連れてきた。王女は自分が人質になり、戦争が終わることを望んでおられる」
「何だと? そのような戯言が我らに通じると思うか?」
「嘘だと思うなら、王女を連れて行くがよい。国王ならば、きっと王女の顔を知っているはずだ」
すると、突然窓から1人の騎士が馬車の中を覗き込んできた。
「女、フードを外してみろ」
言われた私は頷くと、黙ってフードを外した。
「……」
しかし騎士は怪訝そうな顔で私を見ると首を捻った。
「やはり分からん……お前、本当に王女なのか?」
「はい、そうです。『モリス』国のミレーユです。大抵の人なら、この名前を言えば分かると思いますけど」
ミレーユは戦場で炎の魔法を使って戦ってきた姫。この名前を言えば、恐らく知らない者はいないだろう。
すると……
「な、何!? あの『戦場の魔女』と呼ばれるミレーユ姫か!?」
私の名前を聞いた騎士が目を見張る。
戦場の魔女? まさかミレーユがそんな呼び名をつけられていたとは知らなかった。
「それにしても本物のミレーユ姫なのか?」
「私を国王の前に連れて行っていただければ、恐らく分かるのではないでしょうか?」
騎士の言葉身に、はったりを言うことにした。どんなことをしてでも私は城に連れて行ってもらわなければならないのだから。
「まぁいい、それでは馬車から降りるがいい」
騎士が馬車の扉を開けたので私は無言で降りたった。すると、ここまで私を連れてきた護衛騎士の一人が口を開いた。
「我々の任務はこの王女を『タリス』国に引き渡す事だ。役目は終わったので、これで帰らせて頂く」
それだけ告げると、騎士達は馬を翻して走り去ってしまった。
「え!? おい! 待て!」
『タリス』国の騎士達は、あまりにも突然の出来事に驚いて声を掛けるも時すでに遅かった――




