7 交渉
白い大扉の前には大柄の騎士が立っており、ジェイクの姿を見ると挨拶してきた。
「ジェイク様、お帰りなさいませ」
「ああ。父はいるのだろう?」
「はい、中でジェイク様をお待ちです。どうぞお入り下さい」
騎士は扉の前から移動し……私をチラリと見た。
「……ところで、こちらの男装のご令嬢はどなたですか?」
「俺の婚約者である『モリス』国のミレーユ姫だ」
「なんと! 姫でしたか? それは少しも気づきませんでした」
大げさな素振りで騎士が驚く。
「そうだ。扉を開けてくれ」
「かしこまりました」
騎士は頷くと、扉に向かって声を掛けた。
「ジェイク様が戻られました」
『入れ』
その言葉に騎士は扉を大きく開いた。
「行こう、ミレーユ」
「はい」
ジェイクに促され、私達は執務室へ入ると広々とした部屋に置かれた書斎机の前にひとりの男性が座っていた。
「只今戻りました、父上」
ジェイクが恭しく挨拶をしたので、私もとっさに頭を下げた。
「ようやく戻ったのだな? ジェイク……私の言うことも聞かず、勝手に城を出た挙げ句に何ヶ月も戻らずに」
その声には明らかに苛立ちが混じっている。
「申し訳ございません。ですがなんとしてもミレーユを助け出さなければならなかったからです」
頭を下げたままジェイクは答える。
「ジェイク! 私は『モリス』王国の第三王女とは婚約解消しろと何度も言っていただろう? それを何だ! 言うことも聞かずに挙げ句に勝手に連れ帰ってくるとは! ふたりの婚姻は絶対に認めない。お前は我が国まで戦争に巻き込むつもりか!」
大公は明らかに憎悪の目で私を睨みつけてきた。
「父上! しかし、それではミレーユを見殺しにしろというのですか!?」
「見殺し? その者は炎の魔法の使い手だろう? 魔法を使える者は兵士は兵士百人分に値する力を有すると言われているではないか? とにかく、第三王女との婚約は解消だ!」
確かに、魔法は強力だ。敵に近づかなくとも遠距離から攻撃できる。私はミレーユの力がどれほど凄いか、もう十分に理解していた。
「はい、分かりました。婚約解消の件、謹んでお受けいたします」
私は初めて口を開いた。
「ミレーユ!? 何を言うんだ!?」
ジェイクが驚きの目で私を見る。けれど、私は彼を見もせずに、大公に話しを持ちかけることにした。
「大公様のお望み通り、私とジェイクの婚約はなかったことに致します。その代わり、お願いがあります。現在モリス国と戦争をしている『タリス』国に私を引き渡す交渉をしていただけませんか? 私が人質になれば『モリス』国は白旗を上げ、戦争を集結させることができるはずです」
そう、『タリス』国に潜入し……我が一族を滅ぼした憎むべき王族に報復するのだから――




