2 門番
「あれが城だ。多分、俺がユリアナと戻ってきたら驚くだろうな」
近づいてくる城を見つめるジェイクの横顔は何処か嬉しそうだった。
「……そうですね。きっと驚きますよ」
私は複雑な気持で返事をする。何しろ、私は本物のミレーユでは無いのだから。
しかも、十年前に死んでしまったユリアナ……実際の年齢だってジェイクよりも十歳年上なのだ。
「ユリアナ、城に戻ってからは……すまないが、ミレーユと呼ばせてくれないか? 別人の名前で呼べば……皆が混乱すると思うので」
「ええ、勿論ですよ」
そう。本来であればミレーユと呼ばれるのが筋なのだ。けれど、ジェイクは私のことを信じて、ユリアナと呼んでくれている。むしろそのほうが奇跡に近い。
「……ありがとう、なら城の門をくぐり抜けるぞ」
「はい」
荷馬車の上から、私は複雑な気持ちで返事をした。
「何だ!? 随分貧しい荷馬車だな。ここは『ランカスター公爵家』の城、お前のような卑しい身分の者が入ってきて良い場所では無い!」
城門を守る若い兵士が大きな槍を構えて私達の行く手を阻んだ。すると、ジェイクが言葉を発した。
「……随分立派な口を叩けるようになったな。初めの頃はオドオドした態度しか取れなかったのになぁ、ガイ?」
「な、何! 何故俺の名を……! 貴様、一体何者だ!」
ガイと呼ばれた兵士は驚愕の表情を浮かべ、構えていた槍の切っ先をジェイクの方に向けた。
「何だ……? お前、本当に俺のことが分からないのか? 困ったやつだ」
ため息を尽きながら、ジェイクはマントのフードを外した。
「あ……! こ、これはジェイク様ではありませんか!!」
「ああ、そうだ。戻ってきた、ここに戻るのは……何ヶ月ぶりだろうな。そんなに俺は変わったか?」
「ど、どうか勘弁して下さい……」
平謝りする兵士を見て、ジェイクが笑った。
「アハハハ……冗談だ、気にするな。まぁ、確かにこんな身なりでは俺だと分からないかもな。それに今はこんな時勢だし」
「は、はい……そうですね」
「それでは、中に入らせてもらうぞ」
「はい! どうぞお通り下さい!」
兵士はジェイクの言葉に敬礼した――
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「ジェイクさん、もしかするとあの兵士の人とは親しいのですか?」
「え? 親しいだって?」
手綱を握りしめていたジェイクが私を振り返る。
「え、ええ……」
もしかして、変な聞き方をしてしまっただろうか? 一介の兵士と、いずれはこの公国の王になるべきジェイクが親しいなどと……
「いや、親しいと言うよりは……友人かな? 少なくとも俺はそう思っている。尤もガイの方はどう思っているか知らないけどな」
笑いながら答えるジェイク。
「そうですか……」
返事をしながら思った。
ジェイクは……やはり、人間的にみても素晴らしい人だ。
かつて自分の婚約者だったクラウスとは比較にならないくらいに――




