第4章 1 『ランカスター』公国
『ランカスター公国』は小国ではあったが、裕福な国だと言われていた。
国全体が森と豊富な水路で囲まれ、戦争が起こっても国全体がその独特な地形のお陰で防御壁のように覆われている。
その為、過去の歴史においても一度も戦火に見舞われたことが無い国として有名だった。
「今回の戦争でも、やはりこの国は巻き込まれずに済んでいるのですね」
町中を走る荷馬車の上から私は周囲を見渡しながらジェイクに尋ねた。
「そうだな。確かに国内は一見平和に見えるが……それでも他国からの侵略に常に備えてはいる状況だ。何しろ、今隣国では三つの国が戦っているからな。この国が巻き込まれないでいるのはどの国ともまだ同盟を結んでいないからだ。もっとも……俺がミレーユと婚姻してしまえば、そうも言っていられないだろうけど」
チラリとジェイクは私を見た。
「……そうですね」
ミレーユの身体に乗り移ってしまった私は複雑な気持ちで返事をする。
「これから城に向かうことになるが……ユリアナ。君は記憶喪失と言うことにしておくよ。逃げる途中、川に落ちたショックで記憶が無くなってしまった。いいか?」
「はい、分かりました」
実際、私がこの身体に何らかの形で憑依してしまったのは川に落ちたことが原因のはず。間違えたことは言っていない。
「城に公国の王である父、母。それに弟がいる。戦争が始まってからはミレーユとの結婚を取りやめにするべきだと家族だけではなく、家臣からも言われてきた。……だからユリアナを連れてくれば、いい目で見られないだろう。色々言われてしまうかもしれないが……」
「それなら大丈夫です。人々の批判にさらされるのは慣れていますから」
「え……?」
ジェイクが私を見る。
「元々、私は公爵令嬢でありながら騎士として戦場で戦ってきました。その為、敵からも味方からも……良い目では見られてこなかったのです。女のくせに剣など振るって生意気だと。勿論、私を裏切ったクラウス王子も同様です」
「ユリアナ……」
彼の目に同情が宿る。
「だから、どうか気にしないで下さい。この国に来たのは、自分の目的を達成することでなのですから。ベルンハルト家を陥れ……私たちを滅ぼした者達に報復する為なら何を言われても構いません。それに戦争を終わらせることも出来るかもしれないのなら尚更です」
「そうか? 君は強い人だな。俺もユリアナに出来るだけ協力するよ。一刻も早く戦争を終わらせて、また平和な世の中にしなければならないからな」
ジェイクは笑みを浮かべて私を見た。
「ええ、そうですね」
そんな彼に私は返事をする。
そう、ジェイクの為にも私は一刻も早く自分の目的を達成させなければ。
多分、私の目的が達成されれば……私の魂は天に召され、この身体をミレーユに返すことが出来る……
そんな気がしてならないからだ――




