表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
77/126

第77話 雪原のサムライ

「ご領主! 襲撃イベントっす!」


 バタンと勢い良く開く応接室の扉。中に飛び込んできた糸目エルフのプレイヤーは、大きな声でそう叫んだ。


「ハーメルン君、本当か!?」

「はい! 正門側からスノーゴブリンの群れがもうすぐそこまで迫ってます!」


 目を見開き、焦りを含んだ口振りでそうハーメルンと呼んだエルフに駆け寄るフォックストロットに、彼は大きく頷いた。

 『襲撃』とは、プレイヤー領地に定期的に発生するゲリライベントの一種にあたる。領地の外からモンスターが襲撃をかけてくる、少なくとも今の状況でもっとも起こって欲しくないイベントだ。


「町には非戦闘プレイヤーも大勢居ます。早く何とかしなければ」


 ライトがそう言って立ち上がったときには、茶々丸は既に出入り口に立つハーメルンを押し退けて、領主館を飛び出していた。



 *



 大通り沿いに一路ひた走った茶々丸が正門付近に到着した頃には、既に辺りは騒然とした空気に包まれていた。

 町の中心へ中心へと避難する商人や採掘プレイヤー達と、彼らを背に武装を整える三名程度の戦闘プレイヤー。

 対する白いモンスターの毛皮などに身を包んだスノーゴブリン達の数は、三十を優に超えている。数の上での劣勢は明らかだ。


「助太刀しに来ました!」


 丸い盾や鉄の剣で武装するプレイヤー達に、茶々丸は後ろからそう声をかけて近づいた。門を挟んでゴブリン達と相対する彼らも、彼女の姿に気づいたらしい。


「おお、そいつは助かる!」

「近接特化か、いないよりはありがたい。頼むぞ」

「正直今はエルフの手も借りたいぐらいだ、頼りにしてるぜ!」


 剣盾持ちに弓使い、そして大斧使いの丸坊主の三人は、突如現れた彼女をそう笑って輪に入れる。ジョークを飛ばせる辺り、案外余裕があるらしい。


「とは言え奴ら、一丁前に隊列なんて組んでやがる。後ろに控えてる弓兵が準備できる前に何とかしないとな……」


 丸坊主がそう苦々しげに向き直った方に目をやると、先程まで進軍してきていたゴブリン達は動きを止め、最前列が丁度胴辺りだけを守れる程度の粗末な盾を横一列になって構えている。

 盾の下からスネが露出しているとはいえ、確かにこれでは攻撃するには少し苦しそうだ。


「つまり、あの盾を崩せば良いんですね?」

「ん? おぉ、そりゃそうだな。そうすりゃ近接でも細切れに出来るし、この弓使いはここから狙い撃ち出来る」

「なら、私に任せて下さい」


 彼女の質問に頷く丸坊主達に、茶々丸は自信ありげにサムズアップして見せた。


「任せるったって、どうすんだ?」

「取り敢えず見ていて下さい。私が戦列を崩しますから、お三方はその後に続いて下さい」


 そう言うや否や茶々丸は太刀を引き抜いて、低い姿勢で(はす)に構えた。ミツルの前では見せたことの無い新技のお披露目だ。


 ――神薙流・昇龍(のぼりりゅう)


 稲妻と共に、彼女の刀身や体に帯のような雷雲が纏う。

 瞬間、一息に距離を詰めた茶々丸は、勢いそのままに大きく逆袈裟を掛けて駆け抜けた。

 盾と共に両断される前衛のゴブリン達。戦列が一気に乱れて崩れる。

 あわてふためく弓兵ゴブリン。振り返り様に彼女は眼前の一体を横一文字に切り払う。視界の端で消滅していくそれに目を留めること無く更に背を向けるゴブリンを肩から斜めに薙ぐと、茶々丸は大きな声で一行に叫んだ。


「皆さん、今です!!」


 呆気に取られていた三人が、その声にハッと気付いたように喚声を挙げて攻撃に移る。

 降り注ぐ矢と、男達の迫り来る足音を聞きながら、茶々丸は真横で剣を振りかぶるゴブリンの喉笛を突き貫くと、そのまま身を翻して背後の一体を袈裟斬りにした。

 自然と口角が上がっているのに、彼女は果たして気付いているのだろうか。


 襲撃は、領主館のメンバーが到着する前に終わりを迎える。一旦落ち着きを見せていた空から、大きな牡丹(ぼたん)雪が降り始めた。



 *



「犠牲者はゼロ。ゴブリン側は全滅。流石、レイドボスをステゴロで沈めた伝説のジュードーマン(ミツル)の相方は違うな」


 フォックストロット達と共に現場に急行した九龍は、辺りに転がったドロップ品を呆然と眺めながらそう呟いた。


「いえいえ、小規模な襲撃で助かりました。これが何フェーズもあるようなのだと分からなかったですよ」

「それでもたった四人で片付けたってのは充分無茶苦茶だぞ?」


 背後では戦闘に参加したメンバー達がせっせとドロップ品の回収をしている。そんな中、謙遜して耳の後ろをかく茶々丸に、九龍はやれやれとため息をついた。


「皆を守るためとはいえ、あんまり無茶は止めてくれ。君の代わりは居ないんだからな」


 そうふとこぼした九龍の横顔はどこか寂しげで、悲しげなものに茶々丸の目には映った。


「九龍さん……やっぱりツンデレですよね?」

「君今日から出禁ね」

「えぇー」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ