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第73話 七年ぶりの再締結

「――以上をもって、私からの各方面への指示とします。役員、幹部の皆様方、どうぞ抜かり無く」


 本人からしても少し芝居の掛かりすぎたセリフを最後に、この日のユメミライの会議は終了する。

 役員や幹部達は各々割り振られた仕事のために一斉に会議室を退去する。中には出口を潜る直前に苦々しそうに充を睨む者も居たが。


「あっ、ナギとしんちゃん。ちょっとちょっと」

「なんだ?」

「どしたの?」


 次の場所へ向かう準備をしていた充は、ふと思い出したように部屋を後にしようとする二人を呼び止める。

 車イスの上の信也も、それを押す渚沙もきょとんとした顔で戻ってきた。


「二人とも、実は折り入って頼みがあるんだが」

「えぇ、ナンコー君この期に及んでまだ私達に何か頼むつもり? 教授抜きの緊急会議の召集も、君の席用意するのも大変だったんだよ?」

「大臣お抱えの秘蔵っ子公務員サマは、何かと注文が多いですなぁ。で、なんだね?」


 申し訳なさそうに縮こまりながら顔色を上目遣いで窺う彼に、結局二人は呆れながらも取り敢えず聞いてやるとのスタンスをとる。全くもって、有りがたいことこの上ない。

 充はパッと顔を上げると、「ありがとう!」の感謝の言葉もそこそこに、早速用件について二人に話した。


「大江大臣、事案解決の責任者を俺にって言ってたろ?」

「言ってたね」

「言ってたな」

「その事案解決の任務、チームとして一緒にやってくれないかと思って……どうよ?」



 話は遡ること充の途中退席した時。静との話の中で充は事件解決の陣頭指揮を任されることになった。

 閣議はまだ執り行われていないので非公式なものではあるのだが、そこは彼女が上手い具合にとりなしてくれるそう。

 大方古巣(フルダイブ技術監督課)に犯罪捜査の権限が与えられているからとか、既成事実があるとかごねまくるのだろうことは予想できる。知性とコネと家柄を用いたパワープレイで意見を通すのは、彼女の得意技だ。その上、


「大丈夫。名目上最高責任者は私だから、どっちかに何かあったときは道連れになるから」


 と言う何が大丈夫かわからないエールまでついてきたのだが、流石に陣頭指揮やら事態解決を一人でこなせる訳はない。

 静もその点は重々承知の上で、充の古巣の部下や警察、自衛隊、文科省、厚労省をはじめとした政府機関を中心に対策チームを組織してくれるそうだ。


「流石は女王サマ。至れり尽くせりですね」

「こんなところでケチっちゃ元も子もないからね。私だって随分投資したんだから、元取るまで何としても維持し続けてやるわよ。貴方にも、馬車馬のごとく働いて貰うからね?」


 かくして充は、静お抱えの解決チームのリーダーにも同時に任命されることになった。



「いやぁ、悪いけど俺はパスさせて貰うわ」


 充の申し出に、先陣切ってそう答えたのは信也だった。その顔には苦笑が浮かんでいる。


「研究施設の開放に患者の管理やら何やらと仕事が山のように積まれてんだ。すまんね」


 信也は医療部門のトップだ。今回の件でも、昏倒したプレイヤー達への対応に奔走しなければならないのは確定している。その上、研究施設開放の業務も請け負っているのだ。

 到底、これ以上仕事を増やすことは出来ないだろう。


「いや、それお願いしたのはこっちだ。謝んないでくれ」


 充の方も半ば予想通りとでも言うようにそう言って信也に返す。そして、二人揃って渚沙の方へ視線を送った。


「……もぉ、三浦君がさっさと断っちゃうから、逆に私断れなくなっちゃったじゃない」


 三人の視線が交錯する一瞬の沈黙の後、根切れしたようにため息をついて渚沙は呆れたようにそう言って二人を交互に睨み付けた。


「しゃーない。ナンコー君、協力するよ」

「本当か!」

「たーだーしー!」


 渚沙は充に釘を刺すように人差し指を彼の鼻先に突き付け、強い語気でこう言った。


「この件が終わったら、私のお願いも聞いて貰うから。良い?」

「お、おう」

「よし! それじゃこれで、共犯者の契約再締結だね」

「あぁ、七年ぶりのな」


 二人は固い握手をし、互いにそう頷き合った。


 事件開始から、既に二時間が経過しようとしている。

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