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第56話 チーター狩りの報酬は

 ――ホワイトステート、領主館前


 フォックストロットとライト、そして連行されたルドルフと何故か連れていかれた九龍が落とし所を決める会議を館で行う中、ミツルと茶々丸はその外で()()の方を行っていた。


「しんちゃん、今送信した画像見てくれた?」

「見た見た、やっばいねこれ。俺が今まで見た中でもかなり悪質で大規模だ」


 ヴァイスブルグ率いる、E・F・Oからの不正なアイテム輸入チート集団の証拠となる画像を目にした信也はそう思わず絶句する。


「精々今までは個人とか少数での使用とか、誰かに高値で売り付けて、ってのが普通だったんだけど、こう言う組織ぐるみでのはかなり珍しいね。これ、緊急会議モノだなぁ」

「専門外のことなのに、仕事増やしちまったみたいで悪いな。大丈夫か?」

「全然大丈夫。ありがとうね」


 少し前の渚沙の件もあってか、少し疲れているらしい。信也の深いため息を気遣うミツルに、彼はそう笑って返す。


「取り敢えず後の対応はこっちで任せといて。向こうの会社にも話つけとく」

「おう、よろしく頼んだ。それじゃまた飲み会で」

「うん、またね~」


 そう言ってミツルはボイスチャットを切り上げた。心配ではあるが、今は信也に託す他無い。


「茶々、終わったぞ」

「早かったですね。どうでした?」

「しんちゃんが全部ひっくるめて始末してくれるらしい。緊急会議開くかもってさ」


 少し離れたところで待機していた茶々丸と合流したミツルは、そう簡単な報告を済ませてやれやれと安堵のため息を漏らす。今日もまた、長い一日だった。


「ともかくこれで一件落着ですね、課長」


 朗らかにそう笑う茶々丸に、ミツルも大きく頷いて答える。


「おう! あとは報酬もらって終了だ。ミニゲーム、負けた方が奢りでどうよ?」

「お、私絶対負けませんからね? 焼き肉、奢ってもらいます」


 二人は悪い笑みを浮かべて火花を散らす。この二人、もう次のことで頭が一杯なようだ。ミニゲームの魔力恐るべしだ。


「茶々丸さーん、ミツルさーん!」

「やっと抜けられたぁ」


 そんな二人の静かな開戦のことなど露知らず、館から飛び出してきたライトがそう手を振りながら、肩に九龍を乗せて駆けてくる。その表情を見るに会議の方は、かなり順調に進んでいるらしい。


「ライトさん、九龍さん、どうしました?」

「会議がある程度纏まりましたので、彼の方からお二人にお礼の品を渡して欲しいと言われまして」

「それで一足先に私達だけ抜けてきたんだ。ちなみに私はもう貰ってるからご心配なく」


 彼、と言うのはフォックストロットのことだろう。茶々丸の問いに、ライトとミツルに乗り移り中の九龍が明るい顔でそう答える。


「そういや九龍も活躍したもんな」

「そうとも! 私の活躍無くしてあの坑道は攻略出来なかったからな。もっと褒めろ」


 自慢げに胸を張りながら九龍は頷く。少々癪に触るが事実なのでなんとも言えないことに歯痒さを覚えながら、ミツルは渋々「はいはいすごいすごい」と(無感情で)褒め称える。


「さて、それではホワイトステートを救って下さった報酬をお渡しします。どうぞ、お受け取り下さい!」


 メニュー画面のフレンド欄を開いたライトは、そう言って人差し指を走らせる。瞬間、無数のアイテムが二人に送信された。

 そこには約束のレアアイテム『ハードオリハルコン』やその採掘権の証明書の他に、「彼からの、ほんのお気持ち程度ですが」と様々な用途で使える鉱石系アイテムなどが、大量に含まれていた。


「それと現金報酬の方も発生していますので、後程ご確認ください」

「おお! ホントだ!!」

「ライトさん、ありがとうございます!!」


 どんなレアアイテムよりも、現金の方が嬉しい二人。俗物感満載のキラキラ輝いた瞳でライトの手を取り、食い気味で礼を言う。金の亡者、と言うよりもギャンブル中毒の方が正しそうだ。


「アハハ……あぁそれと、ワタクシの方からのお礼のアルバムですが、こちらは後日九龍さんのお店に三冊分お贈りしておきますね。――改めて、本日はどうもありがとうございました。広場の方でタクシーを待たせてありますので、それに乗ってお帰り下さい」

「げっ、またあれに乗るのか」


 ライトの言葉に一気に顔を青くする九龍。そんな彼(彼女?)をなだめながら、一行はドラゴンタクシーの待つ広場へと歩いていった。



 *



「あれ、メッセージだ」


 ドラゴンタクシーで帰路に向かう途中、ミツルは上空でメッセージが送られてきていることに気がついた。


「ライトさんからですか?」

「いや、フレンドコード未登録のアカウントだ」


 ガクガク震えながらミツルの背中にしがみついている九龍を挟み、そう覗き込む茶々丸にミツルは首を横に振る。

 ミツルは不思議に思いながらその差出人と内容を確認し、そして思わず目を疑った。背中に冷たいものが走り、悪寒に体が包まれる。これが現実世界なら、冷や汗が全身からにじんでいることだろう。何故ならその中身には、


「HANA……だと?」


 差出人:HANA

 内容:ミックン。アノ人ヲ止トメテ



 花。彼の幼馴染みであり、大誠の婚約者であり、そしてこの世に居ないはずの人物。ミツルのことを親族以外で唯一「みっくん」と呼ぶ人だ。


 ミツルは咄嗟に、メッセージを閉じる。

 一体何がどうなっているのか、もはや理解が出来なかった。

 タクシーは、着陸態勢に入ろうとしていた。

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