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第53話 爆煙は反撃の狼煙

「うっ!」

「またですか!」


 茶々丸達は再び体を小さくして爆煙をやり過ごす。ごうごうと響く洞窟。目をつぶり、顔を腕で覆った茶々丸の耳に、何か別の音が入ってきた。


「……っぶね!! 普通に死んだかと思った」

「先輩!?」


 もくもくと広がる爆煙を切り裂き、中からスナイパーライフルを大切そうに抱えたミツルが飛び出してきた。その左手に、暗視ゴーグルとレーザーサイトまで引っ提げて。


「先輩、どうしてそれを?」

「話は後! 必勝の策を思い付いた。皆も協力して欲しい」


 茶々丸の追求を手で制し、ミツルは三人の顔をそれぞれ見わたす。純粋で、真っ直ぐな瞳だ。

 勝利に何処までも貪欲なその姿勢は、柔道に、フルダイブに向き合い続けてきたミツルのこれまでを示しているようにも思える。

 その割には、今抱えている品は褒められたものではないが。


「必勝の策、ですか?」

「そう。これなら多分、この砲撃もどうにか出来る」


 伏せていた体を起こし、首をかしげたライトにミツルはこくりとそう頷いて、左手のゴーグルを頭につけ、サイトをライフルに装着した。

 まさかこんなものが転がってるとは、流石にミツルは思わなかった。だが、今日はずいぶん運が良い。


「このライフルで、砲手の頭をぶち抜く。そんでその後、茶々丸が狭い山道で奴らを一気に片付ける。九龍とお二人には、その支援をして欲しい。どうだろう?」


 自信満々と言った様子で、ミツルは三人に説明する。薄まり始めた煙の向こうから、「原案は私だ!!」との声が響いた。まるで自分が一から考えたような言い振りだが、そうでもないらしい。


「ここから大砲までの距離は? そのライフルで届きますか?」

「発射音と着弾までの時差で大体は見当がついてる。八百も離れてないはずだ。このライフルはドラグノフ狙撃銃(SVD)。有効射程圏内だ」


 茶々丸の質問に、ミツルは真面目な顔でそう答える。

 ドラグノフ狙撃銃。世界最初の本格的な狙撃銃とされる、ロシア(ソ連)製のライフルだ。有効射程は八百メートル。銃なんてミツルはここ最近ほとんど触っては居ないが、昔取った杵柄とレーザーサイト、そして自慢の集中力に全てを託す他はない。


「この先はつづら折りの道で下まで道が繋がっている切り立った崖です。相手の砲撃地点は恐らく下。狙撃するときはどうしても、その体を相手に晒すことになります」

「相手の砲撃で発生する爆煙に身を隠して、暗視ゴーグルとスコープで仕留めます」

「しかしそれだと砲撃のダメージが……まさかミツルさん、あなた!」


 次に質問したフォックストロットが、驚いたような声を上げて目を見開く。


「だから、皆の助けがいるんです。何卒、ご協力を」


 ミツルはそう言って頭を下げた。作戦の真意に気付いた茶々丸とフォックストロットは目を見合わせ、未だなんのことやらと理解の及ばぬライトは相変わらず首をかしげている。

 その状態で、最初に口を開いたのはフォックストロットだった。


「……もとはと言えばこの戦いに皆さんを巻き込んだのは僕です。だから、僕はここまで付き合って下さった皆さんを尊重したい。ライト殿、茶々丸さん、どうでしょう?」


 フォックストロットは凛とした表情で二人を見つめる。茶々丸は、諦めたような、呆れたような顔をしてため息をひとつついて項垂れると、やれやれと言った笑みを浮かべて小さく頷く。


「総大将と先輩がそうおっしゃるなら、私はそれに従います。もうひと暴れ、したかったですしね」

「み、皆さんがそれで良いならワタクシも。ところでミツルさん、何をするつもりなんですか?」


 キョトンとした顔でそう聞くライトに思わず吹き出したミツルは、「ありがとうございます」ともう一度頭を下げて、詳細を手短に説明した。



 *



「よし、俺は準備オーケーだ」


 銃を構え、ゴーグルをセットし、万全の状態でミツルは洞窟の中心に立つ。砲撃が当たれば、もれなく木っ端微塵になる地点だ。


「バフは盛りに持った。私が出来るのはこれで全部だ。……お前なら言わんでも良いと思うが、砲撃の中心を見ると目が焼けるからな」


 退避する気満々で、九龍はそう親指を立てる。


「継続回復魔法の時間は三分。気を付けて下さいね!」

「防壁も一番良いのを張りました。それにしてもミツルさん、中々に無茶なことをやりますね」


 真面目な顔でそう叫ぶフォックストロットの横で、ライトがそう呆れたような顔をする。なぁに、無茶はいつものことですから。と言った軽口は、今はやめておこうと飲み込んだ。


「……下からの足音はまだありません。お相手、まだ突入してくるつもりは無いようです」


 太刀を引き抜き、目蓋を静かに持ち上げ茶々丸が言う。

 唯一の懸念点が、解決した。これで心置きなく、戦える。


「さぁこい、チート野郎ども。俺達が相手じゃぁぁぁぁ!!!!」


 ミツルは眼前の銀世界に向かってそう吼える。

 魂の叫びがこだまする。


 刹那、低い轟音が辺りの空気を震わせた。

 空気が切れる。

 鈍い音が、まばゆい閃光と爆煙と共に広がった。

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