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第52話 目には目を、鉛玉には……?

「くそっ、二回目は無理か」


 ミツルは地面に倒れ伏したまま、壁際に転がり込む。重厚そうな扉は爆風で大きく開き、一面の銀世界が見えていた。


「課ちょ――先輩、九龍さん、無事ですか!」


 向かいの壁際から声が響く。茶々丸だ。良く目を凝らすと右腕にフォックストロットを抱え、左手ではライトの首根っこをつかんでいる。

 流石は最前線で活躍してきた警察官。とっさの判断力はピカ一だ。


「俺は無事だ」


 半分以下まで削れた自分のライフバーに眉をしかめながら、ミツルは右手をヒラヒラさせてそう言った。

 と、そう言えば九龍は何処に行った?


「茶々、九龍そっちにいないのか?」

「ええ。こっちには」


 『昏倒』のアイコンが出て沈黙する二人を抱えて、茶々丸は不思議そうに首を横に振る。

 上体を起こしたミツルも左右に目をやるが、それらしい姿は見えない。精々ここから見えるものと言えば、爆発に巻き込まれてゲームオーバーしたらしい捕虜プレイヤー達の落とし物。

 まさか九龍もやられたか? そんな疑念も頭によぎる。どう考えても戦闘特化のステータスではない奴のことだ、往々にしてあり得る。

 そう思った矢先に、


「ここだよミツル。茶々丸君、私も無事だ」


 彼の耳元から声がした。「わっ」と声をあげ、思わず飛び退いたミツルはそのまま体を捻って振り返る。

 岩の上にちょこんと腰を下ろした九龍は、ドッキリ大成功と言わんばかりにピースサインをして見せた。


「お前、生きてたのか」

「立派な()が守ってくれたからな。それでも、被害甚大だがな」


 岩からずるずると降りてきた九龍は、元の位置に戻ってきたミツルの膝の間にすっぽり収まりそう返す。体力はゲームオーバー寸前。とは言え、猫感を隠す気は無いらしい。


「皆さんご無事なようですね。今、ヒールをかけます」

「ワタクシも何とか生き残りました。何とか()()が間に合って良かったです」


 『昏倒』から立ち直った二人も、そう言いながらそれぞれ起き上がる。あの爆発を食らってゲームオーバーせずに済んだのは、どうやらライトのお陰らしい。

 防壁魔法。防御力upの物とは違い、一定の負荷がかかるまでプレイヤーへのダメージを肩代わりしてくれるシールドを作る魔法。ありがたいことだ。


「オウルヒール!」


 フォックストロットがそう唱え、右手を目の前に掲げる。淡い若葉色の粒子が一行のまわりに集まり、減少したライフを補っていく。粒子が消えた頃には、ライフバーは五分の三程度まで回復していた。


魔力(MP)の都合上、今はこれが精一杯です」


 掲げた腕を下ろして、フォックストロットは申し訳なさそうにそう言う。次に使えるようになるまでは、少し時間を置かねばならない。


「いえいえ、ありがたいことです。それで、さっきの爆発って……」


 そうミツルが言おうとした瞬間、ドンと言う鈍い声を置き去りにして、開いた扉の向こうから空気を切り裂くような音が響いた。

 やはり間違いない。これは、


「皆伏せろ!!」


 九龍を抱えて地面に倒れ込み、ミツルは向かい側へそう叫ぶ。

 茶々丸達が回避の姿勢をとれたかどうか確認するその前に、再び爆煙が轟音と圧力を伴って広がった。

 間違いない、これは砲撃だ。どうやら一行は、まんまとはめられたらしい。そう考えれば、やけに鉱山の攻略が順調だった理由も頷ける。ミツルは思わず舌打ちした。


「向こうにはずいぶん頭の切れる奴がいるらしいな」


 爆音がこだまする中、腕の中で苦々しげに九龍が言う。どうやらミツルと同じことを考えていたらしい。


「ホント上手いこと考える奴もいるもんだな。性格わりぃぜ、全く」

「ミツル、友達になれるんじゃないか?」

「生憎語学は大の苦手でね」

「北京語なら教えてやるぞ?」


 二人がそんな不毛なやり取りをしている内に、爆煙が収まり始めた。続けて撃ってこない辺り、どうも大砲は一門しか持っていないらしい。


「お二人とも無事ですか?」

「おう、何とかな」


 薄くなった硝煙越しにミツルはそう返事しながら、次の一手を考えていた。

 このまま相手の弾が尽きるのを待つか? いや、怯んでる隙に途中で白兵戦に持ち込まれる。

 ある程度の広さのある空間だ。銃だなんだで取り囲まれたら、流石の茶々丸も敵わないのは明白だ。さて、どうするか。


「いっそ今から全部通報するか?」


 ミツルはボソリと呟く。大誠か信也に直接渡せば、直ぐに対応してくれそうなものだ。少なくとも、写真を撮ったプレイヤー達は戦闘に参加できないだろう。

 ……だが、それは何か禁じ手のような気もした。向こうも反則技を使ってきているのだから問題では無いのだろうが。


「お前あれだな。必要なら搦め手だって使うけど、極力強い相手には正攻法で勝ちたいタイプだな」


 腕の中から顔を覗かせた九龍が、見透かしたように笑って言う。


「良くお分かりなことで」

「私もネトゲ初心者時代はそう言うタイプだったからな」

「俺は初心者と同類か」


 体を起こしながら、自嘲気味に笑うミツルに「悪いことじゃないさ」と九龍が首を振る。


「初心忘れるべからず。熱いものがあるのは、それだけで美徳だ」

「なんかお前に褒められるとむず痒いな」

「それはお前が風呂入ってないからだ」

「生憎うちのアパートはシャワーしか無いもんで」


 そう言ってまた、二人は笑みを浮かべ会う。お陰でミツルも、煮立っていた頭がすっきり冴えてきた。


「奴らどうせ、あと何回かの内に白兵戦に持ち込むつもりだろう」

「それまでに砲手だけは何とかしたいな……お?」


 地面に再度座り直し辺りを見渡した九龍が、不意になにかを見つけてニヤリと笑う。


「なぁミツル。お前目には目を歯には歯をって言葉、どう思う?」

「はぁ? どう思うもなにも、俺のモットーだ。突然どうした?」

「あれ、見てみ」


 ニィっといやらしい目つきでミツルの方を振り返り、九龍は開けた扉の真正面。空洞の中央辺りを指差した。


「あれって、捕虜の落とし物だな。……って、お前まさか!」

「そう、そのまさかだ! それに丁度、おあつらえ向きなのが一個ある」


 九龍の人差し指が指すところには、一丁のスナイパーライフルが転がっていた。


「毒をもって毒を制す。ニホンのことわざにあるだろ?」


 さぁどうする? 伝説のジュードーマン。九龍の問い掛けに、ミツルは苦笑いしながらこう言った。


「お前のことわざ辞典に一個書き加えときな。勝てば官軍ってな!」


 ミツルは低姿勢のまま地面を蹴り、スナイパーライフルに手を伸ばした。

 三発目の砲弾が放たれたのは、その直後のことだった。

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